132:神話の内容
私は神話の一ページを手に取ると、氷の神の奴がコソコソ何を書いていたのか中身を覗き見る事にする。
「火の神様、ああ、何て美しい方なんだ。僕は君を見た瞬間から虜さ、同じ女性として渾身の想いを貴女様へ届けます」
何が虜だ、いつだったか突然私の部屋へ押しかけてきて、文句を言うだけ言って、その後にいきなり好きだと言い出すトンデモ野郎じゃないか。だがまぁ、こんな気持ち悪い『日記』を永遠と書いてるとは。早く何とかしないと。
神話の内容を見るのを止めると、深浦 遊多に二つの扉を前に何か悩んでいる所だった。一つは土の神か、あいつのは何を考えて日々過ごしているのだろうか。興味が尽きない、私はここから出る訳にはいかないので是非とも持ち帰ってほしいところである。そしてもう片方の部屋は無知の神か。あの間に入ってしまえばもう二度と戻ってこれなくなるだろう。さあ、深浦はどちらを選ぶ?
「よし、こっちに入ってみるかな」
私はしっかりと、深浦の言葉とその移動先を確認する。その扉のタグには無知の神と書かれていた。その部屋をわざわざ選ぶか深浦よ、土の神ならば温厚で話くらいは聞いてくれるはずなのに。神には二つ名がつきものである、土の神ならば大地の神。暴食の神ならば殺神の神。無知の神別ならば、忘却の神などなど。まあ、深浦に期待し過ぎたのかもしれない、無知の神は全ての記憶を無に帰してしまうのだ。あの間に入ってしまえば、全ての思考は停止してしまうだろう。
「何だここ、真っ暗だな……ん、あそこに居る人が神様かな」
「えっ?」
思わず私は声に出して驚く。無知の神の領域に入り、何故思考が出来るのだろうか。そもそも、私ら火の神、創造神ですら何の用で接触したか忘れてしまう程にあの根暗野郎の力は恐ろしいものである。
私はクククと含み笑いをする、何故かって深浦の持つ異質な火が、いよいよ何なのか気になってきたのである。
「全く面白い奴が私の世界に迷い込んできたものだ、是非あいつに加護を贈った神ともご対面してみたいものだ」
引き続き、暇を持て余している私は深浦の観察を続けることにした。




