●二章-10.再会
残業地獄が終わったのでペースを少し上げたいです。
有給使いたい。
※前回のあらすじ
・お祭りの間はお休みでいいよ
・ヴェルメを運用試験も兼ねて貸すから
・じゃあケイオスタウンに行ってみますか
-fate アキヒト-
「でかいな……」
舞台などの設営が始まっていた中央を抜け、石の橋を渡って辿り着いたのはサンロードリバーを挟んで丁度大図書館の反対側となるコロッセオだ。
石造りの外見はかつて社会科の教科書で見たことのあるシロモノに近い。近すぎて全体像は良く分からないが、建物自体は東京にあるドーム球場に匹敵するのではないだろうか。
……この街ならドーム球場くらい作れそうなものだけど、何か形とか材質に意味があるのだろうか?
『強いて言えば多くの世界で円形闘技場を作る文化があることが確認されており、わかりやすい外観として設計されました。石材も外観だけで、内部は別の素材が使われています』
PBさん解説ありがとうございます。見た目大事。うん。大事。
「でも、なんでコロッセオなんて作ったんだろうな?」
「娯楽のためではないのですか?」
「娯楽って……武術大会的な?」
「血を見る興奮は一時的に大いに熱狂させ、その後に市民から暴力性、反乱の兆しを取り除くことになる。と説明されました」
「説明した人って軍師みたいな人?」
「ある国の宰相でした」
鉄面皮で語っている姿が脳裏に浮かぶ。勲章ゴテゴテついた藪にらみの頭の薄そうな人。教科書にそんな人が居たような。
「でも、それってクロスロードには必要無さそうだよな……町中にこれだけのスペースを取ってまで」
『元々この場所は野外実験場として設立されました。
しかしクロスロード内部の広いスペースを常に使うわけではない事から別の利用方法が検討され、現在ではランキング制度を導入した闘技会と、勝利者予想の賭博が行われています』
もともと別の理由で作られたのな。
『今では強い選手にはファンやスポンサーが付き、予想以上の副次収入が見込めるようになったため、闘技大会の方が主目的になっています』
無差別格闘技選手権みたいなものか。
『ルールにも寄りますが、基本場外に大きな被害を及ぼす攻撃以外は制限なし。
降参、気絶、あるいは死亡で勝敗が決します』
「ガチすぎるだろそれ!?」
「何がですか?」
「あ、いや、殺しても良いルールが普通らしいんだよ」
「……それが何か?」
シノの不思議そうな返答に、言葉が詰まる。
暴騰した命の価値。『まるで商売をするために付加価値で飾った絵画のようだ』って言い回しが印象的で記憶の片隅に残っている。たった百年足らずで様々な権利が主張され、果ては無関係の人の権利までも主張し始めた。シノにどんな言葉を用いればこれを説明できるだろうか。
……俺が理解しきれないんだから、説明なんて無理だな。
「シノの世界でも奴隷とかが戦っていたのか?」
「主に戦争奴隷だったはずです。例外は選抜試合でしょうか」
「優勝者を取り立てるみたいな?」
「はい。戦争が少ない時期にはそちらの方が多くなりました」
中から歓声のようなものがわずかに聞こえる。今日も何かを開催しているようだ。
「で、中に入るのかい?」
「いや……うん。やめておく。流石に流血は見慣れてなくて」
「なんだい。貧弱だね」
「カエルの解剖すらやらなくなった文化だからな」
食べる魚は切り身で海を泳いでいるとか、冗談抜きで信じている子供が居るって噂が流れるほどだ。腕が飛ぼうものなら失神しないまでも夢に見る自信はある。
「そんなでこの街で生きていけるのかい?」
「心配で護身方法を探しているところだよ」
「前向きの方向を間違ってないかい?」
呆れ声で言われましてもどうしようもございません。せめて後ろ向きでないだけマシと思っていただきたい。
「おお!」
さて、じゃあ次はと思考を切り替えた瞬間を狙ったような轟音。
周囲のざわめきを吹き飛ばすような歓喜を滲ませる一声。
「やはりアキヒトか!」
「え? キン……トキさん?」
何事かと振りむけば巨体がこちらへと駆けてくるではないか。
ドスドスと効果音の付きそうな走り方だが異様に早い。あっという間に目前に来た大男は間違いなく坂田金時さんだ。ちなみに今日は初めて会った時と同じ着物系だ。
「どうしてここに?」
「おお、そうだ。身の丈は俺と同じくらい。細身だが人を殺しそうな目をした着物の御仁を見なかったか?」
「見た覚えはありませんけど……」
「むぅ。悪いがちと付き合ってくれまいか。
おぬしが居れば頼光様も気づくやもしれん!」
頼光様。つまり、酒呑童子を倒したとされる、金時さんの世界では返り討ちに遭ったという人。彼と共に戻ってきたということは、
「シュテンさんと戦いに来たのですか?」
「おうとも。しかし大将ともスエタケともはぐれてしまってな。途方に暮れておったのよ」
じくりと胸が痛む。それがシュテンさんの望みであり、彼らの答えだとしても、自分が関与したことには変わりない。きっとそれを口にしたなら怒られるだろうけど、気になる物は気になる。
「どこか待ち合わせの場所とか決めていないのですか?」
「今日の宿は決めてある故、夕刻になれば落ち合う事も可能だろうが……頼光様を一人にしておくのが少々心配でな」
「……行先に心当たりは?
そういえば、どうしてケイオスタウンに?」
「祭りの主な舞台はこちら側と聞いて下見に来たのだ」
確か百鬼夜行は北の門、ヘルズゲートから真っすぐ南下するらしい。となると、一番怪しいのはスタート地点のヘルズゲートか、ゴール地点の扉の園前だけど……
「はぐれたのはこの辺りですか?」
「いや、ずっと向こうだ。大きな建物があったので目印になるかとここまで来たのだがな」
指し示す先には扉の塔。ニュートラルロードを含む区域となると二人三人でどうにかできるレベルじゃない。
「アキヒト」
「ん?」
「彼と同じ装束の人間種男性はニュートラルロードで目撃しました」
シノの意外な言葉に金時さんの目がぎょろりと向いた。
小さな子供なら泣きかねないが、そこはシノ。全く動じない。
「娘、それは本当か!?」
「はい。髪は黒、背丈は金時さんほどでしたが、貴方よりも随分細身の人でした」
「おお! 容姿は合っているな!」
クロスロードに和服姿の人間は時々見かける。時代や文化によっては多少違うが、ニュートラルロードを二キロも走れば一人くらい遭遇しそうな割合で見つけることができる。
「よく覚えていたな」
「アキヒトをじっと見ていたので気になりました」
「ならばまず間違いあるまい」
俺を見ていた、というのも妙だがそれで確信を持つ金時さんの発言も妙だ。
「なんで俺を見ていたら間違いないんですか?」
「異な事を言う。
酒呑童子と茨木童子の妖気を纏わせている者など早々いまい」
え? と首を傾げ、思い出して頬を触る。
「両方から印を受けたヤツなど、熊童子ら側近の鬼くらいなものだからな。更に分かりやすい。
そこまで気に入られて戦えるわけでもないとは面妖の一言だぞ」
「……そんなにわかる物なんですか?」
「この世界じゃ近づかんとハッキリわからんがな。
残り香があったからお前に気付いたんだ」
匂いがあるのかとつい鼻をひくつかせるが特別な物は感じない。そもそも、そんなものがあるなら家とかで党の昔に気付いているだろう。
「シノ、何かわかるか?」
「わかりません」
「妖怪の気配を察知するのは才能だ。感じ方は人それぞれらしい。
綱の奴は妖怪が通った場所は空気が違うとか言っていたし、俺はにおいのようなものを感じる」
「気配みたいなものですか」
「気配、生気の方がよっぽどわかりやすいぞ。ただ、この世界では鼻詰まりを起こしたような気持ち悪さがある。
100メートルの壁だったか。痒い所が解らない、もどかしさを感じるな」
100メートルの壁の影響は超感覚的な物にも影響するらしい。魔法とかもダメなのだからそういうのもやはり含まれるのだろうか。
「シノ、その人を見たのはどのあたりだ?」
「先日、まっはばばあ? に遭遇した辺りです」
「え? それって……」
「とりあえず案内してくれんか?」
「ええ……ちなみに、頼光さんって人、単身シュテンさんのところに乗り込んだりする人ですか?」
俺の問いかけにギュッと眉根を寄せる。そして数秒、顔芸をしているのではなかろうかというほどに目を見開き驚きを表現した彼は俺の両腕をがしりと掴んだ。って!
「酒呑童子の住処に案内しろ!」
「痛い! 折れる! マジ折れる!」
脳が焼け付く。それほどの痛みに喉が悲鳴を零す。
「ぬぅ!? すまん! が、細すぎだろうに。女子の腕だぞ!」
「ほっといてください。ここからだと……10キロ以上ありますけど……」
「キロ? ふむ。二里半程度なら馬の速度で走れる」
「え? 昔の人ってそんな超人なの?」
「修験道の道術の一つだ。体を動かす術なら得意だからな!
その鉄の馬で誘導しろ。後を追う」
「……わかりました。ヴェルメ、お願い」
「……はいよ」
何か言いたげだったがすぐに応じるヴェルメ。ゆっくりを加速し、時速40キロくらいになったところで振り返ると、普通に並走している大男。
「この倍は行けるぞ」
焦りはあるが、無理をしている様子は全くない。結果、バイクと大男が時速80キロで並走するという奇妙な光景がこの日ケイオスタウンで目撃されたのだった。
クロスロードじゃ驚くような事じゃないのだろうけど。




