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火の世界の豪炎  作者: PP
二章-精霊降臨-
108/147

108:油

 俺達はライラ様の許可を得て、厨房に来ているところである。


「それじゃ、まずは個々の技能チェックといきますか」


 俺は冷蔵庫らしき物をあけようとするが、上手く開ける事が出来ずいきなり行き詰る。


「ははは、君は本当にこの世界の常識がないな。そんな保管している食材なんて必要ないさ、ほら」


 ほら、と言うとトップはどこから取り出したのか大きな袋に手を突っ込む。すると、中から大きな肉がゴロンと一つ出てくる。


「この通り、食材でも何でも用意できるさ。で、何を作ってみせようか?」


 一同がポカンと、その様子を見詰める。流石火の神様、何でもありなのか。


「えっとそうだ、技能チェックの前に油が厄介って理由を誰か教えてくれないか?」


 俺の言葉にセンチが前に出る。


「私が教えてあげるわよ」


 実はサーモも一歩前に踏み出していたのだが、先を取られたと悔しそうにしていたのに俺は気づかずお願いするよ、とセンチに説明を求める。


「油はアナタも知ってるわよね? ええ、いいわ。この油だけど……」


 トップから出してもらった油を、センチは手の平に少量落とし握りしめる。そして数秒。


「ね、わかった?」

「わかんねーよ!」


 思わず突っ込む。この油だけど、と言い握ったままの姿を見せられただけでは俺は何が言いたいのか全く理解できなかった。


「アナタって人は、本当に火の操作に鈍いのね。ほらよく見て」


 センチが手を開くと、最初に注がれたままの姿の油がそのまま存在していた。


「わかるかしら?」

「……わからん、何が起こったんだよ?」

「ヒントを出してなお理解できないなんて、ため息がでちゃうわ」


 はぁ、とその後盛大にため息をついて見せるセンチさん。この世界の常識なんて知らない俺に、わかって当たり前精神な説明は勘弁っす。


「いい、よく見てなさい? もぅ、これならどうよ」


 と、今度は俺にも手の平の変化がわかった。ゴウっと手の平が火に包み込まれ、油ごとメラメラと赤い輝きを放つ。そして数秒後にセンチは火の操作を止めてみせる。


「これでわかったかしら?」


 手の平に残る油をみて、俺はほんの少しだけ意味を理解する。


「まさか、火が通らないのか……?」

「半分正解、半分不正解。まぁアナタにしてはまともな答えね」

「油って料理の必需品じゃないのか? いや、でも待てよ」


 俺は思い直す。卵巻きを作った時、油なしに何故あそこまで綺麗に巻けたのだろうか。そもそも油を使った食べ物を食べた記憶がない事実に思い当たる。


「この世界の油って、一体何なんだ?」

「やっぱり、油って言葉だけ知ってて何も知らないのね」


 センチは油を先ほどトップが出した肉にソレを塗りたくり、再び火で包み込む。


「ほら、こういう事。基本的に油は火を通し難いの」

「そ、それって料理に使えるのか?」

「普通は使わないわね、普通は。もっと詳しく話しましょうか、油ってのはタマゴの成分にも含まれているし、肉の成分にも含まれているわ」

「ん、どういう事だ?」


 コホン、と咳払いしてここからが本番だとばかりに説明を加える。


「いいから聞きなさい、油ってのは火の制御で火を通した物から出る液体よ。つまり、火の制御に耐えて絞り出された副産物なの」


 と、言うとトップが準備していた三つの瓶を受け取る。そのうちの一つを俺に突き出す。


「油には種類があるわ。まずはこの下級油よ、これは一般人でも火を通せる油ね。食べ物に直接火の制御で火を通して美味しくいただけるのは、食べ物に含まれてる下級油のおかげね」


 すると、次に二本目の瓶を突き出す。


「次にこの中級油よ、これは大人なら大抵火を通せる油ね。弱火で中級油~上級油を抽出させる事も出来るけど、そうすると味が落ちるから大抵は限界まで火を通すわね」


 更に、と三本目の瓶を突き出す。


「更にコレ、上級油はそれこそ神様でもなければ火は通せない油よ。食べ物から出てくる油は基本的にこれね」


「いい? この肉に火を通せば油が出てくるわ。私の火なら中級~上級油が出てくるでしょうね。ちなみに、この油をプールにして保存するのが保管箱ね、覚えといて。では再び問題、チャオ料理とは何を指すでしょうか」


 俺は炒め料理の知識を振り絞る。


「少量の油を使って火を通す料理、であってるよな?」

「正解。じゃぁその手に入る油は何油でしょうか?」

「ん? そりゃ……」


 俺はここでやっと質問の意図に気づく。


「手に入るのは基本的に上級油、になるのか」

「それも正解。火の操作が上手ならば上手な程、取れる油は上級に近づくわ。その油を利用した料理。油ものは、最低抽出した中級油に火を通せなきゃダメなのよ」


 俺は、それなら大丈夫じゃないかと軽く見積もる。何故ならその上級油に火を通せそうな神様が二人居るのだから。


「さて最後の説明よ、高級な油で包んだ食べ物に火を通す程味が深くなる、らしいの。ごめんなさい、私は知識はあっても実際にやった事が無いからそれ以上はわからないわ」


 俺はありがとう、と言い少しだけ悩む。


「なぁ、ちなみに下級油は用意できないのかな?」


 俺がトップに尋ねてみるが、返事は残念なものだった。


「俺がソレを用意しても構わんが、下級油は食べ物と分離した地点で味が悪くなんだ。下級油はゴミだよゴミ、使って料理したところで味は落ちる一方さ」


 はぁ、使える油は中級以上と俺は納得しておく。


「と、なると味が良い上級油をトップとクゥに駆使して炒めてもらおう」

「わはっ、それくらい簡単だよ」

「うむ、俺にも造作もないことだ」


 と、では早速と俺はタマゴをといてボールを二つ、それぞれに手渡す。


「なら、ちょいと卵巻き作ってみせてくれ。簡単だし腕前がすぐわかるだろうから」


 俺は作り方を簡単に説明すると、任せろと神様二人は火の制御でフライパンもどきを造り出す。


「みておれ」

「私もやるよ!」


 と、その中に油を落とすと見事に火が通りバチバチバチと良い音が鳴る、続いてボールの中身をその中に入れた途端、それは起こる。


「「あっ」」


 俺も思わずあっ、と言いそうになった。トップとクゥ、二人とも火の中にタマゴを入れた瞬間にソレは完全に蒸発してみせたのだった。


「……うむ、料理とは深いな」

「うう、食べる前に消えちゃったよ」


 上級油は火を通せない? 訂正しろ、奴等はタマゴごと蒸発させちゃったぞ!


「と、取り敢えず卵巻き出来るまで二人は練習な」

「すぐに創造してみせる」

「私だって、美味しいの食べたいもん」


 二人を放って、俺は次の二人に話しかける。


「タマコとジュさん、準備はいいですか? 油は中級油でいきましょう」

「うー、いいよー」

「私も、いけるわよ」


 タマコは卵巻きを何だかんだ言いながら綺麗に作り上げる、ただ。


「タマコ、お前目閉じて調理するのやめろ。危ないぞ」

「うー、だってー」


 自分が食べられるとでも思ってしまうのだろうか、調理中は目を瞑ってしまうタマコ。でも想像以上に即戦力がここに居たことに俺は歓喜する。


「おお、これが料理か。いいぞ、実にいいぞ!」


 と言いながらジュさんも器用に卵巻きを作り上げる。


「凄いですね、ジュさん」


 綺麗な出来上がりである。と、俺は完成したそれを口に含んで見せる。


「お、おう……」


 ジュさんのソレは、形はよけれど味付けが。


「ねぇ、ジュさん? この味付けって……」

「美味いだろう? 私の体液を混ぜてみたのだ、どうだ? な、良い味だろう?」


 トレントの液、いわゆる狂人化するソレをいれて作ったのかこの人は。


「お茶っぽい味かと思えばそれかー! てか、人に出しちゃダメ! 狂人化しちゃうから!」

「あら、君は大丈夫なのにダメかしらね?」

「俺はきっと特別なんです、だからトレント液はやめて!」

「はーい、ちぇ」


 と、そして次はタマコの作った卵巻き。パクリと口に含むが。


「お、おいタマコさん? コレは……」


 何故だか口の中に広がる強烈な味。


「うーわかんないー、ここにあるの入れてみたのー」


 そりゃ、目を瞑ってたら入れる量が狂うわな。


「取り敢えず、二人とも味付けしっかりできるまでやり直しな」


「うー、モロの為に頑張るよー」

「はーい」


 俺は焦りつつ、次はサーモ、センチ、ミューズに卵巻きを作ってもらう。


「遊多さん、私頑張るわ」

「卵巻き、美味しそうよね。この機会に作り方覚えさせてもらうわ」

「ヒヒ、ヒヒヒ」


 サーモは卵巻きを作っていく、上手なものだ。味付けも問題なさそうである、及第点だ。


「おう、美味い。流石サーモだ」

「えへへ」


 次にセンチの作り上げた卵巻きである。


「うん、これも美味い。薄味なのが憎めないな」

「ふん、これくらい簡単よ」


 センチも見事に作り上げるが、薄味思考なのだろうか。それはさておき、ミューズの作り上げたボロボロの卵巻らしき物を見る。


「ふぅ、ヒヒヒ。お兄ちゃんの為に頑張ったよ!」

「……応」


 パクリ、と一応味見。味はそこまで悪くないが、これはどうみても。


「スクランブルエッグだよなぁ、これ」

「ん、何か変かしら?」

「取り敢えずミューズはもっと練習な、基本動作は大切だからな」


 ぐぬぬ、いつもの笑い方をする事無く唸り声を上げるミューズ。本人は自信があったのだろうが、これは基本動作が出来てない証拠である。基本が出来ずして料理は出来ないのである。


「それじゃ、俺も皆の分作ってみますか」


 俺はタマゴをかき混ぜ、ついでにとマヨネーズを作ってみせる。そして卵巻きにソレを添えて完成させる。


「ほら、マヨタマだ」


 俺の作ったマヨタマを食べて、皆の視線が鋭くなる。


「お前は俺に喧嘩を売ったようだな」

「わはっ、こんなに美味しいのあるのね」

「うー」

「これはこれは……」

「遊多さん、美味しいです」

「アナタ、一体何者なのよ」

「ヒヒヒ、ヒヒヒ」


 どうやら、皆美味しくいただいてくれたようである。が、この味が皆の闘志に火をつけたらしく、この後黙々と卵巻き作りが行われるのであった。


 幸先は不安である。

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