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●五章-12.挿話:フィールドモンスター討伐戦(後編)

今日の室温40度達成

体温計のスイッチ入れて机に置いたら39.5℃とか示しやがりました。

これ使ってずる休みできないかry


※前回のあらすじ

・ゴーレム倒さないと逃げられないかも?

・とりあえず攻撃攻撃攻撃!

-fate Free-




「ゴーレムまでの推定距離50メートル地点にてアカイバラノヤリでの鑑定に成功。

 対象の物理属性無効を確認!」

「エリアは中心から700メートルまで拡大しています!」

「二班に分けて交代で前線を下げる!」


 元帥の言葉にスタッフ達は賛意と困惑を示す二者に分かれた。


「ゴーレムは未だ攻撃の予兆なく、立ち上がろうとしているだけです。

 後退をすれば攻撃の密度や威力の低下は免れませんが……」

「ゴーレムの膝を砕くまでの推定時間は?」

「使用回数制限、残弾数による攻撃力の低下も踏まえて5分。撤退行動をするなら8分と推測します。

 前線を下げるなら、攻撃能力の低下した者を優先し、エンチャントや予備武器を支給する事を提案します!」

「宜しい! 通知を出せ」


 これ以外にも逐次情報が指揮車で交わされ続けている。その情報量は科学と魔術による様々な手段から搔き集められることから莫大だ。それらの中から重要な物を選別し、脳裏に戦況を描いていく。

 その間にも探索者たちとゴーレムの間には隙間が無いほどの火線が渡され、爆発音が重なりながら耳朶を打ち続けていた。


「ゴーレムが完全に動き出す前に倒すのが最良ではないのですか?」


 困惑側の反応を見せた側、副官役の言葉に元帥は迷わず首を振り、否定を示す。


「これだけの攻撃を集中させて一部分の破壊すらできていない。胴部や頭部の破壊となればこの戦力では困難でないとはいえ相当の時間を有するだろう。

 また、セオリーとして膝の破壊を狙っているが、あのサイズの胴体をあの足で物理的に支えることができると思えない。つまり何かしらの力が働いている可能性がある。

 最悪膝を砕いたら上半身が飛ぶ、という事もあり得るのではないか?」

「それは……しかしそんな事を言い始めたらキリがありません!」

「その通りだ。だから何か起こった時に対処ができるように距離を取る事を選択した。

 そして脱出可能なら即時総退却。それが今の私の方針だ」

「マジョノミツメが働くことも確認できました。可能であれば撃破を目指した方が確実では?」


 対象の損傷具合を測るマジックアイテムの名を出し管理組合員の一人が問いかける。


「改めて言っておく。前提として探索者の被害は最小限に留めなければならない。

 決死を指示する権限は我々に無く、それを順守する義務が彼らに無い。

 あくまで傭兵雇用の範囲内である」


 この車両に居るほとんどの者は管理組合員だ。その言葉は探索者達よりも明確に理解している。

 故にそれ以上の言葉は不要と元帥は戦況分析に戻るべくゴーレムを見据えた。

 攻撃を開始してからというもの、少しずつ前線を後退させているだけ。一方的な攻撃をしていながら『膠着状態』と言える状態だ。戦争に措いて膠着状態というのはどちらがその状況を崩す一点を繰り出すかが鍵となる。そのまま雪崩のように終局へと向かう事も多い。無論、打った一手が悪手となり、自軍を崩すこともままある。最良の一手、その切っ掛けとなる予兆を見逃すまいと元帥は思考を情報の海に沈める。

 それから一分。

 

「報告! 前線よりゴーレムの足元で蠢く影を見たという報告があります!」


 眉が跳ねた。


「落下物や流れ弾ではないのか?!」

「不明です。こちらでも調査します!

 あ、いえ、確認できました! 人間種サイズの石、或いは土のゴーレムです!

 数、目視できるだけで200前後!」


 誰もがその場所を慌てて確認し、双眼鏡を手にしている物は驚いて目に当て、その個所を凝視する。


「白兵戦準備! ただし決して攻勢に出るな。あくまで攻撃部隊の護衛だ!」


 状況が変わった。変化はあちら側から。対応を間違えるわけにはいかない。


「通達します!」

「あれはゴーレムが生み出しているか、判断ができるか?」

「解析していますが……観測している限りゴーレムを構成する岩ではないようです。

 色合いから荒野の土に見えます」


 まるで地面が波に変わったかのようにゴーレムの足元から起き上がり、押し寄せてくる土色のゴーレム達。その情報を受けてエンチャント待ちやサポートに回っていた探索者達が武器を手に身を翻す。


「物理属性も有効。耐久力もそれほどは無いようです。

 ただ、数が……次々と発生しているようです」

「余っている物理属性の兵器を全部叩き込め。とにかくゴーレムかエリアに変化があるまでは現状を維持したい」


 ゴーレムは衝撃に上半身を揺らしながらもすでに中腰まで立ち上がっている。攻撃の効果は間違いなく出ているが、攻撃でその挙動を遅らせることが出来ているかは分からない。


「ゴーレムの膝に大規模な亀裂が発生!」


 指揮車両からでも目視できるほどの亀裂。

 気付いた探索者達からも小さな歓声が上がる中、元帥だけは振り返ってエリアの確認をしているスタッフに報告を求めるが、首を横に振るだけだ。


「どうやらエリアの拡大は一キロの地点で止まったようですが、未だ脱出はできません」

「倒すまで出られないのでは?」

「……その可能性が一番高いか?」


 科学系世界出身の元帥としては魔法関係の道理、通例は詳しい者の意見を求めるのが妥当だ。近くのスタッフを見渡す限り、賛同する者が多いようだ。もしそれがまごう事無き事実であれば、なりふり構わない全力攻撃が最善手なのだが。


「元帥は何を心配しているのですか?」

「今までここに踏み込んでしまった探索者達の死因が分からない事だ」


 その回答に疑問を浮かべる者も居るが、これまでゴーレムは何一つこちらに被害を与えていない。閉じ込めただけだ。


「死体が見当たらない、と言い換えてもいい。

 相手が生物なら喰ったということもあるだろう。しかし相手はストーンゴーレムだ。

 腐敗するにしても装備品のかけらの一つがあってもいいはずだ。

 その上あの挙動の遅さ、出られなくなった後に死んだとしても、1つくらい外縁に遺品があっても良いと思わないか?」


 交わされる視線。しかし誰もその答えとなる仮説を口にできない。

 このターミナルでは怪物を除いて原生の動植物が見つかっていない。菌も含めてだ。ターミナルで物が腐敗する理由は主に来訪者が持ち込んだ腐敗菌がこの世界のルール下で同一と認識され、活動をしているからと推測されている。返せば、来訪者が居ない場所では風化こそすれ腐敗はない、探索者の遺体ならばその体に付着した分から始まり、乾燥したこの場所では非常にゆっくりとしたものになる。


「勿論全滅した後にすべて消失する可能性もある。この荒野に何一つ目印になる物がない理由が関わっているかもしれない。

 だが、その解となる突拍子も無い事が起きるのではないかと考えている」


 未だゴーレムは立ち上がろうとしているだけ。新たに出現した小型ゴーレムの波にでも攫われ地面の中としても観測班がその痕跡を見つけてもおかしくない頃合いだ。


「とにかく接近せずに攻撃を継続。もしエリアからの脱出が可能になったら、その段階で総退却だ。いいな?」


 元帥を除けばこの場で一番権限が強いのは副官役のエルフだった。判断を仰ぐ視線の中、彼女は数秒黙り込むと「わかりました。判断に従います」と通る声で応じる。


「助かる」

「いえ、我々も探索者の被害を極力減らすように指示を受けていますから」

「……最初から威力偵察のつもりだったと?」

「そのような意図は言葉でも、ニュアンスでも出ていません」


 「そうか」とだけ呟き、前を見る。


「小型ゴーレムが護衛の白兵部隊と交戦を開始。やはりそこまでの脅威ではないようです。

 ゴーレムは土からできたマッドゴーレムの模様。倒された後は土に戻るようです」

「コアとかそういうものは?」

「報告にはありません。一定以上のダメージを受けると壊れるようです」


 遠方でも再び役目を得たロケットランチャーの一撃で吹き飛ぶ土が見える。マッドゴーレムは気持ち悪いほどに湧き出続けているが、今の所、数を揃えた探索者側の脅威にはなっていないようだ。ここまで弱いと逆に気持ち悪い。


「ストーンゴーレムの右膝に巨大な亀裂発生。崩れます!!」


 悪い予感が重なり続ける中、ズ、とも ゴとも聞こえる石と石との摩擦音が一際大きく戦場に響く。それが次第に加速していく光景に、探索者達は攻撃の手を忘れ、目を奪われていた。


「耐衝撃!! 物陰があるなら隠れろ! マッドゴーレムとの戦闘中の者は一旦離脱! 急げ! 支援攻撃!」


 元帥の怒声に探索者達が我に返った直後、胴体が崩れ落ち、地面を打つ音と共に大地が大きく揺れた。直下型地震のような縦揺れに身を屈めるのが間に合わず盛大にひっくり返った者が続出し、揺れに耐えた者も続く爆風とも言うべき土混じりの暴風に吹き飛ばされ、前後不覚に陥ることになる。


「被害確認! マッドゴーレムが吹き飛ばされている。注意しろ!」


 元帥らの居る指揮車両は様々な機材を積んでいる事が幸いし、ひっくり返るような事もなかったが、今回のために持ち込んだ資材などが車内を暴れまわり、出血している者も居た。魔術砲撃隊に至っては車両の上に立っていたのだから地面に叩き落とされて一際大きな損害を受けている。そんな中でマイクに縋りつき、元帥は声を飛ばす。


「エリアも確認! どうだ!」


 精霊系や多足で揺れや衝撃に強い探索者達がフォローに動く中、元帥の問いには数秒の時間を置いても返答がない。立ち直ったスタッフの一人が指揮車から出て走る。


「あれ? か、確認していたスタッフが居ません!」

「居ない? そのままエリアの外に走れ!」


 エルフの副官役が何かしらの魔法を外に出たスタッフに掛けると、彼は人間種とは思えない速度で外縁へ向けて走り始める。

 そしてある地点で不意にその姿が消失した。


「……総員撤退せよ! 管理組合スタッフは外縁部まで後退。魔術砲撃隊は申し訳ないがその地点から撤退支援、ゴーレムでなくマッドゴーレムの追撃を妨害せよ!」


 ゴーレムが倒れたという事実とその喜びを表に出す前に冷や水を浴びせかけられるような言葉に戸惑う探索者は非常に多い。しかし一部の、元帥と同じく嫌な予感に苛まれていた者達は即座に「撤退だ!」と声を上げ一目散に外縁へと走り出した。

 一人二人が臆病風に吹かれるならば別だが、そういった判断の出来た者は一目置かれるほどの力を有した者達だ。彼らの行動に疑問を覚えながらも従う者が現れると、流れに乗る者が次第に増えていく。


「急げ! 今なら脱出可能だ! 急げ!」


 納得できないと足を動かせない者も当然居るが、構っていられない。元帥は小型の拡声器を手に指揮車両から降りると運転手にエリアからの脱出を命じる。


「元帥!」

「エリアから出れば声が届かん。残るのも俺の仕事だ」

「一番適切な報告ができるのは貴方です。次のための撤退と言うならばそこまで果たしてください」


 副官役の強い言葉に元帥は目を丸くし、苦笑を作って誤魔化す。


「その通りだ。

 ……外縁まで退く」


 改めて乗り直すのは格好がつかないと思いながらも、そんな場合でないと指示を飛ばしているのは自分だ。敗戦の将なら掛けるだけ恥をかいておこう。


 前線部隊の撤退。支援スタッフの撤退まで魔術砲撃は続けられた。その向こうで膝を砕かれたストーンゴーレムは未だ土煙の中で姿が良く見えない。


「少しずつ沈んでいませんかね?」

「……そう、見えますね」


 双眼鏡を持つスタッフの言葉も盛大に巻き上がった厚い土煙の向こうの話は推測しかできない。倒したのでは、という期待も過ぎるがもう一度立ち上がるために姿勢を整えているだけかもしれない。


「前線、支援部隊のエリアからの脱出を確認」

「魔術砲撃部隊も撤退。我々も退くぞ」


 魔術砲撃隊はトラックなどの荷台に居る。そのままバックでエリアから抜けていく中、彼もまた指揮車両がエリアの外へと運び出していく。


 境界を超える一瞬。


「……あれは?」


 次第に薄くなる土煙の中、一瞬見えた物を再確認することは叶わなかった。

 しかし、見間違いと断じず、可能性の一端として伝えられたその報告は討伐部隊の敗戦と共にクロスロード中に知れ渡ることになる。



 『速報』

 ストーンゴーレムの正体は救世主?

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