52話 捜索
様々なことがあった土曜日も終わり、日曜日の朝。
俺は凪と一緒に朝から放送している変身ヒーローやヒロイン番組をのんびり見ていた。これといって趣味と呼べるものがない俺だが、たまに凪とこういう特撮は見ている。と言っても、俺は凪と違い、わりと飛ばし飛ばし見ることが多いのだが……やはり何だかんだと言ってヒーロー番組はけっこう面白くて何よりカッコいい。
本が好きな俺としては特撮の中でも特にシナリオの良さを重視する傾向があるので、そこの部分が面白い作品は見ていて楽しい。
「お兄ちゃん今日どうするの?」
俺の隣でアイスを食べながらテレビを見ている凪が訊ねてくる。
「街ブラブラしようかなーって」
「またぁ?」
「他にやることなんだよ。課題とかないし、ここにある本はあらかた読み尽くしたし。本屋か図書館でも行こうかな」
「えー、昨日も外でブラブラしていたんでしょ? 飽きない?」
「別にそういうことはないぞ」
毎日同じ場所をぐるぐる回るわけでもないし。
「凪は? 今日の予定」
「え、当然引きこもるけど」
「真顔で言うなよ……」
「用事もないのに外出たくないもん」
その気持ちは分かるけど……。俺だって外に行きたくない日はある。めちゃくちゃある。ただ今日は事情が事情だしな。
番組を見終えると、俺はソファーから立って。
「濯物干しと食器洗いどっちがいい?」
「んー、食器洗いで」
「りょーかい」
洗濯物も干し、朝飯も平らげ昼前になったので着替えて外出する。凪は食器洗いを終えるとすぐさま部屋に戻った。相変わらず夫婦2人は寝ているし、自由すぎるなこの家……。
で、俺はいつもの跡地に移動する。ここも変わらず暗い。もうすぐ昼になるのに高い木々のせいで光が当たらない。ロードと初めて会ったときを思い出してより不気味さが増す。
そんなとこに来た理由だが、人目がつかないというのが一番の理由だ。ここでの会話なら誰にも聞かれないだろう。マジで人いないからな。しかし、聞かれると不味いので小ありがたい。
万が一誰か近くにいても聞こえない声で話す。レーヴェならどんな声量でも俺の中にいるから届くのである。
「……レーヴェ」
『はいはい。どうしたの?』
「ナザリの反応はあれからあったか?」
『残念ながらない。まだ回復に努めているはずさ』
やっぱそうだよな。面倒なことこの上ない。
前までと同じ、1人では厳しいか。こうなったら素直になろう。
「はぁ……後藤さんに連絡するか」
『それがいい』
携帯で後藤さんの番号を……と。日曜日だけど繋がるかな。陽太郎さんたちみたいにまだ寝ていたり。普通に休日だもんな。
『んー、もしもしー?』
「黒江です。後藤さんですか?」
あ、繋がった。
『うん。葵、どないしたん?』
「いえ、あのですね、ロードの……ナザリの居場所を探ろうとしていて」
『あー、うんうん。手詰まりってところか。なるほどなるほど。それで、僕も昨日から色々探ってはいるんやけど、何か進展があるかって言われたらちと微妙なとこやな。……せや、今日こっち来れるか?』
「はい、大丈夫です」
『ならこっち来て。交通費出すから適当にタクシーでも掴まえ』
「分かりました。ではまた」
通話を切る。
……ここタクシー通らないよな。人気の少ない住宅街だし、通っていたとしても誰かが乗っている状態だろうな。モール近くまで移動するか。こういうときに限ってはなんか自転車ほしいな。あったらあったで何かと便利だし。安いクロスバイクならどのくらいするんだ……後で調べるかな。
そして、モールへ行く道中偶然乗っていないタクシーが通りがかったので乗らせていただきビルの近くまで送ってもらった。
領収書も貰いビルの入り口まで来たところで見覚えのある……というか昨日知り合ったばかりの人物がいる。
「お、葵さんじゃねーの」
「慶か。昨日振りだな。おはよ」
なぜかジャージ姿の慶がいた。お前……俺より私服けっこう適当だな……。
「今日はどうしたんすか?」
「後藤さんに呼ばれたし、俺からも色々訊きたいことあるしで来た」
「ほー」
「そういう慶は? 昨日もそうだけどこんな休日に」
誰もいないエントランスを通りエレベーターに乗る。
「まあ、ここは居心地いいからな。エアコンどんだけ点けても文句言われねぇしよ。俺のPCよりスペックいいや自由に使えるし」
「……なんだ、その、家族と仲悪いのか?」
「いや全くそんなことはないぞ。変な気遣わせたみたいだな」
「俺こそいきなり悪い」
「……ああいや、気にしないでくれ。家族との仲は良好だぞ。今日も友達の家に遊びに行くって行ったら快く送ってくれたし」
「……友達? ここのことだよな?」
無表情な女性と微妙に胡散臭いおっさんしかいないぞ。
「半分嘘で、半分ホントた。全部が全部嘘ってわけじゃねぇから、問い詰められてもどうにか誤魔化せる」
「そうかい」
と、慶とのんびり話ながら昨日も来た部屋へ足を踏み入れる。
「入るぞー、おっさんいるか?」
「おじゃまします」
勢いよく入る慶に続いて俺も部屋に入る。
見た目ビジネスビルなのにこの生活感溢れた部屋はどうも慣れないな。……あ、後藤さんいた。なんか大きいモニターのパソコンを必死に弄っている様子だ。
「お、葵も慶も来たか」
「どうも」
「慶、僕紅茶飲みたーい」
「おいコラ、少しは自分で淹れやがれ!」
ここに来て早々愚痴を垂れつつキッチンへ向かう慶。やっぱ悪い奴じゃないよなぁ。
俺はすることもないのでソファーに座る。
「葵さんは紅茶いるか?」
「あ、いい? ならお願い」
「おーう。ちょっと待ってろ」
「あ、葵。ちょっと来て」
今度は後藤さんに呼ばれたのでパソコンデスクへ行く。やたら大きいモニターだな。テレビくらいの大きさだ。スゴいな、こんなのあるんだ。
はてさて、モニターには何が写っているんだ……っと、これは?
「何の映像ですか?」
「監視カメラ。天生市中の市街地からかき集めただけ」
「いやだけって……」
なにそれスゴすぎない? え、監視カメラの映像ってそんな簡単に手に入るの?
「……えーっと、これどうやって?」
「昨日言うたやろ? かなり融通が利く便利な奴がおるって」
「ああ……言ってましたね。まだ会ってませんが」
性別も年齢も全く不明な人。
「今はここにおらんからなぁー。で、その便利な奴が天生市の監視カメラのアクセス権を持っていてな。僕はソイツのおこぼれ貰ってるだけだよ。スゴいのは僕じゃなくてソイツなんだよな」
さらっととんでもないこと言っているなこの人……。
「昨日葵の話を聞いてから急いでここ1週間くらいの映像をかき集めて葵の言うナザリってロードを探しているんや。こっちは独自の顔認証システムを作っていてな。えーっと、君がナザリと遭遇したのが月曜日、遥に尾行されてた日が火曜日、僕らと会った日が土曜日、そして今が日曜日。これで合っとる?」
「大丈夫です、合ってます。それでアイツは……見付かったんですか?」
「君が言ってた人物像と当てはまる奴は見かけた。コイツなんやが――――どう?」
大きいモニターに写し出されたソイツは――――パッと見は外国人の男。かなりの長身に金髪、そして、悪意に満ちているような紅い眼をしており、どことなく無邪気な表情をしている。どこかズレている狂気じみた雰囲気を放っている。
――――間違いない。あの日戦ったロード。
「ナザリ……っ」
「やっぱコイツが……か。そりゃ困ったなぁ」
「それでどこに? というかこの映像はいつの?」
「これは水曜日のやつやな。場所は……あの慰霊碑のある公園分かる?」
「はい」
まさかあそこに? 廃ビルからかなり離れているな……。誰にも見付からず、監視カメラに映らずそこまで移動できたのか。
「あの近辺やな。あの辺りってそれなりに住宅街やし、烏丸方面ほどじゃないけど、ここよりかは自然も多い」
「確かにそうですね。……それで、他の映像は?」
「残念ながらこれだけやねん。あの場からろくに動いてないのか……これはあまり考えたくないけど、もしかして監視カメラの存在に気付いたのかのどっちかやな。どれだけ探してもこの映像以降全く移っていない。カールから話を聞いた限り、あっちの世界に機械といった存在は全くと言っていいほどないはずなんやけどなぁ。後者の場合コイツは僕らが思っとる以上に頭いい奴や」
「マジですか……」
後藤さんが微妙って言っていたのはこのことか。手がかりはあったけど、確実ではない。進展したようでその実後退している感覚。……クッソ、面倒すぎる。
「……そういえば遥はどこに?」
ふと見渡せば見当たらない。隣の部屋にいるのかな。
「朝から慰霊碑近くを捜索しとるよ」
「え、1人で?」
調べる範囲が広大という問題ではなく、1人では危険すぎないか。
アイツは夢幻の壁を突破できる謎の力を持っている。それを連発できなくとも、現段階で使えなくても、それでも……それだけという小さい理由でナザリという脅威が過ぎ去ったわけではない。
「僕もそう思ったし、立場上けっこう遥を止めたけども。せめて葵と一緒にと。……しかしまあ、ロードがいると分かった以上遥はそう簡単には止まらない奴やからな。こればかしはしゃあない。ロードを殲滅させることこそ遠坂遥の存在意義――――最初に遥はそう言っていた。それに遥は葵や僕より多くのロードを倒している。その点は安心できるよ」
――――存在意義。それは昨日言っていた復讐心。復讐に呑まれている人を止めることは常人には難しいってことか。俺は止めるつもりはないがな。生きる意味を奪ってしまったら、自分がなぜそこに立っているのかさえ見失ってしまう。ある意味では殺してしまうと同義だ。
そんな無責任なこと俺にはできない。
「何かあれば連絡寄越すやろうし、とりあえずは遥待ちやな。ナザリがいなくても何か痕跡とかあるかもしれんしな」
「そうですね」
その後藤さんの言葉で扉について思い出したけど、あれを伝えるべきか迷うな。あのビー玉はナザリが落としたものだろうが、別にあれでナザリの居場所を突き止めることができるわけでもないからな。言わなくても大丈夫だろう。
「まあ、この街って市街地のそこら中に監視カメラあるわけではないですしね。モール周りは天生市の中でも都会ですしそれなりに数ありますけど、慰霊碑の方や俺の家の近くの市街地辺りはちらほらしか監視カメラありませんし」
「それもそうやねんけどなぁ。あとはあれや、建物内のカメラはさすがにないからな」
「ああ、なるほど。言われてみればそれは確かに。魔力使えば俺の契約しているロードなら正確に位置が分かるんですけど、ナザリは今大人しくしているだろうし、回復したとしてもあの性格からして無駄に騒ぎ起こしそうもないです」
「一番鬱陶しいタイプやな……」
2人して頭を抱える。
と、ここで慶がカップを持ってきて。
「しかめっ面してねぇで一旦紅茶飲んで落ち着けよ」
「ありがと」
「慶の言う通りやな。ふぅ、少し休憩するか」
ここでの捜索は打ちきり、俺らはティータイムに入る。ああ、美味しい……。紅茶の種類は詳しくないけど、いい茶葉なんだろうな。それとも慶の淹れ方が上手なんだろうか。いや、両方かな。
「ところで昨日今日とここに来てるけど、親御さんからは何も言われてないか? そこんところ大丈夫?」
「大丈夫ですね。休日は適当に街中ブラつくこと多いんで怪しまれてはないです」
「オケオケ。ここに来てくれるんは助かるけど、無理したらアカンで」
「はい」
紅茶も飲み終わり、一息ついたところで。
「とりあえずもっかい片っ端から調べ直してみるわ。ナザリの顔も改めて分かったし、見落としてるところあるかもしれんしな。いくらシステム作ったと言っても僕の腕じゃ完璧とはいかへんし。……慶はどうする?」
「俺はここでボーッとしとく。用事あるなら言ってくれ。葵さんは?」
「……一度遥と合流しようかなと。短い時間でしたが、ナザリの顔は見ているんで遥だけが探すよりかはマシになるかと思います。それに1人よりかは2人の方がまだ可能性あるので」
さすがにあそこ全部1人で任せきりというのもなかなかキツいだろう。
「ん、分かった。車でそこまで送るわ。まずは遥に連絡してと……」
…………しかしまあ、まだあまり話したことのない遥と一緒に行動か。緊張する。
なかなか話が進まないのはご勘弁を……




