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長い夜を耐える

 月明に水が煌めく。

 ファラは蒼く清静(せいせい)と冴える月光を避けるように木の影に身を隠し、満ちた月を鏡映しに湛える水面を見つめながら、独り翠緑苑(コメ・ムヤ)の池の縁に佇んでいた。

 深更の夜気は冷え冷えと張り詰め、ファラの白い肌に責めるようにひりつく。彼女は自分の肩を抱き、胸の内からじわじわと湧き上がってくる震えに必死に耐えていた。

 この夜を過ごして五日目になる。

 ファラは一縷の望みを胸に、この夜に耐えていた。


(もし彼が――)


 それは彼女の儚い願望であった。


(もし彼が、私のことを少しでも想い――)


 自分が彼に抱く想い。これと同じものが少しでも彼にあったなら、あの手紙が彼の目に触れる。


(そして彼が、私と会うことを少しでも願ったら――)


 彼に会いたいという願い。これと同じものが少しでも彼にあったなら、あの手紙が彼をこの場所に導く。


(ここに彼が――)


 それは限りなく微小な可能性の夢想に思えた。恋する小娘の都合のよい願望に過ぎなかった。通じ合えぬ想いなど、自分が歌ってきた悲恋の恋歌のようにいくらでもあるものだ。何度となくそう思いながら、けれどファラは諦めることができずに、こうして独りの夜の冷たさに耐えていた。


(――でも)


 しかし、夜は長い。

 蒼煌(そうこう)の満月がもたらす陰影は(うろ)のような深い暗闇を生み、世界を蝕むように翠緑苑(コメ・ムヤ)の木々の隙間に広がっている。


(来ないかもしれない)


 何度となく重ねたその不安は、夜が明ける度に色濃く胸に沈み溜まり、重い(おり)となって彼女の心を冷やしていく。

 そして、五日目の夜。


「――会いたい」


 耐え切れないように漏れ出たその呟きが、満ちた寂漠を溢れさせる一滴となる。

 ファラのまなじりから涙が流れた――。


泣いているのですか(ワカァケェイ・ラ)?」


 その声は、いつも不意に訪れる。

 振り返ったファラは、梢から漏れ射す月光の下に、その少年の姿を認めた。


あなたはいつも(カン・カティ・)泣いている(ワカァケェイ)


 鳶色の瞳に月の明かりを穏やかに映して、少年はそう微笑みながらファラに手を差し伸べる。


痛みは(ナナ・)いたわるものですよ(ジャンピ・ティヤン)


 ファラは涙を拭い、差し出されたその手を――ムガマ・オ・トウリの手を掴んだ。

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