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火の世界の豪炎  作者: PP
三章-ツリィム-
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139:女心

 目覚めると、慣れない感触に頭が支えられていた。何だろうと気になり、寝返りをうつと正面に男の顔が見える。


「やぁ、起きたかい?」

「あっ、はい」

「いやー良かった、死んでたらどうしようかと思ったよ。そうだ、それでさ」


 俺は目の前の男性の言葉よりも、今の体勢を理解するのを必死に否定するのに務めた。


「いやー本当に良かった、膝枕して看病した甲斐があったよ」

『ヤーメーテーーー』


 ガバッと起き上がろうとして、体が動かない事に気が付く。そして声も出ていない。


「ん、どうしたんだい? そんな怖い目をして」


 落ち着け、落ち着くんだ。俺は火を操作に意識を集め、ゆっくりと立ち上がってみせる。ああ、俺の人生初膝枕が男だなんて。


「介抱してもらったみたいで何かすみません」

「いやぁ、いいっていいって。それよりもさ、無知の神の好きな食べ物とか知らないかい? ああ、好きな飲み物でもいいよ!」

「えーと、紅茶が好きそうでしたね」

「紅茶? ふむ、ありがとう。俺は紅茶という物を調べなければいけない用事が出来たのだ、これにて失礼するよ」

「あだっ」


 俺の認識速度を大幅に上回る速度で消え去る神様。ふと、体に違和感を感じ胸元を触るとそこには笛らしき物があった。


「これ、何?」


 少しだけ余裕がでてきたのでそんなクエッションマークを浮かべながら、そっと衛生兵ラジオチャットを発動させておく。喉から野太い声が漏れ出て、すぐさま体の不調は完治してみせる。


「これ本当に便利だよなぁ、何度でも使えるのかねコレ……」


 少し不安を覚えつつも、俺は立ち上がり辺りを見回してみる。無知の神様の部屋からでた無駄に広い白い空間。いつもの転送部屋にいけるものとばかり思っていた為、これからどうしたものかと頭を悩ませる。すると、俺の考えを読み取ってくれたのか空間が歪み扉が二つ、後ろに一つある部屋へといつの間にか移動していた。


「やっぱり神様、見てるんすね。今三枚集めましたよー、後七枚も本当に必要なんすか」


 俺はぐんにょり声で尋ねる。クゥと氷の神様はすぐにページを貰えたが、無知の神様に至っては下手すると一生かかっても手に入らないどころか、目的を忘れそのままツリィム内で放浪人になってしまうところであったのだ。結局丸一晩かけておしゃべりをして神話のページを貰えた訳だが、それでも一晩は費やしているのである、後七枚も集められるのだろうか? それよりも、俺の現実の体大丈夫なのか……。


「まぁやるしかない、んだよな。次の部屋は」


 チャットを打つ手が止まってしまう。二つの扉にはそれぞれ見知った単語が書いてあるのだ。一つ目のタグには文字の間と書かれている、そしてもう一つには宝石の間。文字の神様も気にはなったが、宝石という単語に引っかかってしまった。


「あーあー、サーモが喜びそうな神様だなぁ……」


 俺はそんな思いだけで、宝石の間へと進んでしまった。更なる試練が待ち構えているとも知らずに。




「あら、飾り気のない子が来たものね」

「あの、どうも」

「貴方が今、神話のページを集めて回ってる子よね。知ってるわ、貴方の噂はもう皆知ってるわ。何しろ退屈な世界ですから」


 神様って皆、暇なのか……。


「私の神話ページが欲しいのよね? 良いわよ、でもただあげるだけじゃ面白くないわ。そうね、私に一番似合う宝石を選んで見せなさい」

「えっ?」

「そこの棚にこの世にある全ての宝石があるわ。勿論、ここにあるのが原型。貴方達の世界に散らばってるのは複製品なんだけどね」


 ここから宝石が配られていたのか、というトリビアに感心しつつ俺は棚に目をうつす。が、棚? これ、壁ジャナイデスカ?


「あの、これが全部宝石、ですか?」

「ええ、そうよ? 綺麗でしょ? 全部私の物なのよ、さぁ、選んで見せない人の子よ」


 うわぁ、これは無理だろう。棚の高さは俺の目線にあわせてくれているのか5段の棚には、手で握れるほどの塊がゴロンと、三個づつ置かれている。一棚に十五塊

の宝石が、少なくとも視野に収まらない程遠くまで続いている。


『この中からって、多すぎませんか? ただですら宝石をプレゼントした事なんて……』


 そこまで言葉に出さずに考えるも、サーモに贈ったけか、と思わず頬をかいてしまう。


「取り敢えず綺麗なのを探してみますか」


 意気だって棚をみてまわる、が宝石の塊を見ても何が何だかさっぱりわからない。これは困った、非常に困った。手に取ってみると、思った以上にずっしりとした重さに、手を滑らしそうになる。


「そうじゃ、もし落として割ったりしたらお前さんの世界からその宝石は剥奪するから、丁重に扱いな」

「は、はい」


 宝石に触るのは危険だなと重い、そっと棚へ戻す。しかし、あの神様に似合う宝石って何なんだろうか。見るからに胸が大きく、髪の毛も長いので女性なのは間違いないだろう。そもそも、神様って性別があったんだなと今更ながらに思う。飾り気満載の椅子に腰かけ、腰のラインをみせる為かハイレグ水着みたいな服を着こなしている。しかし、ボディラインをみせているが体に宝石を纏っていないようである。髪の毛も束ねていないし、化粧をしている様子も無く、ただただ都会の大人のお姉さん(休日バージョン)といった感じである。


 しかしそんな女性、それも宝石の神様に似合う宝石とは一体何なのだろうか? 誕生月でも聞いてみるか? いや、もし対応する宝石がわかったとしてもそれが似合うと同意義かわわからない。困った。


 棚を眺めつつ、俺は意を決して宝石の神様に振り返る。


「あの、神様」

「もう決まったのかい? どの宝石が私に似合うか言うてみ」

「俺は思うのです、神様に似合うのはコレなんじゃないかと」


 俺はそういうと、自らの火の操作をしてみせる。フレイザーの要領で一つのリングを作ってみせる。勿論フレイザーもどきなのだが、覚えてる感覚通りに操作したつもりではある。


「何の真似かな?」

「すいません、俺の火で。でも、このフレイザーという火の制御方法は紛れも無く火の神様が生み出したリングなんです。この火の神様が生み出したリングならば、間違いなく全ての宝石が栄えると私は思うのです」

「で?」

「故に、私はリングのみを身に着けていただければと考えました」

「そんな下らない発想しか出来ないとは、やはり人の子は人の子か。まぁその火は受け取っておくよ」


 俺の差し出した火を奪い取るかのように手に取ると、右手の薬指に填めてみせる。つまらなさそうな顔をしながら、いつの間にか手に持っていたページをさっと差し出してくれる。


「これを持っていきな。次はちゃんと宝石を選ばないと承知しないよ?」

「あ、ありがとうございます」


 少し怒り気味の神様から神話のページを無事受け取ると、俺は何度もお礼をしながら扉の外へと逃げ帰った。


「ふぅ、火の神様のリングならいけるかと思ったけど全然ダメだったなぁ。でも、ありがとうございます」


 俺は扉越しに一礼すると、再び二つの扉に阻まれる。後六枚とか、もぉ無理ぽ。



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