128:鍵
「遊多さん、これに記されてる場所はスグそこですよ」
「お、そうなのか」
サーモが指さす方角をみると、ギルド本部前に一軒の家が建っているのが見て取れる。それはあまりにも不自然で、思わず確認をとってしまう。
「なぁ、この周辺って明らかに居住区じゃないよな?」
「そうですね」
「あの家、明らかにギルド本部よりもデカイよね?」
「そうですね」
「あれ、俺の家になったの?」
「そう、ですね」
うはっ、と頭に強い衝撃を受けたような立ちくらみを覚える。あんな立派な家が俺のものになったのかと、動揺を隠せない。
「はぁ、俺パソコン部屋があればいくらでも引込めるのになぁ」
「何か言いましたか遊多さん?」
「ん、いや何でもない。とりあえず行ってみよう」
そういうと、俺とサーモはマイハウスへと歩き出す。モロとミューズ、タマコはその後に続く。モロは本当にパトラの火にあてられたのか、少し元気が無いようで心配である。
「間近で見ると、更にでかいな」
俺が見上げると、ゆうに3階建てはあるだろう巨大な木造住宅がそびえたつ。ギルド本部は地下に広がっているので、比べる意味はないのだがやはり、周辺の建造物に比べて異常に巨大な家なのである。
「そういえば、鍵がないっていってたけど……」
俺は丸型のドアノブをガチャガチャと捻ってみるが、感触は完全に鍵がかかってますよ? といった手ごたえだった。
「これ、中入れねぇじゃん」
「ええ、それじゃダメですね」
「うぇ」
突然の声に何事かと振り返ると、その声の主はおらず。代わりに股間の周辺が輝き出しているのに遅れて気が付く。
「なっ」
「お久しぶりです、もう少し待ってください」
と、言われるがまま待つ事数秒。ミョンという音と共に光は霧散し、そこから現れたのはトレント族のジュさんであった。
「皆様、お久しぶりです。モロさんは少し元気なさそうですね? トレント茶はいかがですか」
「物騒なものすすめるなよおい」
「冗談ですよ、それはさておき」
俺に代わり、ドアノブに手を触れるジュさん。そしてやはり、と一人頷く。
「ジュさん? いきなりどうしたんですか」
「失礼しました、こんなところで先代様に出会えるなんて思いもよらず、挨拶に参りました」
「先代、様?」
「はい、この家の素材、まさしく我等トレントの守護樹だった先代様の一部で造られたものでございます。ああ、私がまだ数センチしか伸びてなかった頃、よく栄養を分け与えてくれました。懐かしい」
「は、はぁ」
どうやらこの家はトレントを素材として造られた家らしい。よくも、あんな北の大地からこんな場所まで運んだものである。そんな関心をしていると、ジュさんは再びこちらに振り返り頭を下げて来る。
「深浦さん、私をそこにある砂場へ差し込んではいただけないでしょうか」
「えっ?」
「宜しくお願いしますね」
そういうと、再びローブにさげてた元のトレントの枝へと戻ってしまった。
「ヒヒヒ、トレント茶のみたかったな」
「そんな冗談はいらねぇよ。取り敢えず試してみるか」
俺は枝を手に持つと、円状に砂状になった場所へと枝を刺し込む。
「あふん」
枝から変な声が聞こえた気がしたが、構わずずぶずぶと枝を地中に潜らせる。すると、カチリと確かに開錠の音が聞こえたのである。
「まさか、これが鍵……?」
「もしそうだとしたら、誰にも開けれない訳ですね」
「お兄ちゃんの為に用意されたような家だな」
「ゆーた、早く入ろぅ」
「んんん」
何故かタマコは、俺が股間を光らせたのが嬉しかったのか股間を光らせながら一緒一緒、と一人はしゃいでいたのであった。
「おじゃましまぁす」
何故か自分の家になったというのに、小声で家の中へと入ってみる。すると、内装はただの木造住宅ではなかった。
「まじかよ……」
「うわぁ」
「ヒヒヒ、これはこれは」
「ゆーた、早く入ってよー」
「んんん」
視界に入ったのは、俺の世界にあったような部屋が広がっていたのだ。もっとわかりやすく言い替えよう、内装がバッチリ現代の物がまるまる置いてあるような家なのである。
「何だよこれ、食事机も一枚板の良いものだし、これ冷暖房? リモコンは、あった。いや、蛇口ってまさか水が出るなんて……でたぁぁ」
一人テンションをあげはしゃいでいるが、他の皆も一様に興味深そうに家の探索を始め出す。
「タマコ、ここ好き!」
声がする方をみると、何故か室内に砂場が設けられている。そこにゴロンと寝転がると、気持ちよさそうに目をつぶってしまう。タマコのスペースは決まりである。次は二階から声がする。
「遊多さん、私この部屋使っていいですか!」
階段を登り、サーモの声がする場所へと向かうと木彫りの不気味な人形が二体ほど置かれた部屋で目を輝かせていた。
「お、おぅ」
「ありがとうございます!」
ベッドもカーテンも完備、大人しめの白色を基調としていた。そこは階段を登り、踊場の正面、左右と部屋があるうちの左側の部屋だった。
「ゆーた、私この部屋使いたい!」
「お、次はモロか」
今度はサーモの部屋の正面側から声が聞こえる。扉を開けると、再び俺は声に出して。
「お、おぅ」
とだけ応えた。中を見ると、ピンク一色で統一された部屋で、壁紙もピンク、家具もピンクと目が居たくなりそうな部屋であった。そういえば、最初に出会ったころも不思議な服装してたっけか、と思い出す。
「ちょっと、休んでおくね」
「うん、無理すんなよ」
モロもタマコ動揺、無防備にベットで寝転がるとすぅ、すぅとすぐさま寝息をはきだした。
「まだ完全に体力は戻ってないか、長旅お疲れ様」
そう言いながら俺はそっと扉を閉じる。すると、今度は上の階から独特な笑い声が聞こえて来る。
「ヒヒ、ヒヒヒ。ふふ、ふへへ高い場所はやっぱり良いわ!」
三階に登ると、正面とその対側の二部屋の扉があり、声は正面から対側の部屋から聞こえてきていた。
「入るぞー」
そういい、扉をあけると家具はベッドしかなく、他の部屋よりかは明らかに質素な部屋がそこにはあった。壁紙もなく、これぞ木造といった部屋である。
「街を見下せるなんて、やはり私は、ふふ」
「おーい、ミューズさーん?」
「ふふふ、ふふ、、、ふ? あ、あぁ、お兄ちゃんか。みてみてよ! この景色、最高だわ!」
言われるがまま、外を覗いてみるとギルド本部を完全に上から見下せるような位置取りとなっていた。そして、視界を徐々にあげていくと街を一望できる上、砂漠地帯と平原との境界線までみてとれた。
「おぉ、これは良いな」
「ヒヒ、私はここに世話になるぞ」
「お、おぅ」
次々と部屋を決めて行く皆、俺もどこか部屋を決めようと三階の正面側の部屋に入ろうとドアノブをガチャリと回すが、開かない。
「な、何故だ……」
急いで、二階の正面の部屋のドアノブをガチャリと回すと今度は確かな手ごたえがあった。
「良かった……」
そう思い、扉を開けると俺はそっと開けた扉を閉じる。何故だろう、何なんだこの家は。もう一度、そっと扉を開け直してみる。
「まじかよ」
扉をあけると、半畳の間が広がっており、リクライニングシートと小さな机、そしてその机の上には……。
「パソコン、じゃなくてツリィムときたか」
確かにパソコン部屋があればそれでいいって言いましたよええ、でもね、これはあんまりじゃないですか……。
再びそっと扉を閉じると、一回のリビングに移動し見慣れた調理器具とシステムキッチンを前に、タマコから卵を幾つか貰い食事を作り逃避するのであった。




