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●二章-2.畏れの生まれる場所

大体8割書いて、そこからが長いです。


一気に書いてしまえば楽になるのかしら。


※前回のあらすじ

・まさか、金太郎に遭うとはおもわなかっただ ろう


 このネタ分かる人居るかしら(ぉ

-fate アキヒト-




「ほう、怪童丸とは奇縁が続くのぅ」


 大図書館に到着した俺たちは、まず館長と話すため、敷地内の喫茶店に入っていた。案の定この人、大体の時間はこちらに居るらしい。


「かいどうまる?」


 俺の疑問符と共にアイスコーヒーの氷がカランと澄んだ音を立てる。

 大図書館はニュートラルロードと外縁の中間ほどにあり、ヴェルメに乗っての移動ではそんなにも気にはならなかったが、歩くと結構な距離がある。その上ニュートラルロードを外れると実は己の足以外に頼れるものが無い。季節も初夏。しかも今日は気温も高めだったため、到着するころには結構汗をかいており、水分補給も兼ねて涼んでいるというのが現状だ。

 客も無く、のんびり仕込みをしていた館長に俺は先ほどの話をしていた。


「おや、知らんのか?

 坂田怪童丸。坂田金時のあだ名の一つ、というより彼を描いた絵の題名じゃな。

 おぬしの世界には存在しておらんのかのぅ?」


 俺の学を問うてくるが、あいにく成績は下から数えた方がマシなレベルです。

 そも、日本の街角でその質問をしたら正解率はどれほどのものか。一般常識の範疇ではないと思うのだけど。


「そもそも詳しくないので話を聞きに来たわけで。メインは酒呑童子さんの事ですけど」

「その様子だと、『頼光さん』も知らんのか?」

「ええ……」


 やや呆れたように髭を撫でる館長。それも有名人なのだろうか。


「教科書に載るような話でもないから仕方ないのかのぅ?

 酒呑童子を討伐したのが源頼光とその直下の『頼光四天王』と呼ばれた者達で、そのうちの一人が金太郎こと、坂田金時じゃよ」


 なるほど。酒呑童子の名前は色々なゲームで見たから知っているけど、倒した人というのは初めて聞いた。

 って………え?


「シュテンさんと敵対関係ってことですか?!

 道教えたんですけど!」

「今聞いた様子ならすぐに大事とはなるまいよ。

 そも、招いたのは酒呑童子の方じゃろう」


 慌てる俺に対し、館長の反応は落ち着いたものだ。

 確かに、怪しい文が届いたから確認に来た、という感じの事を言っていた。そして酒呑童子を名指しで探しているとなれば、その手紙の差出人は自ずと知れる、ということか。


「今は、じゃろうがな」

「……と、言いますと?」

「坂田金時は酒呑童子からの手紙を受けて調査に来た。居ると知れば次は討伐に来る可能性が高い。なにしろ酒呑童子討伐は帝の命のはずじゃ。それを討ち漏らしたとあっては面目が立つまいよ」

「でも、異世界にまで追ってくるもんなんですかね?」

「何を言っておる。古来より山も森も異界と同義じゃぞ?」


 頭の上に盛大に『?』マークを浮かべた俺に館長は再度呆れたように、しかし「そんなものかのぅ」とどこか達観したような呟きを漏らした。


「世界の果てもオケアノスも無く、地の底に象も亀も無く、雲の上に天界も無いと思っている世界の子ならば仕方ないのかもしれぬがな」

「思っている、っていうのは思わせぶりですね」


 地の底に象ってインドか何かの世界観だった気がする。宇宙船が飛び、人工衛星が気象を監視している時代の人間としては『そんなことを言われても』な言い様だ。


「その目で見てはおるまい?」

「そりゃ、そうですけど……望遠鏡で月は見た事はありますよ?」

「空には天幕があり、星がぶら下がっておるのじゃよ。

 現にそういう世界は存在し、おぬしの世界もそうでないとは限らぬということじゃ」


 可能性で語られれば、無知サイドの人間としては返す言葉も無い。そういえば昔の映画で「現実と思ったら実は電脳世界でした」っていうのがあったな。


「逢魔が時、逢魔が辻、感覚が揺らぎ現実が朧げになる時、薄壁一枚隔てた異郷は口を開く。

 手を引かれて幽世に消えた子供は何人いたか」

「森の奥も山の上も異世界のようなもの、ですか」

「幽霊が『背に憑く』のは本人から見えぬ位置じゃからじゃよ。

 そしてわしらの生まれ故郷でもある」


 『何か居る』という畏れを抱くのは常に視界の外。見えないことは恐ろしい事で、それが妖怪を生む、ってことか。そうでなくても妖怪の住処がある山なんて陸続きでも異界というか魔境だ。

 でも、妖怪の住処がある街ですね。ここ。ええ、魔境ですとも。


「どうして祭りの直前にそんなことをしたんですかね……」

「シュテン殿は祭りの余興とでも考えているかもしれんのぅ」

「自分を倒した相手を余興で呼ぶって相当ですね」

「酒呑童子は頼光四天王と直接対決をして破れたわけでないと言われておる。

 変装し、毒の酒を飲ませて暗殺したそうじゃ」


 『酒呑』童子をお酒で殺すというのは皮肉にも程がある。あるいはだから酒呑童子という名前なのだろうか。


「リベンジマッチ、ですか?」

「その辺りは当事者に聞くほかないが、真っ向勝負をしたいと考えてもおかしくは無かろうな」


 俺の見た酒呑童子はそんな好戦的には見えなかった。怖いけど。怖いけど。


「さて、その辺りの話を聞きに来たのじゃったな。

 あくまで儂の世界での伝承。アタゴ君とも、この街に居る酒呑童子とも違う話かもしれんが、まぁ、語るとしようか」


 お代わりのコーヒーとジュースを手に館長が好々爺の顔でテーブルに着く。

 仕事は良いのですか? というのは野暮だ。俺も興味があるし、今から起きる何かのために知っておくべきかもしれないと感じていた。

 ここは好意に甘えるとする。


 シノを見ればその目は真剣そのものだ。感情をあまり浮かべない綺麗な瞳に薄い熱すら感じられる。

 神話食い。物語を食べる者。

 多く物語を見聞きすれば、俺たちの状況は良くなるかもしれないという仮説。


 不意に思う。

 『良くなる』というのはどういう状況なのだろうか、と。


「さて、時は平安、一条天皇の時代……」


 朗々とした語りが静かな店内に広がる。

 今はこの話に意識を向ける事にしよう。


 ……そういえば、異世界まで来て日本の事を学ぶとは思わなかったなぁ。

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