●六章-21.何度目かの天井
投稿処理してたらPCがブルスクを吐きました。
そろそろ限界なのか……お前……?
※前回のあらすじ
・竜に追い掛け回されています。
-fate ???-
「ん~?」
しばらく追い掛けさせては見たものの、あのボウヤは逃げ回るばかりだった。
拍子抜け。見当違い。そんな言葉が脳裏を過ぎるも観察の範囲を広げてみればその結論は先延ばしになってしまう。
比較的強力な戦力が彼らを気にしている。その上、守るだけなら中央テントの中にでも引き籠らせていた方が楽だろうに、どうして前線まで引っ張り出しているのだろう。
特に気になるのはティア子が張り付いている点。あの子が居るところは大体何かある。生まれながらにして渦中にしか居場所のない少女は格好の目印だ。
考えを巡らせているうちに他の冒険者、或いは傭兵だろうか? 彼らが残る竜を倒すべく準備を終えた。でも、足りない。最初のブレスを防ぎ切った術者の半分以上は酷い消耗から立ち直れていない。防御魔術は意志に直結する。心が折れれば、気力が尽きれば、あっさりと消え失せてしまうものだ。
それでも立ち向かう意思がなんとかするのか、或いはひときわ強い魔力を保持するあの少女が何とかしてしまうのだろうか?
まぁ、良いか。撃てば分かる。
そして彼女は世界を焼く光を眺めながら、笑みを作る。
天から地へ放たれた暴虐の熱閃。予想通り割れ砕ける数々の防御魔法の中で一つの障壁が強く、死の暴威を受け続けている。でも、もう持たない。守りの傘の下、攻防を見守るしかない人々の表情が焦燥に焼け付く中、白の光が天へと奔った。
「……へぇ……」
少女は感嘆の声を漏らし、嗤う。
惨劇で終わるシナリオを切り開く光の道。古竜クラスの竜が放つブレスと途中からとはいえ拮抗し、相殺した光。、得られた機を見逃すことなく活路から飛び出した英傑たちが竜の命脈を断つ。その光景を彼女はとても愉快そうに眺めていた。
-fate アキヒト-
「……あれ?」
天井が高く遠い。
どこだ、とは思わなかった。そろそろ見慣れつつあるそれをぼんやり見ながら、何故自分が寝ていたのかを思い出そうとする。
割れ砕ける黒の防壁。その隙間から漏れ出た死の光を引き延ばされた時間感覚の中で見ていた。死そのものでしかない光に向けられたあまりにも貧弱な銃と腕に触れる小さな手。
「アキヒト、大丈夫ですか?」
その手の主が身を乗り出して顔を覗き込んでくる。
少しだけ髪が乱れているな……。ぼんやりとそんな事を思いながら渇いた唇を動かす。
「どうなったんだ?」
自分が発した音をきっかけにして記憶が蘇る。
指が引き金を僅かに押し込んだ瞬間、体内を大きな力が駆け抜けた。骨も肉も内臓も、全部強引にぐちゃぐちゃにするような衝撃だ。前後不覚に陥る中、視線の先に固定されたままの銃口から世界が白に塗り替わる様を見た。その銃口にそぐわない大きな力をヴェルメの力場が支える。その間にある俺の体は当然に二つの圧力に挟まれる形となり─────俺の脳は物理的な衝撃と酷使の疲労で限界を迎えてブラックアウトした。
意識を回想から引き戻せば、答えに窮したシノが瞳を揺らしている。初めて会った時もこんな感じだったと懐かしく思った。シノ基準で後ろめたい事があった時の反応。そして、大体謝られても困る事に思い悩んでいる状態。
なのでとにかく状況を知るために話を続けようとして、胸の奥から這い出してきた吐き気に動きを止める。酷く車酔いをした後の気持ち悪さがねっとりと絡みついて離れてくれないヤツだコレ……
「魔力酔いだってさ。気持ち悪いなら暫く寝ておいた方が良いよ」
「ぐ……魔力酔い……?」
どこかから飛んできた鳥が腹の上に着陸した。腹を押されて何かがこみ上げるのをぐっと押し込み戻す。
「大きな魔力に晒されたときとかに起きる感覚異常による混乱だよ」
感覚異常で混乱と言うとさっき連想した車酔いに似たような症状という事か? あれって普段とは違う慣れない方向の揺れに三半規管が混乱して起きるものだったはずだし。
「なんでそんな事に?」
「シノシノの魔力を使ったからじゃない?」
びくりとシノの体が揺らいだ。この反応も覚えがある。
「シノ。多分俺が怒るような話じゃないと思うから、説明よろしく」
「……ですが……」
「確か『これしかない』って言ってたよな?
俺たちは無事生きているんだし正解だったって事じゃないのか?」
普段全くと言って良いほど表情を動かさないシノを見慣れているから、感情が強く表に出ると別人のようにすら思える。まぁ、甘い物食べてほっこりしている姿はたまに見るのだけど。
「蓄積していた力の大半を使ってしまいました」
やがて意を決して開いた口から、悲しげな声が零れた。
「蓄積って……?」
「え……?」
深い自責の念が吹き飛び、ぽかんとするシノ。
ややあって、俺はシノが物語を見聞きして力を溜める事、それは俺の魂を完全な独立状態にするためだという事を思い出す。
「あっきー……それってあっきーたちの最優先項目じゃなかったの?」
「いや、その……割と日々の生活に慣れてきたと言いますか……」
「休みの日に大図書館に良く行ってたのに?」
「シノが本好きだから、特に用事がないならと」
確かに本は好きですが、という視線。凄く具体的に考えている事が分かってしまうくらい表情を表に出すシノはそれだけ動揺と……憤りを覚えていると思う。
「……あっきーが怒るわけないのは分かってたけど、まさかそれすら思いつかないとは……やるな!」
「うっせえよ。あとシノごめん」
「い……いえ……」
こんな時どんな顔をすればいいか分からない。そんな心の声が聞こえてきそうである。非常に気まずい。
「話が進まないからさくっと説明するよ?
シノシノの力をあっきーに送って迎撃銃で竜のブレスを撃ち返して、相殺。
他の人がやっつけて終わり。
あと、銃は耐え切れずに爆発してあっきーの手は結構悲惨な状態だよん?」
非常にわかりやすい説明だが、最後の一言で右手の感覚が無い事に気付く。動かそうとしても動かない。と言うか、肩から先の感覚がない。
まさかと毛布を引っ張ると、腕が無いという最悪の予想は幸いにも外れ、しっかりと腕は存在していた。
「麻酔が効いてるだけだよ?
右手が腕まで裂傷と複雑骨折。てぃあてぃあが回復掛けてくれてひとまず人間の手の形はしてるけど、まだ応急処置程度だから安静にってさ」
包帯でぐるぐる巻きにされた右腕。手は指を伸ばされた状態でまとめて包帯で固定されていた。少し動かしてみると感覚はない物の動きはする。しかし非常にぎこちない。関節に異物が挟まっているような……いや、本当にそうかもしれない。動かすのはやめておこう。痛みが無いから逆に怖い。
「で……俺、どれくらい寝ていたんだ?」
「二時間くらい?」
PBさんに確認をとれば鳥の言う通りの回答。二日も三日もシノに不便を掛けさせる事態にはならなかったようだ。
「そうか……」
「やー、酷い有様にゃね」
え? と声が漏れる。
首を反対側に倒せば胡坐をかいて座っている女の子の姿。
「アルカさん?」
「ん、そうにゃよ?」
若草色の髪に赤い二股の尻尾。そして赤毛の猫耳を備えた小学生くらいの、しかし人妻だと言う少女は目を細めつつ笑みを作る。
でも、何故彼女がここに居るのだろうか?
……管理組合の人だから?
「……救援組に居たんですか?」
「そういう事にゃね。それでさ────」
と、少女は続く言葉を留めると、笑みのまま肩を竦める。
「なぁに?」
「何、じゃなかろうよ。何が目的じゃ?」
その後ろに魔女が立っていた。そのただならぬ様子に周囲の視線を集める中、杖を突きつけた少女は猫娘を半眼で睨み据える。
「なんか怖いよティア子?」
「もう一度聞くぞ?」
アルカさんの正面に居る俺は彼女の表情が失せるのを見た。
その背後に立つ魔女はそれを知ってか知らずか、言葉を続ける。
緊迫した空気の中、ゆらりと揺れる尻尾が妙に目に付いた。
「何が目的じゃ? ────アルルムよ」
聞きなれぬ名を突き付けられた少女の口が三日月の弧を描くのを状況についていけない俺はぼんやりと見ていた。




