110:タマコとジュの場合
タマコは今、とてもピンチなのです。思わず股間に力が入って発光しちゃいそうなくらい、ピンチなのです。
「うー、見れないよー」
どうしても、調理場面というのは慣れない。コカリリスが捕食されていく姿を何度目にしたことか。タマゴに関しては、食べてもらっておおいに構わないのだが、タマゴを調理しているとわかっていても怖いものは怖いのである。
「なぁタマコ、やっぱり目は開けれないのかな?」
「うー、いじわる言わないでー」
この人はタマコ使いが酷いのです、でもモロも助けたいから頑張るしかないのです。
「そうだ、料理ってのはな」
「うー?」
材料を予め必要分だけ小分けにしていくんだよ、と言いながら瓶に入っている塩や中級油などをそれぞれ小さなボールに移し替えていく。
「これならどうかな、調理自体は不思議と出来てるんだからタイミングつかんで順番に投入していくだけで作れるぞ」
「やってみるー」
私は手順通りに、そして先ほどまでは瓶の中身をガシガシと放り込んでいたのだが、今回は片っ端から小さなボールの中身を投入していく。
「出来たよー」
そしてあっという間に完成したそれを見て、今回も上手く作れたな、私が焼かれなくて良かったなとそんな事を思いながら完成品をこの人へ渡す。
「お、良いじゃないか。良くやったな」
頭を撫でてくれるので、思わず目を細めて笑みを浮かべてしまう。これなら、私にも出来そうだ。モロを助ける手助けが出来たらいいな、と妄想するのであった。
水と砂だけしか必要ない私が料理を覚えるなんてと、不思議な気持ちになりつつ部屋の端っこに移動する私であった。
私はタマコちゃんが無事卵巻きを作り上げるのを見届けると、次は私の番かとばかりに卵巻きを作り上げる。今度はこの赤い粉を入れてみよう。
「ほら、出来たよ」
「ジュさん、見た目はいいですね」
そしてパクリ、と深浦君がかぶりついたソレからはジワッと濃厚な黄身が半熟でとろけだし、真っ赤なスパイスが輝きを放って流れ出る。
「ぐえっ、み、っみみみみ水」
貴重であろう水をがぶ飲みするとは、この男やりおる。
「ジュさん、何入れたんですか……」
ジト目でみつめられ、素直に教える私。なんて優しいのかしら、私わ。
「ここにあった赤いのと、この赤いのを入れてみたの。いいアクセントになってるでしょ? 見た目も綺麗だし」
「や・め・て・く・だ・さ・い」
きっぱりと切り捨てられた、何がいけないのだろうか?
「料理はまず、レシピ通りに作ってください。アレンジは今は良いですから、お願いします、余計な物を一切入れないでください、教えた通りにやってください」
はぁ、とため息をつきながらわかったわよ、と返事をする。他の子達と同じように作っても何も面白くないのだけど、そこまで言われたのならば一度くらいはレシピ通り、彼の言う通りに私のテクニカルな美味しくする技を封印してでも、作ってみよう。
「はい、こんなのになっちゃったわ」
「お、おお」
完成した何の面白みもない、そして何の工夫もなく味のアクセントも無い、他の人が作り上げているソレと同じ物を作り上げてみせる。
「はぁ、だめよねやっぱり面白くないわよね」
「いいえ、美味しいですよジュさん」
彼は私の作った卵巻きを美味しそうに食べてくれたのである。
「悪くないわね」
そう思い、レシピ通りでも人を笑顔にさせる事が出来るのだと知る私であった。




