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●二章-20.パレード前のひと時

※前回のあらすじ

・シノさんのLUK値が高い説。

・とりあえずガチャ大勝利なので百鬼夜行を見に行こう。

-fate アキヒト-




 くじ引きは予想以上に大勝利だった。

 というわけで、ゲームに拘る理由を失った俺たちは一旦帰宅して引換券を置いてきた後、適当に出店を回りつつケイオスタウン側に来ていた。

 のんびりと移動しながらだったのでもう三時か四時かといったところだろう。


「……そういえば、頼光さんたちって結局どうするつもりなんだろう?」

「どう、と言いますと?」

「百鬼夜行の最中に襲撃を掛けるのって、祭りの妨害だから、ただの迷惑行為だろ?

 頼光さんの雰囲気だと、そういうのは嫌いそうだと思ったんだけど」


 ほんの十分少々の邂逅で分かったような事を言うのも何だが、あの人が超が付くレベルの堅物であることはなんとなく察せられる。


「祭りを妨害しない、と言うなら百鬼夜行の前に襲撃を掛けるのもダメだと思うんだよ。

 祭りが終わるまで待つつもりなのかな?」

「……しかし、それならば祭りに合わせて呼んだ意味が分かりません」


 「だよなぁ」と声にせずに呟く。

 タイミングから考えれば、祭りの場に呼び出したとしか思えない。


「鬼の畏れは力そのものと言う話でしたから、祭りの最中に戦闘を行うつもりなのではないでしょうか?」

「それは……ありそうだなぁ。

 ただ、下手をすれば被害甚大だと思うんだけど」

「んー、気にするのかねぇ」


 ヴェルメの不穏な言葉はなんとなく思って口にしなかった想像、そのままだ。


「祭りの観客を巻き込んだら妖怪種がこの街の敵になったりしないのか?」

「パレードの妖怪種が観客を攻撃すればそうかもしれないけど、襲われて迎撃しただけなら、むしろ妖怪種の方が被害者よね?」


 反論しかけて口を噤む。ああ、これも日本風の考えだな。経緯をわきまえず、分かりやすい責任者にクレームを入れる。だから責任者になりうる者は不測の事態を極力排除することで対応しようとする。公園から可動式の遊具が無くなったのも同じ理由。子供が怪我をしたのは、遊び方を教えず、管理もしていない親の責任でなく、設置した公園管理者の責任にされてしまう。だからそれらを排除せざるを得なくなった。


「観客に被害を出すつもりで招くような人でないのは確かよ。

 観覧は自由なのだから、自分の身くらい自分で管理しないってことね」

「俺はヴェルメに頼り切るけどな」

「まぁ、アンタについては仕方ないというか、分をわきまえた発言と思っておくわ」


 ドイルフーラさんのあのやる気が無さそうな状態でも圧倒的だった剛力を思えば、シュテンさんの戦闘の余波だけでも死の危険性が付きまとうだろう。ヴェルメが居なければ大人しく南側の仮装パレードでも眺めているに違いない。


「今までのアンタならそれでも見に行かないという選択もしそうなものだけどね」

「……流石に結果が気になるから」

「ガッツリ関わったから、仕方ないわね」


 勿論物語の中だけの、おとぎ話であるはずの百鬼夜行を見てみたいという思いもある。

 だが、やはりそれ以上に───

 「思い上がり」と言われそうではあるけど頼光さんをこの地に来させてしまった理由の一端で、その結果本気の殺し合いすら起こりうるとあれば知らん顔という気にはなれなかった。


「というわけで、ヴェルメの障壁が他の観客の迷惑にならない良い場所を先に探しておこうかと」

「あたしの障壁って言うけど、慣性制御だから別に形があるわけじゃないわよ?」


 壁があって弾いているわけでなく、対象の慣性をゼロ、或いはマイナス方向にして弾くという、物理学者が頭抱えそうな防御だっけか。


「シュテンさんの本気は防げるかどうか分からないんだっけ?」

「アタシが打ち消せるのが100とすれば、120の力で攻撃されれば20は通るわ」


 わかりやすい話だ。逆に80の力なら20の力で跳ね返す……とは少し違うだろうけど、反射のように退ける事ができるということだろう。


「あと、消費もあるから、一定以上の力が連続で掛かると追い付かない場合があるわね」

「結構弱点らしい弱点があるんだな」

「そもそも風防として備え付けられた能力だもの」


 おかしい。俺の知っている風防は装甲板という意味ではなかったはずだ。


「それはともかく、貴方たちに接触しようとする力は抑制できるわ。

 ただ、人の密集した箇所では制御がちょっと不安って所ね」


 ふむと周囲を見渡す。

 この三日間、町の中では比較的人の密度は高くなっているのは間違いない。

 しかし、幅30メートルもあるニュートラルロード。その行程は10キロ以上もある。この街の全員が集まったとしても鮨詰め状態にはならないと思う。


「そこそこ広い場所確保すれば大丈夫そうかな?」

「でしょうね。

 そこらの酒場の野外席でも良いわよ?」


 ケイオスタウン側でも祭りの最中は昼から飲み屋に寄る人が多いらしく、夜のように店の前にテーブルを展開しているところが見受けられる。

 周囲を見渡すとカフェテリアチックな店を発見。酒場よりもそっちかなと移動をお願いする。


「すみません。パレードの間、居座っても大丈夫ですかね?」

「注文してくれるなら構わないよ」


 口から飛び出す牙が目立つ凶悪な顔に笑みを浮かべ、軽く応じてくれたのは緑の肌の小人。きちんと服を着ているが……彼、ゴブリンってやつだよな?

 この街の分類としては妖魔種ゴブリン。RPGの代表的な雑魚敵だが、もちろん言葉が通じる以上、住人の一人である。


「昨日はロウタウンの方で派手な宣伝があったらしいね。それを見てきたのかい?」


 ヴェルメをなるべく席の傍に停車させるとゴブリンの店主がメニューを持って再びやってきた。


「もともと見るつもりでしたけど、そんなに噂になっているのですか?」

「ああ。おかげで昼過ぎからこちら側の通行人が多く感じるね。

 早めに拡張席を出しておいたんだ」


 もともと観客席として見込んでいたから承知してくれたようだ。


「凄かったですよ。電車が大蜘蛛になって」

「狐の魔術師は幻影が得意ってのはどの世界も変わらないものなんだな」

「魔術師でなく妖怪ですよね?」

「妖術だろ?」


 訝し気に首をかしげる店主。魔術については門外漢の俺。

 なので分かりそうな人に話を向けることにする。


「シノ。昨日のアレって魔術の一種になるのか?」

「不明です。

 妖精種の惑わしのような種族特性のように思えましたが」


 逆に俺が悩む言葉だが、ゴブリン店主は「なるほどな」と頷いて店内に戻ってしまった。


「シノの世界でも狐は化かすものなのか?」

「似た種族は居ますが、魔獣などではありません」


 モンスターが存在する世界ならただの獣が迷信の対象になることもないということか。


「おや、これは」

「まぁ、偶然ね」


 と、穏やかな男女の会話と共に近づいてくる何者か。


「少しお話を伺いたいのだが、よろしいかね?」


 テーブルに掛かる影。どうやら俺たちに用事があるらしいと顔をあげ、そのまま固まってしまう。


 骸骨。少しだけ黄色がかった白い骨。


 一片の肉片すら付いていないカルシウムの塊にぽっかりと空いた眼窩の奥。薄く揺らめく光がこちらを『見て』いた。


「いや、その隣の機械なのだがね。

 ……君、聞いているかね?」

「あら、あなた。

 彼、あなたの顔にビックリしているわよ」

「おや? これは失礼」


 なんとか視線を横にずらせば、半透明の女性が穏やかに微笑んでこちらを見ている。

 穏やかに微笑んでいるのだが、青白い光と隠し切れない死相に心臓がきゅんと萎んだ。


「ああ、安心してくれたまえよ、少年。

 我々はその乗り物の事について、多少聞きたいだけだ」


 頭の山高帽をテーブルに置き、そのテーブルをこちらに寄せながら彼は言う。


「おおっと、そういえば自己紹介をしていなかったね。

 私はヴァニシッシュ・レイ・ヴォーンドウルグ。そしてこちらは愛する我が妻、エターニアだ」


 椅子を引き、妻と紹介した女性の着席を促す骸骨。微笑みを骸骨に向けて椅子に座る半透明の女性。グラフィックをしっかりしていないゲーム画像のように、半透明の服の一部がどう見ても椅子の背もたれやテーブルを透けて抜けている。


「種族は見ての通り、私がスケルトン。妻はレイスだ」

「……もしかして、ノラ夫妻?」


 ヴェルメの言葉に骸骨が着席しつつ鷹揚に頷いた。


「巷ではそう呼ばれているね。

 まぁ、ノーライフキング夫妻の略称らしいのだが、キングなどと大仰な呼称は好まないので愛称として受け入れているよ」


 ノーライフキング。命なき王。

 これ、ラスボスとかそういう類じゃないですかね……?

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