127:報酬
「ところで、どこか格安で泊まれるあてってないでしょうか?」
パトラちゃんにそう尋ねると、少し悩む素振りをしてみせすぐさま閃いたといわんばかりに、一つの資料を胸元の中にある空間から取り出して見せる。
「そうだね、君たちには報酬をくれてやらんといけないと丁度考えていたところなんだよ」
パトラちゃんが喋っている最中に、やけに大人しいモロとサーモが両サイドから俺のローブをキュッキュッと握って引っ張ってみせる。どうやら、早く此処を出たいという合図らしい。
「報酬、ですか?」
そんな二人にもう少しだけ待って、と小声で伝えその紙切れを覗いてみる。
「どうよ、良いでしょ?」
「え、ええ、良いですねコレは」
文字が読めないので、内容がよくわからないのだが家のイラストがあるので、この紙がは宿屋のフリーパスか何かだろう。
「では、この土地とそこにある家を君へ授けよう。一等地だから周辺へのアクセスも最高だわ」
「お、おお……」
まさか、土地と家を貰えるなんて思いもよらなかった。が、しばらくはこの街へ滞在する予定だったので宿代が不要になるのは非常に大助かりである。
「ありがとうございます」
「では、この紙に君の火を転写してくれ。それで権利は君の物となる」
「転写、ですか……」
よくわからないが、取り敢えず触れて火の操作をしてみればわかるかと、紙に触れてみる。すると、ツリィムに没入する時と似た感覚を覚えるが、一瞬でその感覚は消え失せた。
「よろしい、ではそこはもう君の物だ。好きに使いたまえ、ただし……」
椅子に戻り、座ってからニッと笑みを見せるパトラちゃん。
「その家はな、ある一級建築家と名乗る者が建てたんだが、凄すぎて誰も中に入ったことがないのだ。鍵も無い、まぁ自由にやってくれたまえ」
なっ、と声を失ってしまう。凄すぎて家に入れない家って、何なんだ。モロの家に入るのは相当苦労した記憶があるが、まさか高所に建っているとかそんなオチではないだろうか。と、そんな事を考えていたら再びクイックイッとローブを引っ張られる。何故か大人しい二人が気になり、俺もここを出る事にする。
「ありがとうございます、早速行ってみることにします」
「また何かあれば、いや何もなくとも遊びに来るが良い。私は歓迎するよ君を」
頬杖をつき、未だに笑みを浮かべるパトラちゃんを残しギルド本部から撤退する。外に出ると、盛大な呼吸音が聞こえて来る。
「スーハァーーー」
「ぷはぁぁぁぁぁ」
何事、と振り返ると大人しかったモロとサーモが一斉に深呼吸を始めたのだ。
「ど、どうしたんだよ二人とも。それに何だか様子が変だったぞ?」
「どうもこうも無いですよ! 遊多さん、よくあんな人と平気で会話してますね! こっちは呼吸の仕方すらわかんなくなっちゃうところでしたよ!?」
「ゆーた、鈍感過ぎ。でも、そこが良い」
「何なんだよ二人とも?」
「お兄ちゃん、パトラは異常。あの火は神クラス、いやそれ以上じゃないかな。思わず私も加護を纏った、あんな緊張久々。ヒヒ」
「そ、そうだったのか……」
どうやら、パトラは本当にただの幼女では無かったようだ。が、土地と家を貰ったので深呼吸を繰り返す二人に歩み寄り……。
「なぁ、ところでこれ何て書いてあるんだ」
と、質問するとやっぱり読めてなかったんだ、と呆れ顔を浮かべられるのだった。




