●三章-3.エルフの研究者
一日で2話分書いて、10日書き直しに悩みました。
前にも前書きに書いたけど、結構余計な事を書く癖があるのが難点。
※前回のあらすじ
・少女に攫われて穴の中へ
・シノをぶん投げて100メートル以上離れるのは回避
・地下の研究者達に救助?される
-fate アキヒト-
「……」
「……」
言葉を失うシノと言うのも珍しいが、驚いてというよりも表現に困ってという感じだ。
無理もない。俺すら余りの光景に言葉を失っていた。
通路の半分を埋める『何か』の山。置く場所が無いからと設置された物の上に無理やり別の物を置いてを繰り返した結果、前衛的なオブジェクトと化した何かの群れが廊下を埋めている。
「……ゴミ捨て場、じゃないですよね?」
「通路だよ。通路だった、と言うべき惨状だけどね」
床でも天井でもとりあえず付けてしまえとばかりに空間を食いつぶした謎の物体の数々。砲塔らしき部品を備えた物が多いのでやはり武器なのだろうが、碌に射線がとれていない。
「みんな好き勝手に置いているからね。この様子だと大半は性能を発揮する前に潰し合いそうだ」
「……協調性のかけらも無いって感じですね」
「無いよ。ここは個人主義の集まり……もとい吹き溜まりだからね。
各世界から爪弾きにされるような異端が見つけたオアシスがこの場所さ」
世間に認められるような凄い開発者なら自分の世界で活動している。返せば異世界まで来て研究している人々はそれ相応の理由があるという事か。
「全員が全員ではないけど、十中八九そうだね」
「あなたもですか?」
付いておいでと歩き出した彼の背にシノが問いかける。
エルフさん……えっと────『ダティアマーカ氏です』────PBさんいつもありがとうございます。ダティアマーカさんは意味ありげな薄い笑みを横顔に浮かべた。
「その通りだ。
いろいろとあってね。……逃げてきた身だよ」
「あなたは……使徒ですよね?」
「そうだよ。君と同じ、ね」
同じ、という言葉にわずかな反応を見せ、エルフの背を見上げるシノ。それに気づいたのか首だけを巡らせた彼は、しかし「コーヒーで良いかい?」と話題から逸れた言葉を口にする。
見れば右手側の壁の一部が引っ込んでおり、そのスペースに自動販売機が詰め込まれていた。
……奢ってくれるってことか?
どう対応したものかと悩んだが、素直に応じておくべきか。
「はい。あ、一つは甘いので」
俺の返答に彼は「了解」と愉快そうに眼を細め、いくつかのボタンを押す。俺の知っている自動販売機とそっくりの形だが町では見た覚えがない。取出口から拾い上げた缶もよく見知ったサイズだ。
三本の缶を手にした彼は、そのまますぐ近くの扉の前に進む。自動ドアらしく扉が横にスライドした。
「どうぞ」
「……はい」
そこが彼の部屋らしい。ほんの一瞬警戒心が働いたが管理組合管轄のこの場所を借りられている以上、最低限の信頼はしても良いだろう。それ以上にあの良く分からない物体が山積みの通路に居る方が危険な気がする。
足を踏み入れると六畳間程度の部屋だった。それほど広くない、というのが第一印象。元々本を読むためだけのスペースだというのだからそう考えれば広いというべきか。或いは用途を変えた時点でリフォームしたのか。
目立つのは人間一人入れるサイズの筒状のオブジェクト。それ以外は机とその上に置かれたノートパソコンくらいだ。あ、机の下に何か……あれ、寝袋か?
「27号。休憩室から椅子を2つ借りてきてくれ」
「はぁい」
最後に入ろうとした少女型の自動人形が命令に従い、くるり反転して走り去ってしまう。
「今椅子を持ってこさせるから」
言いながら先ほど購入したらしい缶を二つ手渡してくる。とても良く知っている商品だ。片方はパイプ咥えたオッサンのエンブレム。もう一つは甘さで有名な黄色い缶のコーヒー……飲んだこと無いけどまぁ、ゲテモノじゃないし大丈夫か。シノに渡す。
「持ってきたよ、ますたぁ」
「ご苦労。そろそろ補給しなさい」
「はぁい」
パイプ椅子を二つ、床に置いた自動人形は壁際の筒へと小走りに移動すると、起立の姿勢で中に納まる。勝手に蓋がスライドして閉じた。
「三時間もすれば終わるだろうからゆっくりしていくといい」
「……ありがとうございます」
「いや、こちらの不始末だからね。27号には強く言っておくよ」
机の前にあった椅子に腰かけ、プルタブを開ける。応じて俺もパイプ椅子に座るとシノも倣うが、視線は缶だ。開け方が見えるようにプルタブを開けると彼女も真似て開く。
「液体が入っているのですね」
「缶ジュース……缶コーヒーってやつだな。
町じゃそんなに見ないけど」
「需要がそんなにないからね。水を作り出す魔道具は比較的多いし」
「町の外基準ですか?」
「中でもそうだよ。蛇口をひねれば水が出るし、そうでなくても飲食店は多い。
缶まで使って液体を保存する理由は余りないね」
言われてみればその通り……なのだろうか?
食料の自給には難があるが水なら最悪サンロードリバーがある。上流でいつ何が起きるか分からないので川の水の飲む事は非推奨とされているが、そのままでも飲めるほどには綺麗らしい。夏になって河川敷で水遊びする人がだんだん増えてきているという話も最近耳にする。
「ポーションなどでは需要があるのでは?」
「アルミやスチール、プラスチックはポーションに適さないらしいよ。
魔力によって腐食するらしい」
何度かポーションを使用している身としてはあまり聞きたくない情報なんだけど……大丈夫だよな?
ちなみに銀やガラスが適しているため、ガラス瓶が主流になっているらしい。最悪投げ当てて割る事で対象にぶっかける事が出来ることも評価されているそうだ。
「それに、無人販売機を理解できない人も多いからね」
「ああ、なるほど」
外国で自動販売機を置けば「道に落ちている物」扱いされる国があるとも聞く。スポットが成立しているのだからしばらくすれば問題無くなる気もするが、監視カメラや警報装置による管理網も引きにくいのでデメリットの方が大きいのだろう。
……今の交通事情を考えると家の近くやニュートラルロードから外れた場所には欲しいと思う事はあるのだけど、今後人口密度が増せば店の分布も変わっていくのだろうか?
ちなみに後日確認してみたところ、缶ジュースそのものは雑貨屋などで取り扱っており、またコーンポタージュやお汁粉といった缶ジュース?はそれなりに人気らしい。携帯食料扱いだよな、その系統は。
そろそろ本題に戻ろう。
「……上と連絡を取る事はできませんか?」
「可能だけど今は無理だね。連中が占拠しているだろうし」
「今、何が起きているのですか?」
そういえば悪乗りの一言しか聞いていなかったな。
「事の発端は部屋の掃除を拒んだ研究者が掃除業者を叩き出したところからだね」
「最初っから酷いですね」
「僕もそう思う。研究を見られたくないとかそういう理由ならまだ格好も付くのだけどね。
単に『この状態が落ち着く』という理由だから」
「それは聞きましたけど、本当に酷いですね」
物を片付けられない人間のお決まりの文句ではあるが、立ち退きを迫られたとかならまだしも、そんな理由で施設の管理者から派遣された人を排除しちゃダメだろうに。
「で、機動兵器を持ち出して暴れ出してね」
「飛躍し過ぎですけど他の人たちは止め……なかったんですね」
「ああ。勘違いしたのか分かってやっているのか……まぁ、大方後者だね。通用口を封鎖。ああして通路を固めてしまったわけだ」
「あなたは賛同していないのですか?」
「不干渉だよ。見ての通り片付けはきちんとしているしね」
確かにこの部屋はきちんとしている。というか、物が無いだけだが。
「基本的に理論をこねくり回すタイプの研究者だからね。試したいものがあるわけでもないんだよ」
「27号という自動人形はあなたが作ったのでは?」
「君が言っているのがガワの方だろうか。ならば違うよ。あれはここで知り合った職人が作ったただの人形だよ」
「え?」
ただの人形が二人抱えたまま恐ろしい速度で走り、数十メートルを降下し、大したダメージ無く着地して喋る。普通とは?
「何故ただの人形が動いてしゃべるか、かな?
それはスケルトンも同じだよね?」
思い出すのはノラ夫妻。確かに旦那さんの方は筋肉も心臓も持たない骨だ。それでも普通に動いていた。
「アンデッドと同じ状態を作り出しているのですか?」
「そう、体の各部を動かしているのは厳密には魔力だ。移そうと思えばそのあたりのヌイグルミに憑依させることも可能だよ」
それはすごいとは思うけど……人造生命とか人造魂魄というより、人造幽霊だよな、それ。
……あれ? でも幽霊なら一応人造魂魄なのか?
「まぁ、失敗作だけどね」
コーヒーを口に運び、ダティアマーカさんは苦笑を隠す。
低い音を立てる筒を見た。彼の言う通り何の動力も無いのにあそこまで動いて喋っていた。それが失敗作?
「不思議そうだね」
「……俺には彼女が人のように見えていました」
「それはレイスと同じ現象で君たちの感覚がそう認識しているだけだ。
写真を撮れば無機質な人形の顔が写るよ」
「そこまでの事が出来て失敗なんですか?」
「ああ、失敗だ。27号の魂は輪廻に加われないからね」
そこに悲嘆は無い。ただ階段を上り続けている探究者の表情が垣間見えた。
「時間もあるし、少し昔話をしようか。
シノ君はそういう話を求めているのだろう?」
躊躇い。それでもシノは一拍の間を置いて頷く。
俺の方を少しだけ見たのは、それが俺のためになると考えたからだろうか。
「僕は創生神より、エルフ種を導くために遣わされた使徒だった」
緩やかに澄んだ声音が物語を、追憶を紡ぎ始めた。




