125:アラートは繰り返す
俺達はのんびりと、タマコの背に乗りギルド本部のあるトンカンへと向かっていたのだが、先ほどから嫌に聞きなれてしまった音が聞こえて来る。
『ピリリリリリリリリリ』
ああ、頭が痛い。この展開は何度目なのだろうか。
「なぁ、聞き間違いじゃなければこの音って」
俺が声に出すと、サーモも頷いて見せる。
「遊多さん、この音は間違いなく……」
「だよな、やっぱりそうなんだよな……」
「ん、何の話しをしているのだお兄ちゃん?」
モロは音が聞こえ出した頃から、タマコの頭元まで移動して仁王立ちモードである。
「この音はな、間違いなく」
俺がミューズに説明しようとした時、モロが俺達の方を向き話しかけて来る。
「ゆーた、皆っ、降火球がくるよっ!」
「お兄ちゃん? モロは何を言ってるのかな?」
「あー、そうだなぁ、取り敢えず上を見上げれば良いんじゃないかな」
俺達はモロが天を指さし、その指の先を目で追う。すると、俺達が居る上空より更に上空より巨大な火の球がゆっくりと落下してきているのがわかった。
「なぁ、モロさん? 降火球って何なんですかアレはっ」
「んー、サーモの方が詳しいと思うよ! 私、名前しかわかんないや」
「ここで私にふりますか。あれは火具を利用して、火球を空高く打ち上げ、落下させる火の制御です。上空で火球の威力と大きさを増し、ゆっくりと目標に向かって落ちて来る必殺の一手ですね」
「ヒヒヒ、お兄ちゃん? 何で私達は狙われてるんだ?」
それはこっちが聞きたい、と言い返したかったがそんな余裕はなさそうである。
「そんな事は後で考えよう、今はアレを何とかするぞっ」
仁王立ちするモロの近くまで駆け寄ると、モロは空を見上げながら何かを考えているようである。
「ゆーた、何個までいける?」
「はい?」
俺は瞬間、モロの言葉を理解してしまう。一つの巨大な降火球しか見えていないのだが、どうやら迫ってきているのは一つでは無いと、そう言いたいらしい。
「はっ……何個だって撃ち落してくれるわ!」
「流石ゆーたっ! いくよっ!」
「よしきた」
モロは最初に迫ってきた降火球に向かい、腕から派生させた樹のランスを投擲する。瞬間、爆音と共に降火球が一つ中央より貫かれ、霧散する。
「いたぁい」
モロの投げた衝撃が、タマコに直接伝わったのかタマコが涙声で訴える。モロはしゃがみ込むと、足元を撫でてタマコにごめんと言う。しかし、降火球が一つ霧散したが続いて三つほど俺達に向かって落ちてきてるところだった。
「次は俺だな、くらいやがれセット装備2! からのロケットランチャーファイオー!」
俺はロケランを装着すると、降火球に向かって発射させる。着弾すると、綺麗に俺の弾は霧散して消え去ってしまう。
「あー、うん。ダメでした!」
前回のように、火具を利用した火でなければ俺は無力らしい。知ってたけども。
「遊多さん、私がやります」
サーモが後方から、矢筒に手をかけ弓を引く。射た弓は降火球の中に飲み込まれ、そのまま姿を消してしまう。
「遊多さん、ダメでしたっ!」
元気よくサーモはそういい、俺に謝って来る。うん、俺もダメだったから偉い事は言えないけど、どうしようか?
「ヒヒ、こうなったらしょうがないね、やるしかないね」
そういうと、ミューズはおもむろにタマコの背から跳躍する。再びタマコが痛いっと声をあげるが、お構いなしに空高く舞い上がったミューズは……。
「おお……」
思わず声を上げてしまう。ミューズは降火球の中に包み込まれたかと思うと、拳一つで降火球を霧散させてしまう。残る二つに向かって、更に火球を放ち相殺させてしまったのだ。見える範囲の降火球を全て消滅させると、ミューズはすたっとタマコの背に舞い戻る。
「痛いよー」
タマコはミューズの着地時にも、その衝撃を背に受け更に涙声である。
「よーしよし、タマコ、良く頑張ったなー」
「お兄ちゃん、そこは私を褒めるところだろう?」
「あー、うん。お疲れ!」
「ヒヒヒ、頑張った甲斐が無いじゃないか」
と強気な発言をしつつ、ペタンと座り込むミューズ。戦神の加護を使ったのだろう、少し休憩が必要そうである。
「それにしても、今回は何で狙われてるんだよ俺達」
俺の疑問に答えてくれる奴は、この場には誰も居なかった。
「ゆーた、降火球があと10個くらい飛んでくるよー」
俺は頭を抱えてしまう、ミューズは休憩中。モロは何故か仁王立ちのまま、サーモと俺は戦力外。困った。
「遊多さん、この前使ったのはダメなんですか?」
この前使った奴、とは豪炎ペーストで作りだしたフレイザーの事だろう。しかし、あれを使ってライラ様怒ってたよなぁ、と思いかえす。
「あれは無しだ。さて、考えよう」
「タマコ、痛いのやだよー」
「ん、ごめんなタマコ」
「また頭や背中をガンガンするつもりだー、やーだー」
そういうと、タマコは今までとは比べ物にならない加速を始める。
「このままあの街に入っちゃうよー」
「うんっ!」
タマコとモロは何か通じ合ったように、言葉を交わす。このまま街に入る? はて、まだ俺の視力では街は全く見えないのだが。二人は、何を言っているのだろうか。
「タマコ、やっちゃいなさい!」
すると、モロがそういうと同時にタマコに異変が起きる。
「うわっ、何だ!?」
「ヒヒヒ、ヒヒ」
「遊多さんっ、何ですかこれっ」
三人がパニックになる中、モロは仁王立ちのままうんうん、と頷く。
「変身っ!」
タマコの声が聞こえたと思ったら、俺達はタマコの剛毛に覆われてしまうのだった。今までと違う毛質になったタマコは、俺達をその剛毛の中へと埋もれさせる。そして暗闇に襲われたかと思うと、剛毛が輝きだす。
「皆、大丈夫か!?」
剛毛の輝きにより俺は視力を回復させると、皆俺の周辺で座り込んでいるのを確認した。そして、タマコの声が聞こえて来る。
「もうすぐ着くよー」
何だ、と? 今の一瞬に何があったんだと、突っ込みたくなるがモロが語り出す。
「タマコは変身をまだ2回残してるわ」
「んなバカな話しがあるかっ」
今度こそ突っ込みを入れるが、剛毛の中に出来たのだろう空間から俺達は解放される。いつもの毛質へと戻っていったのだ。そして目の前には、タマコが言った通り巨大な門がそびえたっており、門番か、いやギルド員だったのだろう人の集まりがそこには出来上がっていた。
「あ、あのぉ……」
「お前達、何者だ? まさか、報告にあった深浦一行、とは言わんよな」
「ゆーた、呼ばれてるよ!」
代表者なのだろうか、俺達に話しかけてきた人物は頭を抱える。その姿を見て、俺も同情するのであった。
「何か、すいません」
それだけを言うのが、今の俺の精一杯であった。




