27話 いよいよニケロの街へ
それから夜が明けて翌日。
予定だと今日の夕刻にはニケロに街に着けるはずだったが、どうやらそれよりも早く到着できそうだ。
というのも、荷車に乗ったおじいさんがたまたま通りかかり。
「子連れで歩きたぁ大変だろう、ニケロの街へ行くならついでに乗っていくか?」
そう言って親切にも乗せてくれたのだ。
うーん、人の情けがありがたい。
おかげで早い時間にニケロの街へ到着できて、宿探しが楽になる。
日本でだって、暗くなってから慌ててホテルを探しても、部屋が空いていなかったりするもんな。
そんなことを考えながらも、僕はおじいさんと世間話をしている。
「そうかぁ、遠くから旅をねぇ。そりゃあ大変だ」
「ははっ、レイはいい子ですし、いい出会いもありますから」
その横でレイが足をブラブラさせて荷車からの景色を眺め、その隣でシロが毛づくろいをしていると。
「そろそろニケロの街が見えてくるぞ~」
おじいさんが前方を指差してそう告げたので、僕らは揃ってそちらを見る。
すると遠くに現れたのは、壁に囲まれた街だった。もちろん、リンク村よりも断然広い。
――うーん、街は壁で囲まれているパターンかぁ。
昔の地球だと街を壁で覆う理由は、主に戦争対策だったようだが。
ここは狂暴な魔物がいる世界だから、それらから住人を守るためにも頑丈な壁は必須なのだろう。
その壁に取り付けられた大きくて頑丈な扉の前に、数人の兵士のような格好の男たちが立っている。
どうやらあそこから街へ入るようだ。
おじいさんは、荷馬車を扉のあたりにつけてくれた。
「どうもありがとうございました!」
「……ありがとござました」
僕がお礼を言うと、レイも真似をするものの微妙に言えていないのがなんとも和む。
「いいってことよ、困った時はお互い様だぁ」
おじいさんはそう言ってニカッと笑うと、手を振りながら荷車を走らせ去っていく。
どうやらこの街のまだ向こうの村へ行くところらしい。
こうして荷車のおじいさんと別れた僕たちは、兵士の一人に呼ばれた。
「おいお前たち、この街へ入るのか?」
「はいそうですけど」
「身分証などは持っているか?」
僕が質問に頷くと、ガイルさんに聞いた通り、身分証について聞かれる。
やっぱりいるのか、身分証って。
「いえ、持っていないんです」
「そうか。身分証がない者は、入るのに一人銀貨一枚な。
ああ、ペットの分は要らないぞ?」
兵士がわざわざペットの事を言ってくれたのは、レイがシロをずずいと掲げて見せたからだろう。
僕は事前にレイに対して、街へ入るのに検査や通行料がいることを説明している。
そうしないと理不尽な要求をされていると勘違いして、うっかり敵判定しかねない。
そうした流れから、「だったらシロの分は?」とレイなりに考えたのだと思う。
「シロの分は要らないってさ、ちょっと得しちゃったね」
「とく」
僕がそう笑いながら言うと、レイはコックリと頷いて、シロを地面に降ろした。
「こっちで一応照会するから、来てくれ」
兵士に手招きされ呼ばれたので、僕らは大人しくそちらに向かうと、門の横にある扉に通された。
中は兵士の詰め所になっているようで、簡素なテーブルと椅子が置いてある。
「じゃあ、ちょっとじっとしていろよ」
兵士がそう言ってなにかを扱うと、僕とレイに光があてられる。
なんだろう、写真撮影の光に似ている気がするんだけど。
それから兵士は、手に持っているものを覗き込む。
それは石板のようだが、材質が石ではない。
というか、あれって機械?
もっと言えばタブレットに見えるんだけど?
「あの、なんですかそれ?」
素直に疑問をぶつける僕に、兵士さんは朗らかに笑った。
「ああ、初めて見るのか?
これは遺跡から見つかった古代遺物を利用しているものでな。
遠い場所とも手紙みたいなのが瞬時にやり取りできるっていう、すげぇ便利なものだ」
兵士はそう言いながら、そのタブレットみたいなものを見せてくれる。
そこには僕とレイの姿が、まさに写真のように写っていた。
リンク村だとファンタジー世界まんまだったけど、やっぱりあの最初に見たコンピューターのようなものは、ちゃんと存在しているんだな。
手紙みたいなものとは、メールのことだろうか?
「じゃあ、ちょっと質問するぞ」
兵士はそう言って僕たちに簡単な質問をすると、答えを聞く都度タブレットに聞き取りして得たデータを入力している。
なるほど、これで情報を各地で共有するのか。
きっとどこかにメインのコンピューターがあるんだろうな。
だったらそのタブレットがあのコンピューターの仲間みたいなものだとしたら、もしかして鑑定で見れるようなステータスとかがタブレットで見れないのかな?
「それで、スキルとかは見れないんですか?」
僕の疑問に、兵士はきょとんとした顔をした。





