ナンパという名の儀式2
「え? 私らに言ってんの? マジで?」
ヒュ~イな方の女は、両肘をテーブルに突き組んだ手の上に顎を載せながら、目だけを見開く。それだけだと、バッドサインだが、その声音にはどこか驚嘆の色がある。総合的には、決して悪くない反応だ。
「マジマジ、もし良かったらなんだけど」
「それにこっちの……食欲旺盛な彼女も」
ジャケットの男は、一心不乱にピマビーフのステーキを貪る小さい女に目を向ける。
今食べている皿の前には、平らげた後の数十皿、その横にはステーキの載った追加の二皿が置かれている。
「おい、ディー! 私らナンパされてるぞ」
ヒュ~イな女は、相変わらず肘を突いたまま小さい女に話かけるが、全く反応がない。まるで生死がかかったような食べっぷりを続ける女を見て、ヒュ~イな女は溜息を吐いた。
「悪いけど、止めとくよ」
「え~、そう言わずにさ。一般人じゃ入れないクラブとか――」
「あ~、そういうのいいから。私――男いるし」
普通なら、ここで引き下がるのが真のナンパ師だ。
モデル風の男もこれが仕事でなければここで引き下がっていただろう。しかし、これは仕事だ。本気で口説き、フラれるのがクライアントの要望なのだ。
「その彼氏幸せ者っしょ。君みたいな人と付き合えて」
「……そう思う?」
半ば諦めかけたところで、思わぬ反応が返ってくる。
「い、いやさ……別に付き合ってるってわけじゃないんだよ。私が勝手に好きっていうか……」
「え~~~っ!!! そうなの?? 有り得なくない? こんな美人が片思いとか!?」
「その男って何者なわけ? 他に女いるとか?」
「え、他に女……いるのかな……なんか不安になってきた」
不安。
女を落とすには、これに付け込むのはセオリーだ。察したジャケットが、援護射撃とばかりに追い打ちをかける。
「かなりのプレイボーイなんじゃね? モテるでしょその彼」
「めちゃくちゃモテる……かも」
「あー、それ遊ばれちゃってるね……」
「嘘……そういえば社長もそんなこと言ってたかも……」
どうやら、色々身に覚えがあるらしい。
この場合、これ以上相手の男を貶めるのは下策だ。飽くまでも第三者――中立の立場を貫く。
「まあ、男なんてそんなもんだって。そういう場合どうすればいいか知ってる?」
「……どうしたらいいんだ?」
「君もパーッと遊ぶ。そうすれば立場が五分になって、逆に上手く行くってのが恋愛術っしょ」
「そうそう、俺も彼女に浮気されたらやり返すもん。そしたら、不思議だよなあれ。なんでか上手く行くんだよな~」
「マジかよ……」
あと一押しで、少なくとも一緒に遊びには行ってくれそうだが、そうなっては仕事的には失敗だ。しかし、それはそれで仕方がない。全力を出すのがこの仕事の条件なのだから。
成功したらしたで、このヒュ~イな女と楽しめるのだ。
「あなたたち。その辺にしときなさい。それ以上この人をたぶらかすような発言をしたら、指を折りますよ」
いつの間にか、追加の肉を平らげていた小さい女が、口をナプキンで拭いながら二人を睨み付けた。




