144:魔物降臨
意識を戻すと、隣ですやすやと寝息を吐くサーモが俺の手を握り寝ていた。手をそっと書物から離すも、神話のページは火の神様に渡したからか何一つ情報を持ち帰る事は出来なかった。
「おはよう、サーモ」
そっと声をかけると、むにゃむにゃと口を動かし、そして俺をじっと見つめてからサーモも立ち上がる。
「遊多さん、おかえりなさい。遅いです、本当に遅いですよ」
「なかなか戻って来れなくてごめん。そんな、おい泣くなよ、どうしたんだよ?」
「もぅ、大変だったんですからね? うぅ、動けますか? 動けます、よね。こっちに来てください」
俺は少し慌ててるサーモに引っ張られ、没入室から出る事となる。その際、入口は扉だったはずだが、と大きく穴の開いた壁から外へと出た。
それから向かった先は、ギルド書庫の更に奥にある個室だった。その個室に入ると、モロとパトラがスヤスヤと地べたで寝ていることろだった。
「おう、なんでこんな場所で?」
「主様、おかえり。それにしても大変な事になったね」
「うわっ、クゥ? どうしてここに?」
「あっち側に潜りっぱなしの主様を気にして、様子を見に来てあげたのよ? ああ、お腹空いちゃった。でも良いわ、少し急を要す話だからね」
珍しくクゥが真剣な顔つきをみせ、俺も思わず息をのんでしまう。
「主様、今モロとパトラは治療中。両腕を魔物に襲われて負傷しているの、まぁ私が治癒したから一眠りしたら元気になるわ。で、ここからが本題。既に一部の魔物たちが暴走を始めているの。理由はわかるよね? それで厄介なのが三匹程こっち側にいるわけ。内一匹は北の大陸に降りたわ、これはミューズの一族が何とか出来ると思う。そしてもう一匹はここから遠く離れた場所、これも誰かに任せちゃいましょう。そして最後の一匹がこの町に来るコースを辿ってるわ。私が何とかしちゃっても良いんだけど、今の主様なら何とか出来ると思うの。だから、名残惜しいけど私は一度向こう側に戻るわ。主様の手料理を食べたかったけど、それはまた今度にするの。わはっ、頑張ってね」
お喋りなクゥだったが、何かとんでもない事を任されるだけ任されて消え去ってしまった。これは何ですか、俺、魔物退治しなきゃダメな流れなの?
「遊多さん、没入して丸一日ツリィムの中に居たんですよ? クゥが様子見に来てくれて、魔物を既に一匹倒してくれたんです。ミューズも今は休息をとってますけど、手も足も出なかったんです。それで、それで」
サーモは少し取り乱したように話を続ける。どうやら今回現れたという魔物は相当危ない存在らしい。それが再びやってくるのだというのだ。
「て、ちょいまち。丸一日没入してたのか? 二十四時間は居なかったと思うんだけど」
「何を言ってるんですかっ、もう一日以上経ってますよ! 心配、したんですから」
ごめん、と謝りながら俺は神様達の言葉を思い出す。魔の神が討たれ、魔物が暴走を始めると。その内の一匹がこの町に……。
「ああっ! 深浦さん起きてたんですね! ああ、それよりもパトラ様、起きて下さい!」
バシバシと頬をはたいて無理やり起こすミーネさん。
「痛い、痛い。何だ、ミーネ?」
「パトラ様、第一、第二部隊が壊滅しました。死者はゼロ、負傷者は百を越えました」
「ふぅむ、困ったね。おや、深浦も起きておったか?」
パトラに声をかけられ、軽く会釈しておく。
「そういえば、暴食の神が言ってたお前さんなら倒せるというのは、本当なのかな? 先ほど、少し聞こえておったんだが」
「えっ、その、俺では無理だと……」
「そうかそうか、無理か。でも、お前さんが前に立つことにより指揮があがるんじゃ。やってくれるな? 神を従えし使者よ」
「うぅ、わかりました。でも無理そうなら逃げますよ? 本気で逃げますからね?」
「よしよし、町の南側に魔物は居るそうだから頑張ってきておくれ。本来なら私の出番なのだが、先の戦闘で既に戦闘不能なのでな」
俺は意を決し、魔物の居る場所へとタマコの背に乗り、サーモと二人で出撃を開始する事となる。




