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火の世界の豪炎  作者: PP
二章-精霊降臨-
122/147

122:美味しいよ

 会場内では人々がタマゴの天ぷらで腹が満たされ、徐々に終盤ムードへと移行しつつあった。にも関わらず、チャーハンの盛ってある皿は手つかずのままであった。そこへミューズからリミットが近い事を知らせる言葉が発せられる。


「5000皿出来上がったよ」


 無情にも、既定の食数を用意しきったが未だに誰も口に入れてくれてないのだ。


「おい、しっかりしろ。折角私達が頑張っているんだ」


 そう言われても、5000皿を用意するのに約3時間かかる計算で作っているのだ、もう直にタイムリミットだ。


「くぅ、こうなりゃ時間一杯まで追加で作ってくれ!」


 俺は少しでもこの匂いを会場内に広げるために、規定数以上の調理を進める事にする。会場に集まった皆もこの匂いに根負けして一口食べてくれるはずなのだ。仲間の皆も疲れているはずなのに無言で調理を続けてくれる。


「神様、モロを助けるべく俺に力を……」

「ばか者、俺に祈ってどうする」

「ぐぅ」


 祈るしか出来ない自分に、そしてこのような結果を導いた考えの甘さに悔しさが募る。ここはゲームの世界では無いのだ、いかに美味しくても人々の心に届かねば何の意味も無かったのだ。


「はーい、では既定の三時間となりましたので、食べて美味しかった方の色にボールを変色させて投票をお願いしますー!」

「ま、待ってくれ……」

「まだ手元に料理が届いてない方は、食し次第投票をお願いします」


 会場がざわつく。まだ手元に届いてない人から早く食べたいという声や、既に天ぷらは食べ終えたがチャーハンをどうしたものか、と悩んでいる者。天ぷらが美味かったので問答無用で青組へ投票をする者。会場が投票開始により更に賑わう。この会場では、既に俺の声は誰にも届かないのである。


「た、頼む! 皆、一口でいいから食べてみてくれ!」


 徐々に会場では天ぷらの話題一色になろうとした時、赤組から光が放たれる。


「な、何だ!?」


 誰の声だったのだろうか、会場を包み込む程の光量が赤組のとある一点から放たれたのだ。驚きと視界を奪われる事により、会場内にいる人物は動きを止め一瞬の静寂に包まれる。


「美味しいよっ、ゆーた!」


 その静寂を一番に切り裂く声は、俺の良く知る人の声であった。俺も閉じていた瞳を開くと、視界の先にはチャーハンをがっつくモロの姿が入る。


「何やってんだよ、モロ……」

「えへへ、良い匂いがするから来ちゃった」


 サンド亭の制服姿のまま、モロはこの会場へとやって来ていたのだ。追加で作っていた皿が一つ減っていたが、いつの間にか取っていたらしい。


 俺達の会話が会場内に響き、他の人々も何が起こったのかと視界を回復させつつ状況を判断していく。更に二つの声が会場内へ響く。


「応、これは美味いな。深浦は料理の才もあるのか?」

「シゼル、喋りながら食べるのはお行儀が良くありませんよ」

「てめっ、自分だって凄い勢いで食べてるじゃねぇか」

「オホホホホ、しっかり私は遊多様の料理を良く噛み飲み込んでから発言してますわよ? ああ、それにしてもこの舌で踊る不思議な味の数々、そして喉を通る時の風味、とても美味しいですわ」


 俺は会場の奥の方でチャーハンを食べているシゼルさんとメイさんの姿が見える。会場からはその二人に気が付いたのか、ざわつきが走る。


「遊多兄ちゃん、これうめーよ! 何杯でも食える!」

「こらフレク、口から飛ばして汚いわよ」

「フライ姉ちゃんだって顔にタマゴつけててきたねぇー」

「うん、美味い」

「これは興味深い、知らない具材が全て美味い」 


 今度はシャーケギルドのフレク、フライ、オギリ、モクの声が響き渡る。


「サーモと仲良くしてるみたいだな深浦、こんだけ美味いもん食ってりゃ大丈夫そうだな」


 そしてベンがチャーハンを平らげた皿を掲げ、俺に語り掛けて来る。


「うう、故郷の味だぁ」

「こら理深、泣きながら食べない。しかし、これほど味を再現するとは深浦君、君が居てくれて俺達は嬉しいよ」

「うう先輩、俺も頑張ってきて良かったよ」


 今度は別方向から、二つの声が聞こえて来る。海道と金色の声が。


「お、お前達生きてたのか……それに皆……」


 会場内でチャーハンをガッツイて食べる姿に、ついに皆の一口目が動き出す。


「う、うおおおおお!!」

「な、なんじゃこりゃ!?」

「なぁにこれぇ」


 つられるかのように次々にチャーハンを手に取り、口に放り込んでは歓声が巻き起こる。


「み、皆ありがとう」


 モロがニコリと笑みを浮かべる。ほっぺたに米粒が付いてるので後でとってあげよう。それにしても、と俺は振り返る。


「もしかして……」


 先ほどの光と良い、このタイミング。皆が助けてくれたのか?


「うータマコ、緊張しちゃって光っちゃったよ」


 タマコを見ると、股間の辺りが若干輝いているようにも見える。不思議な奴だ。


「わ、私はギルドの皆にも食べに来てとお願いしただけで……」


 俺の知らないところでそんな事までしてくれてたのか、ありがとうサーモ。


「トレント族が見つけたあの三人に、この都の事を教えただけだぞ私は」


 海道と金色、もう一人はシゼルさんの事か。あの三人に情報を伝えてくれたのか、ありがとうジュさん。


「私も頑張ったぞお兄ちゃん!」


 無駄に大きい胸を強調させるミューズ。何故か戦神の加護を纏っているようである。


「な、お前……」

「こうしなきゃ皆に配膳出来なかったからな」


 頬をかきながら、俯きながらネタをあかしてくれる。そうか、ミューズが皆に配ってくれていたのか。


「まぁ後は俺とクゥの二神で必要そうな言葉だけ会場内に響き渡るようにしといてやったわけだ」


 そうか、そうじゃなきゃこんなにも俺の大切な人たちからの声が響き渡る訳ないもんな。


「皆、皆本当にありがとう!」


 俺は皆に向かって礼をする、がトップが厳しい一言を伝える。


「ばか者、まだ勝負はついてないんだ。最後まで突っ走ってからにしろ」


 そうなのである、やっと皆が食べ始めてくれたのだ。ここで気を抜くわけにはいかないのである。


「皆様、このチャーハンは冷めても美味い、出来立ても美味い、俺のとっておきのレシピなんです。どうか、食べてみてください!」


 俺がアピールしている間も、投票され続けるボールが音をたて中央にある集計缶へと次々に流れ込んでいくのであった。


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