表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
火の世界の豪炎  作者: PP
二章-精霊降臨-
101/147

101:お説教

 俺達はチャ川を越え、再び南の大地へと戻ってきていた。


「なぁ、もうすぐ見えて来るんだよな」

「うん、今のペースなら後八時間くらいで着く」


 俺はまだ見えて来ないタナダタの町に向けて、砂漠を歩いていた。チャ川に沿って歩いている為、水には困らないが食糧を持ち運んでいなかったので実は腹ペコである。


 そして俺の背中にはすぅすぅと寝息をはき続けるミューズが居る、とても重い。


「やっぱりタマコの移動速度は魅力的だよなぁ、それに裸足で歩き続けると火傷しそうだよ」


 砂漠を渡るにあたり、火の制御無しではとてもではないが熱さに耐えれる場所ではないのである。と、そこで俺はふと思い至る。


「そうだ、タマコだよタマコ! 呼んじゃおう」

「遊多さん、そんな事出来るんですか?」

「応、イメージはゲームの召喚術なんだけど、何というか呼べちゃった系だな」

「はぁ……」

「まっ、やってみよう、豪炎:フェニックス」


 俺は黒い火の塊、キーボードを具現化し豪炎:フェニックスを発動させるショートカットボタンを押す。


「……」

「……」


 が、カチリと心地よいキーボードのクリック音がするのみで何も起こらない。


「遊多さん、何も起きませんね」

「ああ、そうだな……」


 俺はこっそりと、もう一度フェニックスを発動させるショートカットボタンを押し込むが変化は無い。


「うん、困ったな」

「歩きましょう」


 サーモに背中をポンポンと叩かれ、俺はしょうがないと再び歩き出した。




 陽がくれだした頃、砂漠の温度は一気に低下を始める。俺達はローブについているフードを深く被りこむ。風も強くなり、砂がフードの隙間からパシパシと顔に当たる。火の制御で実害は無いのだが、制御を誤る訳にはいかず常に集中力が削られていく。


「ここで今夜は休憩しましょう」

「こんな場所で野宿か、もう町は視界に入ってるのにな」

「遊多さん、甘く見てはいけません。まだ大分先ですよ、それにしっかり休まないと途中の寒さで凍え死にますよ」


 サーモは火の制御を寒さ対策に割きつつ、進行するのは愚作だと言い何もない砂漠の真ん中で俺達二人は身を寄せ合って座り込むのである。


「それにしても、こいついつまで寝てるんだ……」


 ミューズはチャ川を渡る途中で、途端眠りにつき全く起きる気配が無いのである。おかげで砂漠の中もずっと背負って歩くという苦行を強いられていた。


「ちょっと変ですね」


 とサーモが発言した途端にお腹からグゥと可愛い音が聞こえて来る。食糧難である。


「お腹、空きましたね」

「そうだな……」


 恥かしそうに俯きながら、サーモは体重を俺に預けて来る。一人でこんな砂漠で野宿をしたら、俺はとてもじゃないが寂しくてそのまま砂に埋もれてしまいそうな。そんな事を考えてしまう。


「お前がいて良かったよ」


 俺はそんな事を言い、サーモは無言で頷いたような、そんな夜を過ごす。




 そして夜が明け、開口一番に煩いのが話し出す。


「ヒヒヒ、おはようおはよう。お腹すいたんだけど何か無いのお兄ちゃん?」

「ん、おはよう……」

「おはようございます……」


 俺とサーモが眠っていたのを起こすミューズ。勿論、俺もサーモも警戒しながらの眠りなので快眠できたわけではない。


「お前な、ずっと運ばれておきながらそれかよ……」

「そうですよミューズさん、遊多さんにお礼くらい言わなきゃ」

「ん、そうか。ありがとう」


 妙に素直に謝って来るミューズ、狂人化が解け本来の性格が徐々に戻ってきているのかもしれない。


「で、食べ物はあの町につくまでお預けだ」


 俺は頬をぼりぼりとかきながら指さすと、ミューズが項垂れる。


「えぇ、まだまだ遠いじゃんか……ここで魚とか取れないの?」

「えっ、この川って魚いるのか……?」

「いますけど川の流れがはやすぎて危険です」


 サーモの言葉に俺とミューズは少し考える。何とかして魚が取れないかと。


「しょうがない、私が少し頑張りましょうか。ヒヒヒ」


 そういうと、ミューズはローブを脱ぎだす。俺は思わず凝視するところだったが、サーモにそっと目を目隠しをされてしまう。サーモの体の感触を喜ぶべきなのか、そこは今は考えないでおこう。


「ちょ、その川本当に流れ速いから早まるな!」


 俺が静止の声をかけるも、ボチャンとミューズは川の中へと飛び込んでしまう。


「ああ……」


 俺の脳裏に自身が流された時の記憶が走り、体が必要のない量の酸素を欲する。


「はぁ、はぁ、かはっ」


 サーモは無言で俺を回れ右させると、目隠しをしていた手を外し背中をさすってくれる。


「すまない、ありがとう」

「大丈夫ですか? 遊多さんは確か流されてタナダタの町に来たんですよね……」


 俺の事を察してくれたのか、後ろから抱きしめてくれるサーモ。年下の女の子にずっと慰められ、助けられ続け俺は感謝し、そして……。


「お、おう。それよりもミューズがっ」


 と、心配をよそにバシャンという音が背後から聞こえ、振り返ろうとするが再びサーモに顔の位置を固定される。


「遊多さんは、このまま待っててくださいね」


 サーモがミューズが飛び込んだであろう場所まで向かい、話声が聞こえて来る。


「ヒヒヒ、大量大量。これを食べよう、しかし流れがはやすぎて死ぬかと思ったわ」


 今度こそ俺は振り返るとローブを着たミューズと、両手一杯に魚を握った姿が目に入った。


「だ、大丈夫なのか」

「ヒヒ、これくらい平気よ。何たって戦神の力があるんだもの」

「説明も無しに、無茶はしないでください。それで、どういう事か説明してくれますか?」


 サーモは優しく語り掛けるが、顔が笑っていない。確実に怒っているのだろう。


「ヒヒヒ、ごめんよ? 戦神の加護はオン・オフの二種類だけさ。オンなら体の限界値までの力を振り絞れるの。オフなら何も変わらないわ」


 どうやら、体の限界・そしてそれ以上の力を引き出すのが戦神の加護らしい。但し、使用すれば体や精神は悲鳴を上げ疲労するし、その分の休息が必要になるらしい。


「で、狂人化してればそんな苦行は何も感じなくなるから戦神の加護とは相性がいいって訳よね。良くできてるわ、本当に。で、疲れたから魚焼いてほしいなー?」

「通りで良く眠る訳だ……まぁいい、俺が焼いとくよ」


 俺は魚を受け取り、魚を焼く事にする。


「豪炎:オーブン」


 俺は豪炎:オーブンで火を通す事しか出来ないのである。次第に、魚から良い匂いが漂う。


「ほら、お前から食べて良いぞ」


 功労者であるミューズに焼き魚を手渡す、が神妙な顔でそれを受け取る。


「何か、不思議な焼き方するのね……」


 いつもの笑い声もなく、ちょっと引いたような感じで言われ少しショックを受けてしまう俺である。


「だ、大丈夫だぞ? 何回も木の実で練習したからな!」

「遊多さん、私は自分で火を通しますね」


 残った魚を取り、サーモは火でしっかりと炙り魚をこんがりと美味しそうに焼いて見せた。


「では」


 お腹が相当空いてたのだろう、俺の分を手渡すと同時にサーモはハグハグと食事を開始する。ミューズも何だかんだ言いながら俺の焼いた魚を食べている。




 そんな砂漠の旅も、ついに終了しようとしている。


「やっと着いた……」


 俺達はタナダタの町に入り、間違いなく問題の場所はここだなとモコン様の館前に到着していた。


「深浦君じゃないか!」


 俺の傍に駆けよって来るのはサーモが所属していたギルド、シャーケのベンである。


「お、ベンじゃないか。久々だな」

「そうだな、そしてサーモも元気してたか?」

「うん、リーダー。遊多も私も元気」

「リーダーなんてよせよせ、お前のリーダーはもう深浦君だろ?」

「へへ、そうだった」

「で、それどころじゃないんだよ。クゥとかいう女の子がとんでもない大食いで……」


 そういいつつ俺の顔をジッとみて来るベン。わかっている、俺に早く向かえという事だろう。


「わかった、食堂だよな……?」

「ああ、話がはやくて助かる。急いでほしい」


 応と返事をし、俺達は現場へと急ぐ。ミューズは俺達の影に隠れ、何故か一言も言葉を発しなかった。


「それにしても、また女が増えてたなアイツめ……」


 ベンがそっと呟いた言葉を、俺は聞こえないフリをして駆け抜ける。




「遊多様っ!」


 食堂に辿り着くと、とあるテーブルの周囲に人の山が出来上がり、その傍にはメイさんが立っていた。


「遅いですわ、遅すぎですわ。でも、私の為に来てくれたんですね」


 違います、と言おうとしたら口が開く前にボディを一発入れられる。


「失礼、あのクゥという子を止めていただけますか? 遊多様なら出来ると、タマコさんが仰っていたので」

「ゆーたー、クゥと二人はやだよー」


 泣きながら俺に駆けよるタマコ、一体何があったんだ。


「ほらほら、泣くな。で、クゥ聞こえてるんだよな!」


 俺が声をかけると、ほんの少し胸が出てきているクゥがこちらを向く。


「おお、主様じゃないの。ここは良い場所よ、タマゴが沢山あるの! それに、怖いもの知らずが多くてどんどん私に火を提供してくれるの、この町に住んじゃおうかしら」


 俺はクゥのテリトリーに侵入する、勿論俺を喰う事はしていないようだ。


「わはっ、相変わらず良い火だね主様は。いくら食べても減りゃしない」

「えっ?」

「……ん?」

「俺の火、食べてるの?」

「ちょっとづつ、つまみ食い程度に」

「俺食べられ続けて、死んじゃわない?」

「そりゃ、普通なら倒れちゃう程度には」


 取り敢えず俺は近づいてクゥの頭を小突いておくのだった。


「う、何をする主様」

「俺を食べ続けてるからあの食欲ですんでたのか」


 それはさておきと、俺は本題にうつる。


「クゥ、食べ過ぎはダメだろ? ほら、皆に謝って」

「むぅ、相変わらず主様の価値観ときたら平和主義だなぁ」

「ほら」


 俺は立ち上がったクゥの背を押し、集まっているギャラリーに対して一言。


「みな、些か食べ過ぎたようだ、すまなかった。ご馳走様だよ」


 ここに、タナダタの町での大食い戦記は幕を閉じたのだった。




 俺はクゥに説教をしていたのだが、その後俺とクゥはメイさんに呼び出しをくらい、ちゃんと躾なさい等と説教をくらうのであった。


「ヒヒヒ、お兄ちゃんの周りには変なのが沢山いるな」

「貴女がいいますか……」

「だーれ?」

「ヒヒ、ミューズよ。宜しくね」

「うんー、タマコはタマコだよ。宜しくー」


 そして何故かタマコとミューズは、俺とクゥがメイさんに呼び出されている間にこっそりと仲良くなっていたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ