135:トンカンの町攻防戦(夜)-3-
なんでこんな場所にアイツのアレが居るのかな? 私は異変を察知し、こっそりと様子を見に主様の居る町へと訪れていた。つい数時間前から私達の世界へ行ったっきり、どうやら戻ってきていないようなのである。どの位置に潜ったかまではわからず、取り急ぎ来てみたのだがどうやら取り込み中のようである。
一匹の魔物が牙をむき、三人の知り合いに襲い掛かろうとしているようだ。ここへ来た本来の目的とは違うが、しょうがない。流石に人の身、精霊の身では荷が重いだろう。私は逃げるミューズの目の前に着地してみせると、その隣を通り過ぎるミューズの顔に驚きが見て取れた。ふふ、可愛い娘だ。
前脚で踏みつけようとしていたのだろうが、私は腕を組みそれを見る。
「ふむ、魔の神の使い魔がこんな場所に居るとは、何ぞ? ついに人類でも滅ぼしにかかったか?」
「グルルルル」
言葉を持たぬか。魔の加護でもあれば、通じる事も出来ただろうに。残念な奴だ。
「悪いのぅ、私は人の世を楽しんでいる所なのだ。邪魔をされるのは私は嫌いだ。わはっ、そういう訳でごめんね?」
踏みつけようとしていた前脚がふいに消滅すると、そのままバタンと前のめりに倒れ込む魔物。私はゆっくりと近づくと、魔物の頭を撫でてやる。
「いただきます」
食事の前の儀式。感謝を込めて食事をする前の言霊だ、ふふ、そんな事を考えて食べるなんて私には一切思いつかなかった、けど、これも主様の知識のおかげである。一味、味が良くなった気がするのである。バシュという音と共に、魔物の体は血の一滴も流すことなくそのまま消滅してしまう。
「んー、もうちょっと何か食べたいなー。後で主様に何か作ってもらうかな? わはっ、それがいいや、それと……」
私は今だに背を見せ逃げ続けるミューズの前に移動してみせると、挨拶をしてみせる。
「こんばんは、ミューズ。今日は星が綺麗ね、いつかあの星も食べてみたいわ」
「や、やっぱりクゥが来てたのか。死ぬ直前にみるっていうアレかと思ったわ」
「わはっ、死ぬ直前って何か特別な物が見えるのかな? そんな体験した事ないからそんな事があるなんて初めて知ったわ!」
「そ、そうですか……で、先ほどまでいた狼野郎は何処へ?」
「ここ」
私は自分のお腹を指さすと、ペロリと舌なめずりしてみせるのでした。
暴食の神サイツヨ説。




