第11話 冒険者ギルド
目が覚めてすぐに起き上がろうしたがセフィリアに抱き枕にされて動けない。
彼女には悪いが起きてもらう。
俺はセフィリアの体を揺する。目覚めは悪くないようですぐに目を覚ました。
「オ・ハ・ヨ・ウ。」
「お、おはようございますわ。」
少し驚いたようだが返事が返ってきた。言葉がちゃんと合っているようだ。
俺が絵と文字を書いた紙を持ってきて彼女に見せる。
「ソト・デル。マ・モノ・タオ・ス。ショク・リョウ。」
絵を見せ、言葉で要望を示す。
「王家の食事が口に合わなかったのかしら?」
セフィリアが悲しげな表情で首を傾げたので俺は首を振って否定する。
「イッパイ・タベル・カラ」
拙いが簡潔に理由を答える。
「気にしなくてもよろしいのに。」
セフィリアが頭を撫でようと手を伸ばすが子どもに撫でられるのは元大人としてはちょっと恥ずかしいので避けてしまう。
「朝食を摂りにいきましょうか?」
避けられたことを気にすることなくベットから降りて着替えてから俺に向かって手招きする。
俺の扱い方に少し慣れたような彼女の行動に俺も慣れたように彼女に付いて行った。
付いていったら厨房に着いた。
「料理長。私とこの子の朝食をお願いしますわ。」
セフィリアは厨房に入ってすぐに料理長に話しを持ち掛けた。
「銀竜の分もですか?」
「えぇ。夕食のことは気になさらなくて結構ですわ。この子が魔物を狩りに外に出たいようですしギルバートが付いていますから迷宮に案内させる予定ですの。」
表情がひきつった料理長を見て彼女は料理長の心配を先回りして言葉を付け加える。
「ギルバート殿お一人で世話をするのですか?」
「本当は私も行きたいのですが学校を休む訳にもいけませんの。それに騎士の迷宮訓練に付き合わせる形にしても構いませんわ。食料として持ち帰るみたいですから。」
迷宮って何?ギルバートって誰?分からないことだらけなんだけど。
(迷宮とは神が用意した人の修練と資源確保の場です。階層は地下に広がっており、下の階層に行くほど魔物が強く、美味しくなっています。その為迷宮のある場所は国や街が栄えます。ギルバートはティアナとセフィリアと一緒に一応眠ってた貴方をここに連れてきた人です。)
迷宮はいい場所だなぁ。俺の修行に持って来いの場所じゃないか。
ギルバートが俺をここに連れてきたのか。ティアナとセフィリアに会えたのは幸運だったのか?
ティアナには勝負を仕掛けられたけどセフィリアには文字と言葉を教えてもらっているから何ともいえないな。
(しかし、あの者達が連れて来なければそもそも迷宮どころか街にも入れなかったと思います。)
そうか。じゃあ幸運だったのか。スキルのおかげだな。
「分かりました。ですが迷宮にいく前にギルドに寄る方がよろしいと思います。」
「そうですわね。迷宮で冒険者に殺されては困りますし。しかし、従魔でなくても証明証が交付出来るかしら?私が考えてもどうにもできませんわね。ギルバートに任せるしかありませんわ。」
「では料理の方の準備をして参ります。」
料理長は朝食の準備に戻り、セフィリアも俺を手招きして食堂に向かった。
朝食後、食堂を出ると鎧を着て大剣を背負った少し体格のいい金髪の男が壁際で腕を組んでいた。
セフィリアを見つけると近づいて来る。
「おはようセフィリア。その銀竜の世話をアルに頼まれたんで引き取りに来た。」
「おはようございますギルバート。早速で申し訳ありませんがこの子を冒険者ギルドに連れていって下さいな。」
「いきなりだな。で、理由は?」
「この子が自分の食料を確保するのに魔物を狩りに行きたいそうなんですの。トータスの森はこの子がいた場所だから別の場所、迷宮に連れていって欲しいんですの。」
「迷宮・・・それでか。分かった。」
ギルバートがセフィリアの意図に気付いたようだ。
「私が戻るまでギルバートのいうことを聞いて下さいな。」
セフィリアは俺に目線を合わせるようにしゃがんで言う。ギルバートが『仕方なくかよ』とため息混じりに呟いていた。
「ヨ・ロ・シ・ク。」
俺はギルバートに向き、たどたどしく挨拶する。ギルバートが『マジか』と驚きの表情で呟いていた。
「まだ少し覚えただけで理解できてないところも多いのでジェスチャーはなるべく多く使用して下さいな。」
分かった。と返事をしてから俺に向かって手招きする。
後を付いていき城から出ると西洋の馬車が用意されていた。
ギルバートが乗ると手招きする。俺も乗れということだろう。足場に手をかけてひとつずつ上る。椅子に座ってギルバートに人指し指と親指で輪っかを作ってOKサインを出す。
ギルバートが御者に馬を出させる。俺は冒険者ギルドに着くまで外を眺めた。
城下町の賑やかさに感動した。大通りを歩くこの馬車に両側で商人達が武器や防具を店先に並べ商いを、冒険者が装備を整えて仲間と雑談を、料亭の経営者は食材を買いに出ていたりしている。西洋の市場に似ている。
アニメや小説ではよく見聞きしたものだが自分の目で見ると感動も一塩というものだ。
そんな感動的な光景が不意に止まった。俺は外に見えた建物を見上げる。建物自体は三階くらいの高さだが周りの建物より幅は広く奥ゆきもありそうだ。
ここが目的地の冒険者ギルドか。
ギルバートが先に降りる。馬車が着いたときから注目を浴びていたが馬車から騎士が出てきたので周りの人達が更に注目する。ギルバートが手招きする。俺も続いて降りろと周りの人達が驚き目を見開く。
「行くぞ。」
ギルバートが周りを無視してギルドに入るので俺も続いて入る。
朝だからか人が多い。俺達が入ると皆注目する。
騎士が冒険者ギルドに入るのが珍しいのだろうか?
(魔物が入るのは更に珍しいと思いますが貴方は竜種のなかでも稀少な竜ですから尚更でしょう。)
やっぱり俺になんだなこの視線は。
列の順番を待って並ぶ。ギルバートの番になった。
「おはようございます。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「すまない。忙しいと思うんだがギルドマスターに相談したいんだが頼めるか?」
「分かりました。少々お待ちください。」
受付嬢は俺の姿を目にしてもポーカーフェイスで普通にギルバートと対話してた。できる人だ。
少しすると上の階から先程の受付嬢と一緒に小さなおっさんが降りてきた。竜の眼で見るとファンタジーでお馴染みのドワーフだった。
「ギルバートがここに来るとは騎士学校卒業試験以来か。で、今日はどんな用件だ。」
「お久しぶりです。ダーウィンさん。今日はこの銀竜を迷宮に入れたいのですが、こいつまだ従魔にできてないんです。なので証明証について相談したいんです。」
「銀竜とは珍しい。俺も一度しか見たことがないが警戒心が強い魔物だったはずだ。従魔じゃないにしては随分大人しいようだが?」
「こいつかなり頭がいいみたいなんで状況を把握しているんだと思います。言葉も少しですが理解しているみたいなんで。」
「ほほう。それは面白いな。よく見るとこいつは異常固体か?指が5本あるな。それにしても従魔じゃない魔物を迷宮に入れるか。何故だ?」
「こいつ大食漢らしく迷惑かけないように自分で食料を確保したいらしいです。」
「人みたいなことをする変わり者だな。」
「従魔の儀で倒した相手を治癒するほどにですが。」
「人を倒すだけでなく治癒魔法が使えるとは本当に変わり者だな。」
「なんで冒険者が襲わない限り安全だと思うんですが何か保証できる物はありませんか?」
「ギルドマスターの権限でできないことはないがまずは鑑定させてくれないか。」
俺への好奇心が優先らしい。
「鑑定は気を付けて下さい。昨日こいつを鑑定したら水晶が壊れましたので。」
「ふむ。分かった。」
ダーウィンはティアナが使ってたのと同じ水晶を取り出した。
ティアナの時と同じで。
(分かりました。)
ダーウィンが俺のステータスを視ていく。
「これは凄いというかおかしな物があるな。魔物なのに職業があるとは。というか名前をつけていないのか?」
ダーウィンの言葉にその場にいた者全てが驚きの声を上げた。ギルバートも驚いていたが、本人はもう一つのことを考えていた。『名前がないと不憫だな』と。
「ギルバート。ちょっと試してみたいことがあるんだがやってみないか。」
「何を試すつもりですか?」
「この銀竜の冒険者登録だ。」
「随分思いきったことをしますね。魔法紙が反応しますかね?」
「大分昔に狸の魔物が人に化けて冒険者登録をしたときは麻痺して暫く動けなかったが、こいつならもしかしたらと思うと面白いだろ。」
「死ぬ危険性がないのは分かりましたが名前を付けないといけませんね。」
ギルバートは俺を指差し
「アルギュロスだとアルディと被るからお前は今からシルバーだ。」
と言い出した。
銀色だからシルバーって安直すぎだろ。というか他の言語も混じっているんだな。
(転生者は一人じゃありませんから。でも、シルバーですか。いいと思いますよ。)
ナビィから好評価だ。ならそれでいいか。
(固有名はシルバーでよろしいですか?)
あぁ。OKだ。
俺の固有名がシルバーになるとダーウィンがインクとペンと魔法紙を持ってくる。
魔法紙をみると文字が単語なので一応読める。名前と年齢、種族、種類、職業を書き、最後に血印を押す必要があるようだ。ギルバートが受け取り代筆しようとする。
俺はギルバートから強引にペンを盗り自分で書いていく。
周りが感嘆の声を上げる。
最後に右指で左手の親指を爪で傷つけ血を右親指に付けて押す。左手はすぐにヒールで治し、付いた血は舐め落とす。
書いた魔法紙をダーウィンに返す。
ダーウィンが詠唱を始め魔法を唱えると魔法紙が光だし魔法紙に書かれていた魔方陣から四角い金属製の銅のカードが出てきた。仕組みが分からん。
「本当に出てくるとは前代未聞だな。」
出てきたカードを手にとって見るが表にシルバーの名前とランクFの文字が書かれているだけだった。肌身離さず持っていろと言うことだろうが俺には付けられる物がない。
「ギルバート。お前が持ってやれ。」
俺のカードを手にとってギルバートに渡す。
「それしかないですね。でもこれで保証できますね。」
「できれば服みたいなものを身に付けていれば間違いようがないんだがな。だがこれで迷宮に入れる。お前が近くにいるから心配ないと思うが頑張れよ。」
「はい。」とギルバートが答えて一緒にギルドを出る。
馬車もうないようなのでギルバートの後を付いて歩く。俺が珍しいのか周りの人達は遠巻きに見て、俺達が歩く道を空けてくれる。
「待たせて悪かったな。ようやく迷宮に行けるぞ。」
「オウ。」と返事をして一緒に迷宮まで歩いていくのだった。