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閑話 異世界でのクリスマス

こういうのを書くのはやはり義務かなーと。

今日はお休みだったのでひょこりと書いてみた次第。


なお、アキヒトの魂が半年後もまだ定まっていないことが確定しました。


-fate アキヒト-




「……クリスマスだなぁ」


 新暦1年12の月。もうすぐこの街ができてから1年が終わろうとしていた。

 俺がこの街に来てからもう半年。未だ帰れるという診察結果はいただけていない。かっこネタバレ。

 それはまぁ、置いておいて。


「あの赤い服は何かの祭儀服でしょうか?」


 今日も今日とて郵便配送に勤しむ俺たちは、町を行き来する中にいわゆるサンタコスをした人々を目にしていた。


「あれ自体は宗教的な服じゃないはずだけど……様式と言うべきか」


 『赤い服のサンタ』というのは某飲料メーカーのコマーシャルから生まれた物とかいう雑学を聞いた覚えがある。

 元々は某宗教のお祭りのはずだが、原則この街では宗教系のお祭りは行わない。ニューラルロードに広がるのは商店街や駅前で目にする日本のクリスマスの光景だ。何故か積極的にケーキやチキン(鶏とは言っていない)の予約受付やプレゼントを贈る云々の売り文句が交わされている。

 ……おおかた商業組合のどっかが年末のセールの手法として取り入れて広がったのだろう。日本の宗教観を抹殺してお祭りに昇華した商業戦略というのはファンタジー系の人々には目新しいらしく売り上げが伸びるのだそうだ。


「あれはサンタクロースといって、クリスマスの日に良い子にプレゼントを配るお爺さんのコスプレだよ」

「配給ですか」

「元々そんな感じだっけ?」


 流石に詳しい経緯は覚えていない。サンタクロースの元になった聖人が良いことした結果とかそんな話だったと思うけど。冬場の行事だし、配給はありそうだな。


「あの角の生えた獣人の衣装は何でしょうか?」

「トナカイの仮装だな。あんな角の生えた鹿みたいな生物だよ」

「ドイ・グランブズ・ディアのようです」

「なにそれ?」

「大きな角を持つ鹿のような怪物です。あれが現れると周辺国家が共闘し、討伐作戦を決行します」


 何故かクリスマスが怪獣映画になってませんかね? 詳しく聞くと身の丈5メートル、体長10メートルもあり、頭に有した角から周囲一帯を焼き尽くす電を放つそうだ。何それ怖い。というか倒せるの?


「近隣の砦まで誘導し、竜種が来るまで耐久戦を行うのが常套手段になっています。対応が間に合わず、王都を半壊させられた例もありますが」

「シノの世界、怖すぎないか?」

「倒せるだけマシな部類です」


 ちなみに竜種の方は喧嘩を売られない限り人間に好意的中立の立場とのこと。もちろん例外あり。


「もっとも……ドイ・グランブズ・ディアが人里近くに現れる理由は、十中八九竜種が採り逃して人里の方に逃げてしまった結果ですが」

「だから竜が追ってくるのか。とばっちりも良いところだな……」


 矮小な人間は巨大怪獣が出ると光の国の戦士とかが町を壊してでも退治してくれることを祈るしかないらしい。


「それで、クリスマスというのはどのような行事なのですか?」

「本当は礼拝堂だかに集まる日だった気がするけど、俺の国だとパーティして、親が子供にプレゼントをする日、かな」


 24日と25日でやる事が違うって話が脳裏をよぎったがやはり詳しい事は思い出せません。

 なお、性夜(誤字でない)云々はむなしいのでスルーします。


「サンタクロースがプレゼントを渡すって話に倣って、親からでなく良い子にしていたからサンタクロースがプレゼントをくれたって態にするんだよ」

「アキヒトの故郷は奇妙な祭りが多いですね」

「世界中からイベントかき集めてきて、宗教感を消して商業活動にしてるからなぁ」


 日本固有のはずの初詣や七五三なんかも理由が分からないまま惰性でやっている人少なくないだろうし、そもそも寺と神社の区別も分からないし。神仏習合とかそんな単語を習った気がするんだけど同じにしたって意味だっけか……


「……ああ、プレゼントを贈る風習という事は、プレゼントの品物を販売できるという事ですか」

「そういう事だろうな。

 年末だし、在庫を残したくない時期だから売り文句としては丁度良いんだろ」


 クリスマス商戦って単語まであるのだから、いやはや業が深い。


「あー、一応言っておくけどプレゼントを貰うのは子供限定じゃないよ」

「そうなのですか?」

「今の流れで言うと、大人同士もプレゼントを渡し合ってくれた方が売り上げも上がる、ってことになるのかな」

「なるほど。大人の場合はどのような人に渡すのですか?」

「……まぁ、親しい人に、かな。家族とか」

「それならば……私も何か見繕った方が良いのでしょうか?」


 今年のクリスマスは中止になりました。という単語がどこかに飛んでいく。


「じゃあ、時間が空いたら中央の大きめの雑貨店でも見て回るか」

「はい。しかし、アキヒトは何を贈られると喜びますか?」

「そりゃシノが考える事じゃないかね」


 今まで何か言いたげだったけど、聞きに徹していたヴェルメから苦笑じみた突っ込みが入る。


「そうなのですか?」

「そういうもんだと思うけどね」


 人生経験的には一番短いはずのヴェルメが一番わかっているというのも相変わらず奇妙な関係である。


「だいたい、アキヒトならシノからもらったプレゼントを喜ばないはずが無いよ」

「否定できないけどその一言は余計だと思う」


 笑う気配に肩を竦めてごまかすしかない。ごまかせた気はしないけど。


「しかし不要な物を貰っても困るだけでは?」

「だから親しい人の間で、なんじゃないかね」

「親しさを測るということですか……」

「シノさん。そんな重い話じゃないからね?」


 別方向の真剣さで考え始めそうなのでツッコミを入れておく。


「私の知る限り、このような行事では用意する物、贈る物は定まっているものです。

 自らが選んで、というのは独特で興味深いです」


 町を一回りすれば大体の物が入手可能、という豊かさ故なのかな。実際は一つの業界だけに利益を独占されたくないっていう生臭い理由だろうけど。

 ……他人事のように考えてるけど、俺もここまで話が進んでしまった手前、中途半端なことをするとヴェルメから説教食らいそうな気がしてきた。いや、気負うつもりはありませんよ? それはそれで絶対に恥ずかしい。アルカさんとかが全力で茶化してくる気がする。あの人目敏いんだよなぁ……

 ……恋愛云々からそっぽを向かれた人生送ってきた寂しい男子の難易度を上げないでいただきたいものです。ほんと。


「とりあえずケーキの予約注文は入れておくか」


 背中で嬉しそうな気配が広がるのを感じて笑みを零す。

 この関係が何時まで続くのかは分からないけれど、楽しいと思える時間が過ごせるに越したことは無い。

 イルミネーションとサンタのような何かが散見されるニュートラルロードを抜け、次の配達先を目指しつつ俺はあれこれ考えるのだった。

メリークリスマスかメニー苦しみますかは分かりませんが

まぁ、それなりに楽しくなるように気負わずに行きましょうね。

うん。

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