134:トンカンの町攻防戦(夜)-2-
全く、北の大地では負け知らずだった私も世界にはまだまだ上がいる物だと思い知らされる。稲妻が音よりも先に光の刃として襲い掛かり、音を聞いた時にはその地点が黒焦げになっているのだ。戦神の加護を纏っていなければ、今頃稲妻に打たれたことにすら気が付かないままこの世を去っていただろう。
「ちぃ、近づけない」
モロも後方から樹操作で攻撃しているようだが、全て堅い皮膚に弾かれて有効打を与えられていないようだ。それに、あの滅茶苦茶な火操作をしているパトラも参戦しているみたいだが、その攻撃すらも有効打には成りえていない。
光が走るラインを見極め、その線が伸びきる前に移動し狼野郎の稲妻を回避し続けるも、相手はまだ一歩たりとも動いていないのである。ただただ、その場に佇んでいるという異常な光景である。
私達の事なんか全くの無視である。真っ赤に輝く鋭い視線は、ただひたすら空を見上げているだけだった。そんな狼野郎との距離を徐々につめていくも、モロとパトラが一気に距離を詰め大技を叩き込もうとするのを察知し、折角詰めた距離だが一度距離を取り直しモロとパトラの元まで下がる。そして二人の大技を見て私は思う、滅茶苦茶だと。
だけど、そんな滅茶苦茶な火力すらも魔物へはほとんどダメージを与えれていない状況だった。そして、やっと私達の存在に気が付いたのだろう、その真っ赤に輝く瞳が私と合う。
「なんで私なんだよっ」
まだ攻撃すら出来ていないのに、何故か私を捕える狼野郎。瞬間、前脚が視界から消える。反応できたのは戦神の加護の御陰だろう、奇跡的に姿勢を下げ頭上にその巨大な脚が通過していく。スパンという空気を裂く音と共に、距離をとるため低姿勢から後転し、そのまま地面に手をつき跳躍してみせる。その際、半捻りを加えて魔物に背を向ける形で着地すると、一気に駆け出す。
その視界に映ったのは、モロとパトラが巨大な樹と火の壁を作り出し先ほどの一撃を受け止めていた光景であった。ただし二人とも膝をつき、両腕をダランと垂らしている状態である。
「大丈夫か!?」
二人のもとに行き、私は首根っこを摘まむと更に魔物との距離を取る。救いは、それほど私達に興味がある訳ではないのか、追ってこない事だろうか。
「うぅ、痛いぃ」
「喋る元気があれば上等だな、それにしても何なんだよアレ」
「さぁな、私の火がサッパリ効かないのだ、軽く絶望してるよ」
「絶望同意、それを踏まえてこれからどうするかを考えなきゃ」
「ふふ、貴女は強いのね?」
「そんな事言ってる場合じゃないだろ? おいっ、何気を失ってるんだよ!」
モロもパトラも気を失い、動けるのは私だけになってしまった。こんな魔物、このまま放置出来ないぞ……。
「深浦 遊多……」
私は不意に恩人の名を呼んでいた。あの男ならば、この状況すら打開できるのではないかと。そんな期待を込めて私は絶望の先に、祈り、頼ることしか口に出来ない自分が嘆かわしかった。ただ、それでも、彼ならば……。




