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届かぬ声

「おい」


 ファラが眠りに就くのを見届けて、自分の宿所に戻ろうと廊下を歩くルントゥを呼び止めたのはサタハであった。


「なんですか」


 ルントゥは目をすがめて睨むようにその顔を見る。彼女は常に軽薄を身に纏った態度のこの男のことが好きになれなかった。そしてその感情には、自分に理解できない言葉でファラと話をしていることも含まれる。嫉妬である。

 しかし、このときのサタハに普段の軽薄な様子はなく、ルントゥの敵意ある視線に怯むことなく彼女の肩を掴んで言った。


「昼に見たぞ」


 その手を払う間もなく、サタハが真剣な顔で、ルントゥを責めるように迫ってくる。


「お姫様がムガマ・オ・トウリと会っているのを」


 ルントゥはその言葉に眉を上げると、身をよじってその手を振り払った。そして落ち着きを求めるように深く息を吐いてから、鋭いまなざしでサタハの顔を見返した。


「それを知って、どうするおつもりですか」


 毅然と拒絶を示すその態度に、サタハは勢いを削がれたのか呆れたように眉をひそめ、息を吐きながら軽く首を振った。


「……どうもしないさ。だが、お前こそ――」


 そこで問うようにサタハの目がルントゥを見据える。


「教えてやりはしないのか? あの少年は――」


 その言葉の続きをルントゥは知りながら遮った。


「ムガマ・オ・トウリ様は、(あまね)く愛ですべてを御救い下さいます」


 断言する。それ以外の答えを彼女は認めなかった。だからサタハの言葉を遮り、揺らぐことなくその視線を見返した。

 そのルントゥの答えに、サタハは皮肉めいて鼻を鳴らす。


「信仰があればな」


 そして事実を突きつけるように言った。


「だがファラーレはただの恋する小娘だ」

「私は信じております」


 しかし、ルントゥは即答する。


「……そのためなら」


 その言葉を口に出して、あらためてルントゥは思った。自分は誓わなければならない。彼女がどれほどに傷つき、痛めつけられ、孤独に沈むことがあろうとも、自分は彼女のためになら――。


「――この身を捧げましても」


 この言葉にルントゥの覚悟を見たのか、サタハは諦めにも似た息を重く漏らすと、廊下の外へと目を逸らし、そこに広がる星空を見上げた。紫雲のごとき星々の河が音もなく夜の空を流れている。


「ムガマ・オ・トウリか……」


 呟く。しかし、その声は星の瞬きよりも小さく、星の河へと届くことなく夜の闇に消えていった。


「俺の心は救わなかった」


 けれど、その声はルントゥの耳に確かに届き、彼女は立ち去るサタハの背中を、固く手を握り締めながら見送った。

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