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●二章-19.くじびき

※前回のあらすじ

・ダイアクトーがんばりすぎ。

・妖狐ちゃんがんばる。

-fate アキヒト-




 早いものでもう祭りの最終日だ。

 朝からラストスパートとメダル集めに走る者も多い中、メダルを使ったくじ引きにチャレンジするために塔前のステージに集まっている人も多い。

 かくいう俺たちもその一人。もういくつかチャレンジしても良いけど、くじ引きは17時まで。昼を過ぎればもっと混む可能性が高かったので、まずは手持ち分を消費してしまおうということになった。


 舞台の上にあるボードを見ると大当たり扱いの3割ほどが「済」となっている。まだ、三割と言うべきか。どこかの商店街のくじ引きよろしく最終日まで引っ張っているのかとも思ったが、周囲の込み具合からして、大半がメダル集めを優先したのだろうと推察する。


 それにしても、くじ引きって……100メートルの壁があっても手を突っ込んで引っ張り出す距離には関係ない。透視とかできる人が居るのではないだろうか?

 そんな懸念と共に順番は近づき、先頭を覗き見ることができる場所までやってきて、「ああ」とうなずく。


「なるほど、電子式か」

「音楽の装置に似た雰囲気ですね」

「親戚みたいなものだろうからな」


 しかし、と周囲を見渡すとロボット的だったりアンドロイドだったり、改造人間チックだったりする人々がちらほら見受けられるこの世界。クラッキングとかは無いのだろうか?


「……」

「どうしました?」

「い、いや、なんでもない」

「はい。どうぞ」


 懸念を抱きつつ見まわしていると装置前で妖しい動き、というか困惑をする人が居る。しかし装置の横に立つ黒タイツに焦りなどは無く、顔は見えないがにこやかに対応し続けているようだ。つまり、対策はされているということだろう。抜かりのない悪の秘密結社って怖くないか?


「次の方どうぞ」


 それからややあって順番が来た。メダルは投入口があって、一気に投入可能らしい。

 とりあえず入れてみて、シノに任せる。


「アキヒト?」

「くじ運というか、運全般に自信がないので任せるよ」


 なにしろ運悪く事故死した人間ですからね。俺。

 いや、ある意味助かった、という感じなので良いのか? それでも使い切っている気がする。


「わかりました」


 ボタンを押すと中で音がし始めた。何かを回す音?

 ちなみに液晶版には投入されたメダルの種類と数が表示されているだけのようだ。ここに結果が出るわけではないらしい。

 もう一つのボタンを押した瞬間、ほんの少しモーター音的な何かが緩んで止まるタイムラグがあり、がこんがこんと装置の下側で軽い音がする。受付の黒タイツが後ろから拾い上げたのは少し厚みのあるプラスチックか何かのカード。なるほど、中でかき混ぜてボタンを押したタイミングで排出されるのか。これじゃ透視やクラッキングしても目当てのカードが引くのは難しいだろう。


「では、これを持って次へどうぞ。

 交換せずにこの場を離れると無効になりますのでご注意ください」


 さらに渡されたカードに記されているのは意味不明な絵。携帯電話とかで読み取る……なんだっけか、ICとかIRとかそんな名前のヤツだろうか。

 受け取ったカードを手に交換所へ。カードを渡すと機械を通して商品を持ってくるようだ。


「よくこんなくじ引き装置、用意できましたね」

「はは。今後の祭りに備えて色々な所から設備を提供してもらっているのですよ。

 試験運用ってヤツです」


 やっぱり全身黒タイツのスタッフが待つ間にそう、応じてくれる。


「順調なようですね」

「不正に対しての対策試験として、いろいろな手法で過剰なくらい仕掛けていますから、手間と感じるくらいです。

 ただ、それでも絶対的な幸運や勘を持った人たちはどうしようもありませんが」


 非常に稀だが、未来予知レベルの勘の持ち主や、どうやっても幸運を引き寄せる特殊能力者が居るらしい。ただ後者はそれ故にあまり物欲が無いため、こういう場では遠慮してくれる傾向にあるとのこと。もちろん人それぞれなので遠慮しない人も居る。それ故に引ける回数をゲームで絞ったようだ。

 ちなみに未来視の特殊能力は100メートルの壁に引っかかる異能の一つで、現在の調査では3秒以上先の未来を予知することはできないらしい。ただこれは未来視に限定したことで、シミュレーションで予想する分にはもちろん影響しない。

 目繋がりで余談となるがゴーレムや魔法生物系が有する魔法的知覚も100メートルの壁の影響を受ける。彼らは希望すれば光学的情報を魔法的情報に変換するメガネようなものを管理組合が貸してくれるのだそうだ。


「こちらになります」


 スタッフが持ってきた封筒サイズの包みを渡される。

 どうやら大当たりは無かったのかな?


「ありがとうございます」


 受け付けてくれた黒タイツに軽く会釈して列を離れる。すれ違う人が多い。どうやら予想通り人は増えてくる傾向にあるようだ。


「そこらの喫茶店で確認しようか」

「はい」


 というわけで、近くの喫茶店に到着。以前来たサイボーグ店長の店だ。たまに昼食はここでとっているためもう顔見知りである。


「おや、抽選をしてきたのですか」

「ええ。まぁ、ハズレみたいですけど」


 封筒を見せる。とてもじゃないけど何か大きな品物が入っているようには見えない。


「おや、ご存じないのですか?

 ハズレも当然ありますが、当たりでも直接渡せないものや、今貰っても困るものもあるので、商品引換券で統一しているらしいですよ」


 店長の言葉に封筒を上から触ってみると、確かに均一な形のものが入っていることがわかる。よくあるクレジットカードサイズだ。


 入口で立ち尽くしてもアレなので飲み物を頼んで封筒の中を見る。

 出てきたのは感触の通りカード。金属とプラスチックのあいのこのような材質だ。その表面に文字が刻まれていた。カードの色違いはメダルの種類と合わせているのだろう。


「ええと、こっちは銅メダルのヤツか。お菓子屋の商品引換券みたいだな。

 ……いくつか書いている店なら使えるって事だな」


 7枚中5枚がおなじなのでこれが残念賞相当らしい。ただ、掛かった金額を考えればマイナスとは思えないかな。1ゲームあたり50Cも掛けていないのだし。


「……アキヒト、これは当たりです」


 残る二枚のうち、一つをシノが指さす。

 先ほどのカードと違い、『ヴェリュジュフリアン』という長ったらしい店名しか書かれていない。内容は特別セットとある。


「……あ、トミナカさんが言ってたお店ってコレだっけ?」

「はい」


 心なしか頬が赤いのは興奮しているのだろうか。

 こちら側のゲームに参加するきっかけになった話だから無理もない。


「そりゃ大当たりだな」

「はい」

「もう一枚は……知らない店だけど詰め合わせ?」


 PBに問い合わせたところ雑貨屋らしい。キッズ用と銘打った中で詰め合わせって何だろうか?

 ともあれ銅メダル分の七枚をぶんぶんと振られていそうな尻尾の幻影が見えるシノの方へ寄せる。

 いつもなら俺が持っているようにと返すのだが、今回は嬉しそうに手に取ったことが色々伺えるというものだ。


「あとは金の方だけど」


 出てきたカード。うち3枚はポーションとの引換券。

 ……常備薬としてもらっておくかな。科学世界の出身者としては飲めば傷が治るという薬にはうさん臭さを感じてしまう。しかも即効性ならなおさらだ。ああいうのって副作用とか無いのだろうか? 


「で、一枚だけ違うな……」

「これ。アラクネさんのお店です」


 ……ああ、確かにそうだ。しかもこれ、オーダーメイドの作成権だ。


「シノ、もう一着作ってもらうか?」

「私ではなくアキヒトが作ってもらうべきでは?」


 オーダーメイドの製作依頼権。探索者の皆さんが欲しがりそうな品物だが、防弾チョッキ以上の性能を持つという話だったから俺にとっても不要とは言い難い。

 しかし、だ。


「あのお姉さん、シノの方が張り切りそうなんだよな」


 なにしろ50万Cはするという服を「気に入った」って理由だけでプレゼントしてくれたくらいだ。それに以前のやり取りも踏まえると俺が買うときは現金の方が良い気がする。いつになるか、達成できるかもわからないけど。

 ちなみに今日は荒事がある可能性も踏まえてシノはアラクネお姉さん作のお嬢様ファッションだ。バイクには今日は横座りで乗っているがヴェルメだから安全である。


「私ばかりになるのですが、良いのでしょうか?」

「今の俺としてはシノの安全が確保されている方が好ましいみたいだからな。

 あ、お菓子には興味があるから俺にも分けてくれよな?」

「当然です」


 躊躇も無く頷くあたり、シノらしい。


「良い物が当たりましたか?」


 注文していたコーヒーとぴ……なんだっけか。シノお気に入りのジュースをカウンターに置きながら店長が問いかけてくる。


「俺たち的には大当たりですね」

「それは何よりです。探索者の方々のお目当ては『とらいあんぐる・かーぺんたーず』か『ドゥゲストモーターズ』でしょうか」

「やはりその二つが挙がるんですね」

「探索者、特に遠征組は強い武器、補給の要らない乗り物は喉から手が出るほど欲しいでしょうからね」


 そこまでの需要があるのに、なんであの人純白の酒場で料理手伝ったりしているんだろうか。

 湧いた疑問を知ってか知らずか、店長が言葉を続ける。


「特にアルカ嬢は『趣味でやっているから、やりたい仕事しかやらない』と明言しているらしいですからね。断られた人も多いらしいですよ。

 そこにねじ込めるのですから、是が非でも欲しい人は居るでしょう」


 どうやってダイアクトー一味はその権利を提供させたのかが気になるところである。まぁ、あの人ノリで生きている感じもするし、祭りの景品だからって理由で受けそうだけど。


「でも、これだけ多くの世界が繋がっているんですから、彼女たち以外にも凄い鍛冶屋とかは居るんじゃないですか?」

「この世界の特性でしょうか。実はその系統で名前が挙がる人というのは少ないのです」

「鍛冶屋で、ですか?」

「創作全般ですね」


 休憩なのか、自身の分のコーヒーを注ぎながら彼は言う。


「かつて仕事で知り合った芸術家の弁ですがね。

『創作する者の終わりというのは本人の死、或いはその作品が全て世から消え去った瞬間だ』そうです。

 むしろ完成させられずに怨念と化した話の方が良く聞くくらいですから」


 エンデにまつわる予想が正しいならば、その予想はうなずける部分が大きい。死ぬまで終わりを迎えないならば、彼らの前に扉が現れる機会は少ないのだろう。


「まぁ、他にも何人か、名だたる名工は居ますし、一定以上の腕前の鍛冶屋はそれなりに居ます。

 何しろ万単位の探索者が日々武器のメンテナンスを求めるのですから。しかも多種多様な」

「銃火器を持っている人も多いですからね」


 そういう店はヘブンズゲート付近に多い。あのあたりでは昼は鍛冶の音、夜は宴会の音に染め上げられる。そういう意味でも中央部に近い位置で店を開いているアルカさんたちは特殊なのだろう。


「午後もメダル集めですか?」

「んー、とりあえず十分な戦果があったし、一旦カードを置いてケイオスタウンに早めに行くか?」

「はい」

「そうですか。くれぐれもお気を付けて」


 苦笑じみた表情で「くれぐれも」とあえて口にした店主。その理由を察した俺は、とりあえず、ヴェルメの傍から離れる真似はしないように改めて心に刻むのだった。

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