120:RE:噛ませ犬なんていわせない byⅧ騎士
「バウバウ」(それじゃ、やりましょうか)
私の声に皆が頷き、持ち場に着く。深浦さんの赤組はどうやら見慣れない食材を次々に取り出しているようだけども、この味勝負の意味をまるで理解していないととれる。
「バウ」(皆、準備はいい?)
私達は横一列に並ぶ、最初にパリィが声を上げた。
「それじゃ行くぞ!」
声と共に彼は氷操作を使用、白煙が立ち込める程キンッキンに両手は冷やされている。そんな手をタマゴの山に突っ込んでは私に向かって投げつけて来る。
「バウッ」(もうちょっと優しく扱いなさいよ全く)
ペタンと、私の肉球がキンッキンに冷やされたタマゴの表面を打する。ピシリとタマゴの殻に亀裂が入ったのを確認する間もなく、アヴィがタマゴを奪い取る。
「さっさと終わらしましょう」
奪われたタマゴは殻だけを綺麗に剥がされており、その凍った中身をアヴィはおもむろに思いっきり投げる。
「はいきた」
そこにレンが溶き続けているタマゴ液をかける。
「ほらきた」
タマゴ液を浴びた凍りタマゴは勢いを殺す事なく更にプルムが用意した謎の粉を浴びる。
「任せて」
タマゴ液のおかげで謎の粉を十分に纏ったソレはプルムが土操作で創り上げた横長い土の筒の中を通る。その中では凍ったタマゴは油を更に浴び、出口付近にて火の渦を通過する。
「はいよ」
ボルカが生み出した火が土筒の中で渦巻き、謎の粉を浴びていたタマゴは黄金に輝く衣を帯びた姿に生まれ変わる。
「いっちょあがりっと」
ヴィッシュがその衣を纏ったタマゴをキャッチすると、早速一皿が歓声する。
「バウバウ」(良い調子ね、ペースあげてくわよ!)
私達が選んだ料理、それはこの大陸なら誰もが親しんでいる食べ物を使った料理である。但し、タマゴを凍らせないと作れないという欠点があるが、それ故にタマゴの新たなる味に感動を誰もが覚えるであろう。
その名も、凍りタマゴのテンプラ。ほら、早速深浦さんはこちらに駆け寄ってきた。
「ちょ、ちょっとそれって!?」
あの慌てよう、既に降参しちゃうのかしら?
「バウバウ」(何かしら深浦さん、話なら私が聞くわよ)
「あ、あのその料理って天麩羅なんじゃ……」
「バウ」(あら、天麩羅を知ってるなんて。一つ食べてみる? ふふ)
「いや、そういう問題じゃなくて」
深浦さんは食べてみたいのだろう、私は完成品の一つをヴィッシュに運ばせる。少しだけ調理がストップするが問題ないだろう。ほら、何か言いたそうだけど食べた顔が凄く幸せそうで何よりだ。
「バウ」(どう? 美味しいでしょ)
「美味い、じゃなくってこれって揚げ物じゃ……」
「バウバウ」(揚げ物? これは少量の油を纏ったタマゴに火を通す。炒め料理の最高峰の調理法よこれは)
「なん、だと」
その場で膝をつく深浦さん、悪い事をしてしまったかしら? それでも味勝負だもの、私達は手を抜くわけにはいかないわ。
「そんな、タマゴ液に冷凍タマゴで天麩羅とか……そういう事か」
どうやら深浦さんも気が付いたようです、誰もが食べ親しんだタマゴをメインに使った料理がこの場でどれだけ好まれるかという事に。
「くぅ、覚えてろ!」
深浦さんは捨てセリフを吐いてそのまま自分のブースへ戻っていきました、とりあえず私達も調理を再開しましょう。
「バウバウ」(どんどん作っていきましょう)
冷凍タマゴの天麩羅は瞬く間に会場へ行き渡り、会場は次々に絶賛の渦に包まれていくのだった。
冷凍タマゴの天麩羅。揚げ物? いいえ、炒め物です。




