●二章-21.死霊王の見解
※前回のあらすじ
・パレードの場所確保したらラスボス的な人と遭遇した。
-fate アキヒト-
「ヴぁ、ヴァニシッシュ様!!」
店の方から飛び出してきた緑の小人、ゴブリン店長が席の前で土下座を決める。
「おお、ここはお前の店だったか。これも縁だな。
良い店になったではないか」
「はい! おかげ様で!」
「この店についてはお前の努力だ。そう卑下するな」
「ははぁ!」
頭を擦り付ける勢いのゴブリン店長。
「飲食店の店主がお客を放って、地面に手を付けるものじゃありませんよ?」
レイスの奥さんが優しく窘めるが、その声を聴くたびにぞわりと背筋が震える。
「こ、これは失礼しました。エターニア様。すぐに手を洗ってきます!
あ、あと、これ、メニューです!」
持ってきたメニューを置いて全速力で店に戻るゴブリン店長。
「……お知り合いで?」
「ああ。彼は昔の部下でね。我々がこの世界に来るときに同行した者の一人だ」
「立派になったものですねぇ」
嬉しそうに微笑むレイス奥さん。
ねぇ、もしかして彼女の声って聞いているとやばいとかあるのか?
『アンデッド種死霊系の中には常時能力として周囲に影響を与える者が存在しています』
久々のPBさんの解説だが、悠長に頷けない。それ、毒物ばら撒いているのと同じだよな?
止められないのか?
『本人に自覚がない可能性があります。
提案すべきでしょう』
奥さんを見れば、視線に気づいたのかこちらへと微笑みを見せた。ごりっと体の中から大事な何かが失われる感覚。これ、躊躇っていると死にかねない。
……「わざとです」とか言わないよな?
「あ、あの!」
「なんだね? 私の妻が美しいのは承知の上だが、旦那の前で誘惑するつもりかね?」
「違います! 奥さんの能力で、なんかやばいです!」
「……うむ?」
「……あら?」
我ながら「なんか」は無いだろうと思うが、不思議パワーに関する語彙など求められても困る。二重の意味での焦りに捕らわれていると不意に体がぐらりと揺れた。何かをやられたのではなく気付いていなかった圧力が消えたからだ。急に呼吸が楽になった。
「そうでしたねぇ。人の前に出るなんて半年ぶりでしたから、忘れていましたわ」
「はっはっは。すまないすまない。そういう事だったか」
背中に流れる脂汗を感じつつシノの方を見ると、少し顔が青い。
「シノ。具合が悪いときは口に出せ」
「アキヒトも同じ様子でしたので」
それでもどことなくほっとしたようにも思える無表情でシノが返答したのだが、その意味を理解できずに眉根を寄せる。
「どういうこと?」
「アキヒトが黙っていたので意味があるのかと」
「……ごめん。単純に状況把握できていなかっただけです。
先に気づいたら言ってください」
「わかりました」
「ふむ。よく見れば君たちはずいぶんと、面白い関係のようだ」
骸骨の奥の青白い炎が揺らめく。これはこれで単純に不気味で怖い。
「いや、漫才をしているつもりはなかったんですが」
「違う違う。魂のありようだ」
手袋に包まれた手がひらひらと否定を示す。
「……それって、俺とシノの魂が繋がっているから、ですかね?」
「繋がっている?
……ふむ。そう表現もできようか。エターニア、君はどう見える?」
「……例えるなら『炉』。そこから生まれつつある盾が彼かしら?」
「なるほど詩的で適切だよ、エターニア」
何がどう適切なのだろうか。生まれ「つつ」あるってのは、前々からの懸念点である接続が切れると死ぬって話なんだろうけど。
「……それだともしかして、俺が死んでもシノは平気ってことですか?」
「私も数多の魂、それも歪み砕けて溶けて繋がったような奇異な物を見てきたものだが、その私でも安易に断ずることができぬほどに奇妙な関係だとまずは言っておこう」
すごく言い回しが難しいです。
取り合えず、死者の王なんて人が見たことのない異常な状態という事は分かった。
いや、まぁ、だからこそ、秘密にするべきだって言われたんだけど。
「アキヒト君とシノ君だね。
仮にシノ君が死んだ場合、アキヒト君は間違いなく死ぬ、というよりその魂を維持できずに崩壊させることになるだろう。
逆にアキヒト君が死んだ場合、シノ君が即座に死ぬことは無い」
それは、ある意味朗報だろう。
しかし、先生の診察が間違っていたということになる。まぁ……あの人も魂の分野は専門外と言っていたので安全を見て大げさな忠告をしたのかもしれない。
……ってルティアさんも似たような見立てだったよな?
「しかし……そうだな、人間風に言うならばアキヒト君には心臓が無い。
シノ君と血管を繋いで生きていると表現してみよう。アキヒト君を維持するほどの血液を巡らせるための血管だ。無造作に断ち切られれば、どうなるかは明白だろう?」
「出血多量で死ぬ、ですか」
「その通り」
場合に寄っては一瞬で失血死。だからシノも死ぬ、か。
「でも、アキヒトさんには『心臓』が生じつつあります。
これについては心臓と称するよりも殻。『魄』の方ね」
目を細め、俺を見ながらも、どこか違う場所を見るように奥さんの方が言う。
それが先生の言っていた『改善』の兆しが出ているという意味だろうか。
「どれくらいで出来そうかわかりますか?」
「予測は難しいな。
今の仮説でいう所の『心臓のようなもの』の兆しは確かにある。
しかしその成長も、完成した姿がどうなるかも私にもわからん」
「悠久の停滞を持て余している頃なら、喜んで研究したのですけどね」
「今の我々にはしたい事とすべき事があるからな。
まぁ、放っておいても収まるべき所に収まるのだろう。
それに君たちはそれで安定しているようだから急ぐこともあるまい」
はっはっは、と笑えばタカタと骨が鳴る。
気楽に言うなぁと渋面を堪えつつも、ルティアさんもまた「このままでいい」的な事を言っていたことを思い出す。いや、これ以上変化しないとも言っていたような? 形のない物だからディティールがつかめなくて困る。
……焦って変なことになっていないか、ちょっと不安になった。
「さて、盛大に話がそれてしまったな。
今度は我々の話といきたい。その乗り物の事だ」
「その前に、注文をしましょうか」
「そうだな。おーい」
すっかりあちらのペースだがパレードの時間はまだ先だ。
こっちの問題に対する見解を貰ったようなものだし、付き合うとするか。




