●二章-11.頼光さん
異世界もののはずが歴史ものになっている気がしないでもない気もしないでもない。
まあ、うん。成り行き任せで一つ。
※前回のあらすじ
・コロッセオ見学してたら金時さんと再会
・アキヒトが匂う(妖気的な意味で)
・頼光さんを探そう
-fate アキヒト-
現在ニュートラルロードを南下中。
そして少なくとも五キロは走ったはずなのに、平気な顔で横を走る大男が居ます。
「凄いですね……」
「その鉄の馬も凄まじいな。これで騎馬隊を作れば蝦夷征伐も容易かろう」
「それ、どこの世紀末ですか……」
ろくに道路の舗装もされていない日本でバイク部隊とか……この人たちなら案外乗りこなせそうだな。
あと、鎧武者がバイクで走るって……なんか映像で見た気がする。なんだっけか。
「普通に走ってこの速度が出るならバイクは要らないじゃないですか」
「これができるのは俺の同僚と陰陽寮の陰密衆、キツネと保昌トコの連中くらいだな。
外法使いは知らん」
キツネとヤスマサという名前には隠してない悪意が伺えた。ライバルか何かなのだろうか。
「安倍晴明は聞いたことがありますけど、居ないんですか?」
「それがキツネ野郎だろうが」
仇名? ……目が細いとか人を化かすとかそういう意味なのだろうか。
しかし、本当に居るんだな、安倍晴明。
「そろそろ到着するよ」
「おう!
あ、いや、待て!」
急に足を止める金時さん。ヴェルメが即座に反応して前輪を固定しながら後輪を大きく円を描くようにスライドさせて停車する。いくら降り飛ばされないとはいえ急にやるのはやめていただきたい。流石にこれは怖い。
「ど、どうしたんですか?」
「大将!!」
「騒々しいぞ金時」
腹に響く声が放たれると、咎めるような応答が金時さんの向こう側で発せられた。
悠然とこちらへと歩いてくるのは金時さんの物と同じ様式の着物と袴を纏った凛々しい男性だ。筋肉が鎧のような金時さんと比較すれば確かに細身ではあるが、彼もまた武人であると疑いようのない、がっしりとした体躯を誇っている。金時さんは豪傑という雰囲気ながらも表情豊かなので取っ付き易さがあるが、あちらはまるで剥き身の大剣だ。刀ではない。叩いても曲がらず、振り下ろせば叩き潰す。そんな重圧感が距離を置いてもひしひしと感じる。
「……後ろの童か。お前がいたく気に入ったという」
「ええ。アキヒトと言います。
それよりもまさか一人で乗り込んだのですか!」
「招待に応じると、挨拶をしたまでだ」
男───頼光さんは手に持っていた一升瓶を金時さんに投げ渡す。
「こいつは?」
「前祝の裾分けだそうだ。相も変わらず図体の割には気取った鬼よ。さて」
一升瓶をしげしげと眺める金時さんの横を抜け俺の前に立つ武士。思わず腰が引けたのを感づかれたか、ほんの少し彼の眉間に皺が寄った。
「星を持たぬのか、童よ」
「星……?」
「宿星、即ち生まれながらに因果を持つ星の事だ。人として世にあれば必ず有し、その性分を示すものになる。それを隠せるほどの法師か?」
「……すみません。さっぱりわかりません。
違う世界の出身だからじゃないですか?」
有名人の事を巨星とか新星とか言うヤツの事だろうか?
星占いとか守護星とかそんなワードはあくまでジンクスの世界だ。この世界に来て言うのも何だけど。
「酒呑童子と茨木童子はお前に何を見た?」
俺の戸惑いを全く意に介さず、続けざまに問われるが、それは俺が聞きたい事だ。俺はシュテンさんの前ではただビビってただけ。嫌われたり蔑まれたりすることはあっても、気に入られる要素が見つけられない。
それでも回答を出せとばかりに上から突き刺さる視線が胃をキリキリと締め上げてくる。
「大将! 脅かしすぎですよ」
こっちの状況にようやく気付いた金時さんが慌てて間に入ってくれる。大きな背中に安心感を感じることがこの身にあろうとは思いもしなかった。
「脅かす?」
「町で童を睨んで泣かせたこと、一度や二度じゃないでしょ!」
「そこまで幼い童には見えんが。それから睨んだことなどない」
「そんだけ怖いんですよ。俺も怖いですから少し落ち着てください。
酒呑童子の鬼気に当てられていませんかね?」
捲し立てるような言葉にむぅと呻き、咳ばらいを一つ。
見えない圧が緩和され、思わず安堵の吐息が漏れた。昔の日本ってこんなに怖い人だらけだったのだろうか。
「だいたい、詰問するつもりじゃなかったんでしょ?」
「……そうであったな。
先日は金時が世話になった。礼を言う」
金時さんが横に避けると同時に、頼光さんが教科書に載せたいほどの綺麗な礼をし、俺は慌ててヴェルメから降りた。
『源』って付いている上に金時さんの上司って相当偉い貴族だよな?
一般市民に頭下げてもいいのかよ……?
「た、大したことはしていませんよ!」
「ふむ……。
酒呑童子だけなら気まぐれもあろうが、別の意味で奇妙な童だ。
時に私とあの鬼、どちらが勝つと思う?」
え、何その質問。金時さんをちらり見るとそれに気付いて一つ頷く。どういう意味かわかりません。答えても良いって事?
「思うままで良い」
俺の戸惑いと金時さんへの救いを求める視線をあっさり看破されたようだ。
なんだろう。学生時代の「怒らないから事情を話しなさい」と言う教師を思い出す。
生唾一つ飲み込み、真っ白な頭に上手く取り繕う事を諦めた俺は、威圧感に肺を押されて言葉を紡ぐ。
「……その、怖いと思うのはシュテンさんの方です」
自分の回答に冷や汗が出る。しかし頼光さんは特に感情を表さずにそれを受け止めた。
「そうか。……重ねて礼を言う」
言いながら彼が懐から取り出したのは三十センチくらいの棒だ。紐を編み込んだような飾りに包まれているそれを俺の方に差し出した。
「これは?」
「守り刀だ。禍ツ祓の力を宿している。お守り程度と思ってくれ」
「あ……ありがとうございます」
お守りの布や紐と同じ感触。渡されると思ったよりも重く、中身が鉄であると実感する。
よくよく考えると物凄く貴重な物なのではなかろうか。確か古い剣って数百万するんじゃなかったっけ? ……いや、まだ古くないのか。
「祭りのときは必ず持っておくように」
「え?」
「金時、お前は気づいたか?」
「……はぁ。道士のような気配のヤツがいくつか。
ここに来て増えた気がします」
頼光さんは一つ頷き、俺へと視線を戻す。
「酒呑童子や茨木童子の気配を垂れ流していると鬼種と間違えられかねん。
祭りの間は我らと似た目的の者が多く入り込んでいるらしい。少なくとも終わるまでは持ち歩きなさい」
「……ありがとうございます」
軽い気持ちだったが何時にも増して危険なタイミングで来てまっていたのだろうか。いや、金時さんに会ってこれを貰えたから正解だった?
「そういえば大将、スエタケはどこに行ったんですか?」
「調べ物を頼んでいる。なぜか観光案内を始めるお前と違って真面目だからな」
「いや、下見ですよね下見!
だとしても何も言わずに居なくなるのはどうなんですかね!」
「某が居ない事に気づいたのは何時時分だ?」
「……すみませんでした」
歩道で土下座する金時さん。その動きは妙に洗練されており、なんというか回数を重ねた美しさすら感じる。
「天下の往来でみっともない真似をするな。アキヒト殿が呆れているぞ」
「いえ、お構いなく」
「おっと、アキヒト。助かった。有難う」
袴に付いた汚れをバンバンと叩きながら良い笑顔を見せる金時さん。なんというか厳粛な父と奔放な息子という感じである。
「それでは我らはここで失礼する」
「はい。
……なんて言っていいかわからないですけど……」
「縁が続けばまた言葉を交わそう」
頑張ってともご無事でとも言えない俺に頼光さんは終始真顔を張り付けたまま、俺たちに背を向ける。
「行くぞ、金時」
「はい。またな、アキヒト」
「はい」
颯爽とはこういう姿を指すのだろうか。
乱れぬ足取りで去り行く二人をヴェルメに声を掛けられるまで俺は眺め続けていた。




