こだわりのスタイル
ガールズパブの女たちから聞き出したここらで一番「イケてる」服屋に俺たちはやって来た。
「お客様。本日はどのような……」
店に入って来た俺たちに機械的に頭を下げた店員が、頭を上げて俺たちを見て固まった。
「お、なんだ、てめえ、俺たちになんか文句でもあんのか、コラ?」
「お、おい、やめないか、君。すいません。ツレは道中ひどい目にあって少々感情がささくれだっておりまして」
「い、いえいえ。こちらこそ失礼いたしました。そのー、あまり拝見したことのないお召し物だったので」
店員の態度につい地が出てしまう俺をウィンが窘めると、店員は我を取り戻したのか回りくどい言い方で俺たちの服装にケチを付けてくる。
軍服を着て逃亡するほど、俺たち馬鹿ではない。薄汚れてはいるが、今着ているのはれっきとしたニームでの普段着である。
「なあ、俺たちが汚くて臭いから注目されてると思ってたけど、やっぱ俺たちの服装って変なんだな」
「ん? ああ、まあ多少汚れているな。しかし僕は香水を常備しているからな、匂いに関しては問題ないだろう。ここではこの服が変わっているという点に関しては同感だがな」
ひそひそと話す俺たちに、首にスカーフを巻いた涼し気な服装の店員は目を細める。
「て、てめえ、香水なんて持ってるなら俺にも使わせろよっ!」
「驚かせてしまい申し訳ありません。私たちは旅の殉教者です。この土地に来たのは初めてで、先ほどニーナさんという女性からこのお店を紹介していただいたのです」
「おや、ニーナ嬢のご紹介ですか、それはそれは、ささ、どうぞこちらへ」
ガールズパブの女の名前を聞いて安心したのか、店員の態度が軟化する。
「さて、本日はどのようなものをご所望で?」
「俺は一番ワイルドな――」
「二人とも一番オーソドックスな服でお願いします! 出来れば足元まで全て面倒を見ていただけると有難い」
「かしこまりました。ただいま見繕ってきますので少々お待ちを」
俺の望みをウィンが声高に遮ると、店員は店内を回って服を選び始めた。
「おい、何がオーソドックスだ。ワイルドな俺様があんな薄っぺらい生地の服切れるわけねーだろ」
「まったく……どうしてお前はそこまで馬鹿なんだ。ここで目立って俺たちに何の得がある。そういうのは自由国家連合に着いてから好きにすればいいだろう」
「はー、これだから坊ちゃんは。服にこだわりがない野郎は楽でいいな、ったく」
だがまあ、こいつの言うことも確かに一理ある。ここは妥協して、あのナヨい店員の選んだ服を着てやるとするか。どうせすぐに、こんな所とはおさらばするんだから。