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火の世界の豪炎  作者: PP
三章-ツリィム-
131/147

131:もえる? いいえ、燃えません

 開いた扉の先には、先ほどまでいたのA区より若干狭い空間が広がっていた。ただし、本棚は見当たらず代わりに中央に一人の女性が一冊の本を片手に読書に没頭しているようだった。俺が入った事に気が付いたのか、読んでいた本を閉じると俺の顔をみて話し出す。


「やぁ、やっと来たね。人の身でありながらここに辿り着けたのは君が二人目だ、おっと自己紹介でもしておこうか。私は火の神だよ、といっても二代目だがね。さて、一先ずこの場を借りて礼を述べよう。ありがとう、あの多喰らいの神の関心を他所へ向けてくれて」


 俺は言葉に詰まる、この女性が火の神様? トップは確か三代目にあたるとか確か言ってたな。で、この人が暴食の神、クゥを地上に導いた張本人。俺を餌にした先代様というやつですね。


「いえ、クゥには逆に助けてもらいましたし、トップの手助けがなければ今頃俺は自分の無力加減に嘆くしか出来てなかったと思います」

「アハハハハ、この空間でそんなに話せるなら合格だ。では、もう一役かってもらおうか。私の火とは全く別の火を持つ者よ、神話のページを集めてきておくれ。我はここを動けないのでな」

「えっ?」

「何を驚いておる、我の依頼の件か? それとも、神なのにここから動けない事かね?」

「えっと、その両方です……」

「良いだろう、依頼については至極簡単。我は暇なのだよ、神話のページは多ければ多い程いいのだよ。次だ、我がここを離れればお前たちの世界の火が乱れる。すなわち、崩壊だな。本当はトップがここに居るべきなのだがね、あの子にはまだ勤まらんのだよ。それじゃあ、神話のページを手に入れる度に呼び寄せてあげるわ、それじゃ行ってらっしゃい、二つの火を持つ者よ」


 何だ何だと、理解する間もなく俺の足元は消失し自由落下を始める。


「うぇ、やばっ」


 地表は氷に覆われているのに、何故か蒸し暑く感じる空間に放り出された。地上まで落下して体を叩きつけられたら、流石に即死だろう。俺は咄嗟に空を飛ぶイメージをする。


「豪炎:ロケット!」


 背を大地に向けた状態で豪炎ロケットを使用する。通常は足元から噴出される白煙だが、今は緊急事態だった為に背中から煙をもくもくと出して落下速度を抑える。但し、はたから見ればどうみてもケツから大量の煙が出ているので……。いや、俺からの目線じゃ自分が見えないし、この際気にしてる場合ではない。


「っるせーな、誰だよ俺の空間に土足で入り込む奴は」


 そんな俺に対して、一つの男性的な声が聞こえて来る。途端、地上までまだ数秒はかかると思っていたのだがズシンと背が大地に叩きつけられる衝撃を感じる。肺から空気が漏れ、カハッと息が漏れ出る。


「何だ何だ、人か?」

「いてて、助かった……よな?」


 そして声のする方に首だけ動かし確認すると、男性的な声だったが予想と違い短髪の女性が仁王立ちしていた。


「ん、何だテメェ、喧嘩か? 喧嘩するのか、俺と!」

「い、いえ待って下さいゲホゲホ、何でそうなるんですかっ」

「何でって、テメェ人の空間にいきなり土足で入って来て何様だアアン? ああ、俺は神様だフフン」

「へ……?」


 俺の思考は一瞬停止するが、すぐに切り替える。この世界で思考停止して固まっていたら命取りになるのだ。


「火の神様、ですか?」


 神様と聞き、まさかこの人が初代の火の神様かと当たりをつけるも違っていたようだ。ニハッと口を開き、嬉しそうな顔をする。


「面白い事をいうな、テメェからお前に格上げだ。まぁ火の神と間違えるのは仕方ないな、そりゃもう仕方がない。何たって火の神の次に偉いからな、うん。俺は氷の神だ。火と相性が悪いと言われるが、それは大きな間違いだ。いいね? 私は火の神の愛人だからな、ふふ」

「は、はぁ」

「いつも想いを込めて氷の刃を打ち放つのだが、私の厚い厚い想いが籠った氷を溶かしてくれるのは火の神だけだ、ああ痺れるわぁ」


 何だこの人は、ただの変態か? とは口には出さなかった。


「そ、そうですか。ところで、神話のページを集めて来いと火の神様より依頼を受けここに来たのですが……」


 取り敢えず、現状出来る選択はありのまま話す事しかないので尋ねてみる。


「ああ、私の神話を欲しがるなんて、照れ屋さんだな火の神は。良いわ、俺のページを持っていきな。お前は見所がある、困ったら俺を呼べば多少は助力してやるよ。くれぐれも、火の神にページを渡すときは、愛してると伝えてくれよ?」

「わ、わかりました」


 ページを受け取ると、俺の体は再び先ほどいた火の神の部屋へと戻される。


「ふむ、まぁ氷の神は大丈夫だったようだな。まぁ奴はちょっと特別だからな、では次からが本番だ、頑張ってくれたまえ」

「えっ、えっ!?」


 俺の手に握られていたページは消滅すると、再び暗転する。今度は何だ? と思い落下に備えるが、特に浮遊感は感じない。無意識に目を瞑っていたことに気が付き、ゆっくりと瞼を開く。


「今度は何処なんだよ……」


 見たことのある部屋に移動していた。真っ白で、正面に二つの扉。振り返るともう一つ扉がある。これは間違いない、トップと初めて出会った部屋である。


「そうだ君、ページは十くらいで十分だよ。揃ったら手前の扉で戻ってこれるからね。それまでは前に進むしか許さないよ。さぁ、我の為に舞い踊りたまえ」


 声だけが聞こえてくるが、火の神はどこにも見当たらない。試しに背後にあった一つの扉をあけようと試みるが、鍵がかかっているのか開かない。


 そして二つの扉を前に、俺は立ち止まる。左側の扉には土の間へと続く扉とタグが張られており、右側の扉には無知の間とタグづけされた扉があった。これは、どちらか攻略して先に進んで行けという事なのだろうか。


「これ、下手して変な神様にあたったらやばいんじゃないか?」


 俺は頭を悩ませ、一つのアイディアを試すことにする。


「そうだ、これがあったけか」


 帰還用の紙を手に握り、一度元の世界へ戻ろうと試みる。しかし、案の定というか何というか。


「うん……」


 ミーネさんは確かに言っていた、この紙を燃やせば良いと。うん、燃えれば良かったな……。


 俺の拳に発せられる豪炎は、紙をメラメラと燃やしてるようなエフェクトだけ出して、全くもって燃やす事が出来なかったのである。


「帰れねぇ……」


 

帰れねぇ

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