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●二章-1.金太郎

今回より第二章 ウォーカーズナイト編です。

今後は事件ごとに章を区切る予定です。


新暦1年6月のお話。


※前回のあらすじ

・ウォーカーズナイトのお知らせ配った

・シノさんとはしばらくこのままの立ち位置で。

-fate アキヒト-



「おい、そこの者」


 町はにわかにお祭り気分になってきていた。

 流石は商売人。祭りの話を聞くや色々と模様しものを立ち上げてきたらしい。そこらかしこにハロウィンの雰囲気を思わせる商品が並び、中には魔法的なサムシングで変化する杖なんかも売られていた。犯罪に使われそうなんですが、良いんですかね……


「え? 俺ですか?」


 そんな町中を仕事の終わった俺とシノは路面電車駅に向かって歩いていた。今日は配達件数が少なく昼前には終了。お昼まで軽く流して業務終了としたので兼ねてより言われていた大図書館に向かうつもりだ。


「そうだ。日ノ本の民だな?」


 日ノ本とはまた古い言い様だと振り返れば、鎧武者が一人。兜はなく、針金のような髪と髭が静電気の実験でもしたかのように伸びた男がでんと立っている。でかい。鬼のそれとは違い、なんというか、教師なら『髭だるま』とでもあだ名を付けられそうな、体の大きなおっさんだ。


「日本人って言うならそうですけど……江戸時代の人ですかね?」

「江戸? ……いや京より来たのだが」


 京って京都だよな? 確か戦国時代より前になると関東は田舎なんだっけか。


「……それで、何か用ですか?」

「酒呑童子の名を知っているか?」


 知ってるかも何も、今街で一番名前が挙がる人じゃないですかね?


「ええ。知っていますが」

「おお! 知っているのか!

 アレが潜む場所を知っているなら教えてもらいたい!」

「潜むも何も、妖怪種の特区にある屋敷に居るんじゃないですかね?」

「そこが本拠か。して、どこに?」

「ケイオスタウン。川の向こう側です。特区ですからPBがナビゲートしてくれると思いますけど」


 PBという単語に腕に付けたそれを凝視する。

 それからやり取りをしているのだろう数秒の間があり「なっ!?」と驚きの声を挙げた。


「町の中に住んでいるだと!?」

「そうですけど……」

「馬鹿な! あの……いや」


 言いかけて周囲を見る。いつもの光景、つまり人間以外が普通に歩いている街並みが広がっている。

 信じられないという気持ちが静まったのだろう。沈痛な面持ちのまま大男は蟠りを一度吐き出すように深い溜息を吐いた。


「……面妖な街だな、ここは」

「同感ですが、そう言うものだと思えば慣れますよ」


 暮らし始めて一週間少々。大きな口を叩くには新人に過ぎるが、三日もあれば慣れるのも事実だ。いちいち驚いていては生活なんてできやしない。いや、たまに驚きますけどね。ホラー系の人とかと不意に遭遇した場合とか。


「うむむ……夢ではないのだな……」

「お侍さんも事故か何かでこっちに来たクチですか?」

「侍? ふむ? 頭に響く声というのもどうにも好かんな。

 おぬしは私が知る時代よりもずっと後の人間か?」

「その恰好が普通なら多分そうだと思います」

「なるほど。そうだ。私は侍だな。そういえば名乗っていなかったか。

 私の名前は坂田金時。主君の命にて不躾な文を送りつけてきた鬼を探しに来た」


 ……。


「金太郎?」

「なんだ、その二つ名、おぬしの時代まで伝わっているのか?」


 残っているも何も、そっちの方が有名です。と言っていいものか。

 むしろ『坂田金時』の名前は高校生くらいになって初めて知ったくらいだ。


「ええ、まぁ。子供の頃に昔話で」

「私が童歌だと? 主君ならともかく……」


 むしろその主君さんの名前とかわかりません。なにしろ今から館長にその辺りを聞きに行くつもりだったのだから。


「まぁその辺りは良い。時におぬしは酒呑童子を直接見知っているな?」


 断言。その視線が俺の目でなく、その少し横。凝視しなければ分からないくらいの薄紅色の痣にそそがれている事に気付き、思わず半歩下がる。


「ええ、この間郵便を受け取りに行ったときに」

「郵便? では主君の所に文を届けに来たという面妖な輩というのはお前か!」

「多分同僚ですけど俺じゃないです!」


 斬り捨て御免! とか叫びそうな気迫に顔が引きつる。


「え、エンジェルウィングスをPBで検索してください。そういう仕事なんですよ!」

「むむ……しかしおぬしからは鬼気を感じる。眷属ではないのか?」

「この痣はよくわからないうちに付けられたんです」


 じろじろと剣呑な瞳が俺を上から下まで見分する。わずかにでも動けば腰に下げた刀で着られそうな雰囲気だ。

 息が詰まりそうな十数秒を経て男の圧が弱まった。


「分かった。妖気を帯びているわけでもない。人間にしては奇妙だが、悪い男ではないようだ。

 済まなかったな」

「い、いえ……」


 全くもって心臓に悪い。

 どいうやらこの痣、獣の匂い的な何からしい。強い匂いには弱い獣は近づかないみたいな。で、代わりに強い匂いを探しているハンターに目を付けられてしまったという所か。ナニソレコワイ。


「……ちなみに、おぬしから見て今の酒呑童子はどうであるか?」

「……怖いけど、悪い人じゃない、ですかね」

「悪い人ではない? 悪い人ではない、か」


 金太郎は考え込むようにうつむく。肩が震え、鎧が小刻みにカタカタと音を立てる。あれ? 怒られる?


「がぁあっはっはっは!!

 悪い『人』ではない! そうか、この街では言葉が通じれば『人』と称するのだな。

 それにしても、鬼になった者が、都を散々荒らした悪鬼が、武芸の一つも振るえそうにない町人に『悪い人ではない』と評価を受けるか!」


 いきなりの爆笑に周囲の通行人が何事かとこちらを見る。

 何この人。情緒不安定すぎないか? いや、感情に素直すぎる、か?


「面白い話を聞いた。うむ、最初は気乗りせなんだが、俄然興味が湧いた。

 いや、時間を取らせたな。これは礼だ」


 ぐいと手に押し付けられた固い物。見れば黄金色に光るコインで、日本史の教科書で見たような四角い穴が開いている。って、これ、金貨?


「おぬし名は?」

「……愛宕明人です」

「苗字持ち? なんだ、おぬしも身分ある出であるのか。

 無礼があったなら先に詫びよう!」

「あー、随分先の時代になると身分制度が無くなってみんな苗字持つんです」

「そうなのか。ううむ。まぁ、良い。縁があればまた会おう」


 痛ぁああ!?


 ばん、と音が響くくらいに肩を叩かれ喉が引きつる。そんな俺の様子に気付かないまま、金太郎はずんずんといずこかへと歩き去ってしまった。


「……アキヒト、大丈夫ですか?」

「あ、ああ。流石熊と相撲を取ったって人だよ。痣になってなきゃいいけど」


 一瞬肩が外れたかと思ったが、なんとか無事のようだ。夜くらいに腫れそうだけど、シップでも買っていくべきか……


「それより御免な、待たせて」

「いえ、有意義でした」

「え?」


 今の話が有意義?

 と、いくつかの記憶が繋がっていく。誰かと話をしている時、シノは不自然なくらいに静かに聞きに徹していた。


「もしかして、今の会話とかも『食べる』のか?」

「……ええ、まぁ。あの人には大きな物語があるようでしたので」

「そりゃ日本でも屈指の有名人だからな……」


 シノが酒呑童子の話を聞きたがったのもそれらに纏わる人物が有名人だから。これから行く大図書館でもそういう存在の物語を好むということかな。


「……とりあえず、行くか」

「はい」


 シノは何かを消費して俺となる魂を作り上げた。

 神話食いというワードから、マッチョメンは俺に大図書館へ連れていけと指示した。

 流石にここまでヒントが揃えば俺でも想像が付く。その確認のためにも、またそれが事実であればなおさら大図書館には大きな意味があるのだろう。


 遠くに南方面行きの路面電車が近づいてくるのが見える。

 俺はシノの手を取ると、電車に間に合わせるべく歩みを急がせるのだった。

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