105:お姉ちゃんしてます-1-
私は今日も水運びの仕事を終え、モロの様子を伺おうとサンド亭に顔を出そうとした。彼女は現在、何やら精霊世界とのリンクが断たれて元気が無いらしい。出会った頃の覇気が無く、毎日辛そうだが無理やり笑顔を作っていた。
そんな彼女は、体調が良くないのにお金が足りないとの事で今日もサンド亭でタダ働きを強いられているのだ。私は気になってしまい、毎日顔を出しているのだが今日はサンド亭に近づいた辺りで歩みを止めてしまった。
「ああ、もう戻ってきたのか」
ぼそりと、そんな呟きをしてしまう。私の瞳にはタマコとクゥ、それに知らない子を連れたミウラユウタが映ったのだ。モロと、彼との出会いで私の暮らしは大分裕福になった。それに、スラムの皆も仕事に就く事が出来たのは彼等が居たおかげであり、本当はちょっとだけ感謝もしているのだ。
しかし。
「帰ろ」
私は彼と顔を会わす事も無く、ボロ家へと足早に戻る。何故だか、彼と関わると面倒事に巻き込まれる気がしてならないのである。
「センチお姉ちゃん、お帰り!」
「ただいま、コーヤ。今日はご馳走よ」
「わーい、皆呼んでくるね!」
「ええ、準備しておくわ。今日は沢山パンがあるわ」
やったぜ、と喜びながらボロ家の外へ駆けて行く少年。私達貧民層は、ボロ家を共有して日々の風や温度差を凌いでいる。私達には固定の家はなく、皆で手助けをして各自絆という繋がりだけで助け合っているのだ。この家は、私と他の年長組の兄妹達と共に手に入れた家の一つである。
各ボロ家には、年長組が最低一人はついて親の居ない子供たちの面倒をみている。ちなみに私も年長組の一人だ。そんな私達は、酷い時期には砂を腹に流し込んでいた時期もあった。食糧を買うお金が足りないのである。慣れる事は無かったが、砂だろうと食べれば多少は気を紛らわす事が出来た。自ら進んで食べようとは一切思わなかったが。
そして水不足な今、水運びの仕事依頼は増えるも物価があがり、結局私達貧民層は辛い時期に入っていたのだ。
しかし私達は今では、身辺の環境が一気に変わりつつある。
私は台所につくと、パンをスライスしていく。そうなのだ、この時期に食糧を十分に確保できるだけの資金を得ることが出来たのだ。そして私だけでなく、この辺りに住む子供たち全員に真っ当な給料が支払われる仕事をあてがってくれる事件が起きたのだ。
南にある都市が壊滅したという報告から、全人口がこの太陽の都へとやってくるという話が出てきたのはもう何日前だろうか。市街地などの拡張が必要になり、多くの働き手が急遽必要になったのである。結果、私達は仕事を手に入れるに至った。
全てあのトラブルメイカーのおかげなのである。おかげで、私はひどい目に何度あった事か。私は何故か不快な思いを多々したはずなのに、笑顔がこぼれてしまう。
用意していたタマゴを割り、ボールに落とし今では手慣れた手つきでタマゴをかき回す。ボールの中にほんの少しの蜂蜜を落とし更にかき混ぜる。そこへじわりと、スライスしたパンを片面だけ浸すと、火の制御でジュワリと焼く。
それを何度も繰り返し、タマゴでコーティングされた面同士が重なるように皿に盛っていく。サンド亭で覚えた、タマゴサンドの応用レシピである。一つのタマゴで何枚ものパンに甘い味付けが出来るので、子供たちに大人気である。
外食なんて贅沢をした私は、しっかりとそのレシピを盗み進化させていたのだ。
「センチお姉ちゃん、外に変なのいたから捕まえといたよ!」
そして皆を呼びに行ったはずのコーヤが、そんな事を言いながら戻ってきたのだ。彼は私に何の用があるのだろう、もう私に会う必要なんてないはずなのに。そんな事を思いながら来たのは彼で間違いないだろうと勝手に推測して再び笑みをこぼすのだった。




