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カンパ・ムナイ

「熱心だな。話をしたい相手でもできたか?」


 ムルカ語の授業の最中、サタハはファラにそう訊ねた。以前は仮面でも張り付けたような反応の薄い顔で、義務的に授業を受けていた彼女が、ここ最近は何度も自分から質問をしてくるようになったためだ。


「ほお。そんな顔もできるんだな」


 一瞬、虚を突かれたように目を丸くしたファラが、問い掛けを肯定するように、はにかみながら目を伏せた。その表情の変化に、サタハは軽い驚きとともに愉快さを覚えた。年相応の少女の顔がそこにあったからだ。


「華やぎがあるな」


 雪の冷たさで自分を覆い隠したような印象のあったファラに、今は草木の芽吹きのようなあたたかさを感じる。この雰囲気の変化の理由に当たりをつけたサタハは、意地の悪い笑みを浮かべ、ファラの耳元に口を近づけて訊いた。


「恋か?」


 ファラはサタハを押しのけ、その顔を睨み付ける。


「悪い悪い、からかうつもりはなかったんだ」


 サタハはニヤニヤと笑いながら肩をすくめ、誠意の欠片も感じられない謝罪を述べた。不服そうなファラ。その様子にサタハはますます愉快になり、声を上げて笑う。


「自分の立場ぐらい知っているわ」


 笑い声を断つように、ファラが言った。その一瞬でうつむいた顔に差す影が、少女の表情を冷たく、閉ざしたものへと変えていた。サタハが鼻を鳴らす。


「身と心がいつでも同じでなければならない訳じゃない」


 そう口にしたサタハの顔から、冗談の気配が消えていた。彼は困惑するファラの目をまっすぐに見つめる。


「いじけるな。自由は尊い。特に心の自由はな」


 自分の胸に手を当てて、サタハは静かに言った。その仕草に誘われるようにファラも自分の胸に手を当てる。そして何かを確かめるようにその手をぎゅっと握り締めた。

 その様子を見て、ふっと笑ったサタハは、そこで「あっ」と何かに気づいたように手を叩き、わざとらしい演技をして言った。


「でもそうか。なら、いい言葉を教えておいてやるよ」


 一転した軽い口調に、サタハを胡乱気(うろんげ)に見つめるファラ。彼は動じることなく、芝居がかった挙動でひとつ大きく深呼吸すると、ゆっくりと口を動かして、一語、一語、噛み砕くようにして、その言葉を少女に教えた。


「――カンパ・ムナイ?」


 教えられた言葉を口の中で繰り返し、どういう意味かと目で問うファラに、サタハはもったいぶった言いぶりで答える。


「あなたを、愛しています――」

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