閑話 再開、或いは始まりを告げる使者
短いですが、第二部の始まり。その前夜的な話です。
或いは チュートリアル終了のお知らせ。
そして現れたのは────
-fate Free-
そこは廃墟だった。
何らかの大きな力により崩れ、放置された場所。それがいつから打ち捨てられたままかは測ることは難しい。何故ならこの場所は破壊された当時から一切風化していないのだから。
そう、まるである手段以外で一切の損傷を受ける事の無い、あの場所のように。
その廃墟の一角には円卓が鎮座していた。直径3メートルほどの黒檀のような材質で造られたそれもまた、土埃を纏いはするものの風化による損傷は全くない。そして等間隔に囲むように置かれた10の椅子のうち、今、二つに人影があった。
共に女性。
一人は十代前半にしか見えない少女。もう一人は二十代前半の妖艶な美女だ。共に椅子に座ったまま眠るように目を閉じ、音を発しない。整った容姿、退廃的な風景は忘れ去られた人形と錯覚させるかもしれない。
二人が何時からそこに在るかを示す者は無い。時折崩れた隙間から吹き込み、音を奏でる風が決して時が壊れたわけではないと主張する。
そんな長くも短い停滞。
その終わりを告げるべく、少女がゆっくりと瞼を押し上げ、それから周囲を見渡した。
「うっわ、人を招く所じゃないにゃね」
静寂と静謐と、どこか神聖めいた空間をぶち壊す軽い声音。
次の瞬間巻き起こる風が円卓に、床に降り積もった土埃の一切を吹き飛ばす。それは卓を挟んで真正面に座る女性へと吹き付けるかに見えたが、その直前で風が割れ、美女を土埃でデコレートすることは無かった。
「わざと?」
「寝たふりしてたからにゃよ」
うっすら瞼を上げた美女は、白磁のような美貌を僅かにも歪めることなく、正面の少女を睥睨する。
「それで?」
「言う必要ある?」
「……無いわね」
少女は勢い良く立ち上がり、美女もまた優雅にまるで立ち振る舞いのお手本のように椅子から腰を上げた。
「急いているように見えるわ」
「どこ探しても居ないと思ったらこんな所にいたんだもん。早く挨拶したいにゃ」
ゆらりと、赤い二本の尾が揺れる。その動きは楽しげな表情とは裏腹にどこか剣呑さ匂わせる。
「そう。縁があるのね。羨ましい」
「羨ましい?」
「ええ。無い物を持っている。それはどうしようもなく羨ましい、妬ましいものだわ」
「あー、分かる分かる。そうにゃよね。自分は持っていない物って無性にほしくなるよね。
近い相手なら猶更」
美女は微笑む。少女は嗤う。
「殺し合いはいずれまた」
「ま、アンタとはかち合わないと思うけどね」
「そう?」
少女は無防備に背を向け、朽ちた戸へ向かって歩き出す。
美女はその背をじっと見つめる。
「そうね、貴方となら仲良くやれそうだわ」
「にゃは……仲良くなったら自分の物にしたいクチでしょ? 永遠に」
「同類憐れむ、よ」
「あちしは『そこ』に留まる気は無いけどね」
「影ながら応援するわ。だから教えて?」
少女の足が止まり、美女は薄い笑みを浮かべて言葉を続ける。
「何をするつもりかしら?」
「ふがいない先任者の尻を叩くと良い具合な事起きそうだにゃって」
「……ああ、そうね。楽しそう」
「命が失われることが?」
「違うわよ?」
美女は天井を見上げる。吹き飛ばされた一角から垣間見えるどこまでも深い青空。余りにも不快なそれを心から堪能し、美女は笑みを濃くする。
「彼らが失って私は失わない。そうなるという事よね?」
少女は苦笑し、歩を進める。その姿が視界から消えたのち、美女もまた霞のように消えた。
そして動き出す。
彷徨う者たちが一斉に一点を見据えた。
そこに言葉は無く、理解は無く、望みも願いも、理由の欠片も無く。
ただ、そこに在るべき未来に引き寄せられるように。
目覚めの胎動。
呼応した、『怪物』達は動き出す。
少女は嗤う。
廃墟の上、足をぶらぶらとさせながら楽しい騒乱の幕開けを眺めて。
そして─────
「こんにちは。
あなたが『目』ね?」
美女は微笑む。
『彼ら』に贈り物を携えて。
そして現れたのは、作者的にも呼んじゃダメな連中だと思います。
がんばれクロスロード。
次回とりあえずの目標100話である意味本編スタートです。




