121:チャーハンVSタマゴの天ぷら
俺は口の中にほのかに香る油で揚げた天ぷらの味に、内心美味いと叫びながら焦っていた。炒飯を極め、少なくともこの太陽の都で食べれる食べ物よりも一味も二味も群を抜いて美味いと確信していたのだが、思い直す。
「くそ美味い、だけどそれだけじゃねぇ」
この土壇場でわかってしまった、この地域の主食は何だ? タマゴである。なら、何故俺はこんなにも美味しくこのタマゴの天ぷらを食したのだろうか。答えは簡単だ、毎日食べてる主食が抜群に美味しくなって口の中に入ったのである、これ以上に破壊力のあるレシピは無いだろう。それに比べ俺の炒飯はタマゴを利用しているものの、仲間は美味いと言ってくれるものの食べたことのない味ばかりなのである。主食が更に美味しく食えるのか、未知の美味しいを求めるのか。
会場に集まっているのは都市を破壊され追いやられた人達が半数、それを受け入れてんわやんわになっている太陽の都の民。日常食が間違いなく求められる場面なのだ、未知の味を求めている客はこの場には居ないのである。
「遊多さん、落ち着いて下さい。大丈夫です、この炒飯は間違いなく皆に愛されます。勝負は必ず勝てますよ」
「お兄ちゃん、私もこんなに美味い物は初めて食べたよ。北の民と呼ばれる私でも美味しい物は美味しいのだ、安心していいよ」
俺はサーモとミューズに励まされ、再び闘志を燃え上がらせる。これに勝たねばモロを助け出すことが出来ないのだ、やるっきゃないのである。
「おおう、どんどん作ってくぞ!」
俺の気合いの一言に皆頷き、次々と炒飯が完成していき客席へと配られていく。
「それでは、皆様の手元へ次々と料理が届きだしているのでここで青組の料理から案内をお願いします!」
アナウンスが響き、ヴィッシュが次々に飛んでくるタマゴの天ぷらを皿でキャッチしながらマイクに向かって語り出す。
「俺達Ⅷ騎士は、冷凍タマゴの天ぷらを作らせていただいた! 衣を纏ったタマゴの中身はとろっとろ、外の衣はサクッ、新しいタマゴの味を堪能していってください」
会場からは冷凍タマゴの天ぷらを頬張った客から歓声が上がる、そりゃ俺だって美味いと思ったんだ、当然の結果だろう。
「続きまして、赤組の料理の案内をお願いします!」
赤組にあるマイクへ近づき、俺は料理の説明を求められる。少しだけ緊張しつつ、俺は炒飯の説明をする。
「俺達は炒飯という料理を作らせていただいてます。お米とタマゴ、そのほか様々な食材を細かく刻み一緒に炒めた料理です。俺の故郷の料理で炒め物では最強と言われてる一種です、是非食べてみてください!」
俺は説明を終えると、会場はざわつく。そしてひそひそ話しなのだろうが聞こえて来る声。
「なぁ、匂いは良いがコレ食べれるのか?」
「それよりもこのタマゴの天ぷら、本当に美味いぞ」
「このボリュームといい、外と中の味のバランスも最高ね」
「うーまーいーぞー」
俺達が出した炒飯を食べている様子は見て取れず、会場からはタマゴの天ぷらへの絶賛の声が次々と湧き起こる。
「このままじゃ……」
皆が一生懸命練習して身につけた料理技術、それに今も必死に永延と炒飯を作ってくれているのだ。俺はマイクに向かってもう一声会場の皆に声を送る。
「みなさん、一口で良いんです! 一口、一口で良いでお願いします!」
俺の声も虚しく、会場からは炒飯を食べた感想の声は一切届くことなく刻一刻と制限時間が迫るのであった。




