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●二章-3.大図書館

あれ? 妖妃さんの口調どうだっけ……?

まぁ、イバラギさんの口調も変えてるし、元を知っている人も少なかろうなのでリメイク版で一つ。


※前回のあらすじ

 金太郎とか酒呑童子にまつわるお話を館長に聞こう。


-fate アキヒト-



「……広いなぁ……」


 館長の講談師のような語りは一時間にも及んだ。

 頼光さんこと源頼光と頼光四天王、それにまつわる酒呑童子退治のお話。

 酒呑童子と茨木童子が鬼になった理由に閉口したものです。リア充爆発しろとは安易に言ってはいけません。爆発した結果が鬼に成って猛威を奮うなんて誰も救われないよ、ホント。

 さて、話を聞き終わると同時に、凄絶な……もとい、大変お美しい笑顔で現れたサンドラさんに館長が拉致されたため、俺たちも大図書館へ足を踏み入れる事にした。ぎゅうぎゅうに建物を押し込めたクロスロードとは思えない広さを誇っている事は外観からも察せられたが、中に入ればその広さを改めて感じる。

 カウンターのあるエントランスホールの先、吹き抜け構造になっているその空間に整然と並べられた本棚は5メートルはゆうに超えており、上部の本を手に取るための脚立が用意されているほどである。

 ふわふわ浮いている人がそれを使わずに本棚整理していますが。

 壁も本棚で埋め尽くされており、こちらは大体二階程度の高さの外周にはギャラリーのような廊下が伺えた。

 館内には自然光は入って来ない造りだ。本が焼ける事を忌避したためだろう。そういえば俺の知っている図書館って普通に窓が付いているけど、その辺りあまり気にしていないのだろうか。家の本棚に入れておいた漫画の表紙が日光で色が落ちた時には驚いたものだけど。


「……でも、意外と本は詰まってない?」


 この図書館、全く空っぽの書棚の方が圧倒的に多い。ここから見えないだけかとも考えたが、多少立ち位置を変えて他の本棚を見やっても同じような状態のようだ。


「今からですからね」


 拍子抜けした俺の独り言におっとりとした声が応じる。発生源を追えばカウンターから黒髪の女性がこちらを見ていた。まっすぐ揃った前髪に楕円形の眉毛。平安時代コンボ継続中と言わんばかりの女性である。あ、平安美人でなく、今風の美人さんです。


「今から、と言うと?」

「まだ開館して半年ですからね。目下、様々な世界から本が集まっている最中ということです。

 いらっしゃいませ、初めてのご利用ですか?」


 女性の笑顔に頷きで返す。ネームプレートには『文車妖妃』と刻まれている。漢字だ。


「はい。……様々な世界から、ですか」

「毎日それなりの数の書物が届いていますね。

 ただ、そのまま並べるのではなく、並行して電子化もしているので本棚が埋まるのは当分先になりそうですね」

「電子化?」


 ハイテクな単語が飛び出してきて思わず聞き返す。


「規格どころか媒体が一致しないので、安易に本棚に並べていけません。

 多くの書物は媒体に合わせた環境の書庫に保管され、こちらには写本や電子媒体に転写した物を並べる予定です」

「それって著作権的にどうなんですかね?」

「活版印刷などの複製技術を使い、量産販売しているような世界からは購入してきていますよ。

 複製品を作るのは主に印刷技術などが無い世界で、一品モノの書物などですね」


 無法都市で著作権もあったものでは無いだろうが、やっている事は文化保護活動のように聞こえる。

 写しを作った本は元の世界に戻したりもしているらしい。


「本は館外に貸出したりしているんですか?」

「館内だけですね。外への貸出はしていません」


 無理もないか。異世界に持ち帰られたりしたら回収するのも一苦労どころじゃない。


「閲覧室に電子データで読める設備がありますので、原則そちらですね」

「ハイテクですね……」

「便利な物です。

 稀覯本を失うリスクを避けられますし、表に出すには危険な本も少なくありませんから」


 R18的な意味、じゃないですよね。

 流石に口に出せない問いを知ってか知らずか。知られたら困るのだけど、彼女は柔らかい笑顔のまま言葉をつづける。


「読むと呪われたり、洗脳されたり、乗っ取られたり、取り込まれたりする本を並べるわけにはいきませんからね」

「封印しておいてくださいそんなもの」


 どうして図書館で命の危機にさらされなくてはならないのか。

 うっかりその辺りの棚に並んでいたりしないよな?

 俺の視線の意味に気付いたのか、司書のお姉さんがクスクスと可愛らしい笑い声を零す。


「司書院のスタッフは本の専門家ばかりですから、大図書館で読む限りは何とかします」

「お姉さんも専門家ですか?」

「はい」


 軽い返しのつもりだったが、女性は当然とばかりに頷く。

 ちなみに後で知ったのだが、『文車妖妃』という名の彼女も妖怪種だ。ラブレターの妖怪らしいのだがヤンデレ系の情念から生まれたとされるため、彼女はその辺りの素性を語りたがらないとのこと。先ほど聞いた「酒呑童子さんや茨木童子さんを鬼にした恋文に宿った情念」というワードと一致するのだけど……これは口にしてはいけない話題だな。気品あふれる仕草の穏やかな文学少女。それで良いと思います。

 他のスタッフも魔導書が変じた者や、本や知識の精霊など、俺の知っているエキスパートとは少し違う人たちが集まっているらしい。一応純粋な専門家も居るそうです。


「書物の検索も閲覧室の端末からできますよ」

「ちなみに漫画とかあったりします?」

「その質問は初めて受けましたね。ありますよ」


 聞いてみるものだ。異世界の物語にも興味はあるのだけど、国語の教科書と夏の読書感想文のため以外で小説を読んだ覚えのない俺としては、そちらの方が好ましい。


「シノは何か好みとかあるのか?」

「いえ、特には。

 でも事実に基づいた物語の方が好ましいです」

「そういう物語でお勧めってありますか?」

「いくつかピックアップしましょう。閲覧室の方へどうぞ。席の端末にお勧めを送付します」


 本を取りに行かなくていいのはありがたい。ものぐさと言うより、この館内だとうっかり別行動したら100メートルを超えてしまいそうなのだ。

 ……そういえばPBでシノと100メートル以上離れそうなら警告とか出せないのかな?


『設定可能です。100メートルを超えると不可能ですが』


 PBさん、どこまで有能なのだろうか。早速設定をお願いすると、シノがこちらを見た。あちらのPBにもアナウンスがあったのだろう。数秒して設定完了の報告が脳裏に響く。50メートルと80メートルで警告を発してくれるそうだ。


 そんなこんなで閲覧室。

 エントランスのすぐ隣に設置された50名ほどの席のある部屋を見渡しても人は居ない。そういえばここに来るまで職員らしき人以外と会わなかった。せっかくの設備なのに勿体ない……と言っても、俺もシノが居なければ来ることはまず無かっただろう。漫画があると知ったら来たかもしれないけど。

 仕切りのついたカウンター席が並んでおり、正面の壁にタブレットパソコンのような板が備え付けられていた。背の部分にアームが付いており、ある程度自由に動かせて角度を調整できるようだ。

 席に着くと板に光が灯り、いくつかの候補が表示されている。


「シノ。俺は適当に読んでるから、何かあったら声を掛けてくれ」

「わかりました」


 読み始める前に最近習慣となっているお手洗いの場所チェック。外出中一番同行しづらい場所なので、飲食店に入った時などはなるべく近い席を選ぶようにしている。閲覧室の奥に設置されているようで、多分大丈夫な距離だ。

 画面へ視線を向ける。

 タイトルや絵柄に見覚えのある作品があるものの、俺の世界で売られているものと同じとは限らないんだよな……

 一つの完結した作品なら問題は無いのだろうけど、そう考えるといくつか続きを読みたい作品が脳裏に浮かぶ。もう一週間以上こちらに居るのだから、次の週の号が出ているはずだ。

 ……探すか。戻るまで我慢するか……

 十数秒の葛藤。結論としては「どっちでも良い」だ。漫画に人生賭けているわけでもないし、どうしても読みたかったら戻った時に買えばいい。

 ということでとりあえず面白そうなのを選んで閲覧を始める。

 あ、時間はどうするか。

 大図書館は閉館時間と言うものが無いらしい。ここから家まで一時間くらいかかると考えるといつも夕飯を食べている時間に純白の酒場へ行こうとするとあと三十分も猶予が無い。

 ……今日は館長の喫茶店で夕飯を食べれば良いか。


 とりあえず午後七時になったら教えてとPBにお願いして、俺も読書を開始するのだった。

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