エピローグ
施設から子供を引き取った家族は、施設の監視指導員と定期的に会い子供との生活に問題がないかを報告する義務があった。
最初は1ヶ月に一度。問題が無いと判断されればその回数は減っていく。
あいの場合、あの母親がそんなものを守るはずも指導員と会うはずもなく、代わりにあいが毎週金曜日に指導員と会っていた。
毎週会うことであいは、母親と再び引き離されることをなんとか見逃してもらっていたのだ。
毎週金曜日の夜7時に、駅前の喫茶店。
そこにあいを担当する指導員はいた。
その顔を見て、あいが会えば分かると言っていた理由を理解する。そしてあいの母親たちを密告したのが誰なのかも。
その姿を確認した瞬間、今までの不可解な出来事すべてが頭の中で繋がった。
そして同時にやっぱり気に入らないなと思った。
ボクのカンはイヤっていうほど当たる。
目的の人物の目の前の席にどかりと座り、まっすぐその顔を見据える。
相手が驚いてボクの顔を凝視し、それから溜め息混じりに笑った。
「これは驚いた」
「…こっちこそ」
「今日で神崎と最後だったのに…フラられたかな?」
その指導員は目もとに笑い皺を作りながら、冗談混じりに残念そうに笑い、開いていたノートを静かに閉じた。
ボクはテーブルに頬杖をつきわざとらしくため息をついた。
「何言ってんだか…」
「次回から神崎の担当は、君の担当に代わってしまうからね」
にこにこと笑みを浮かべ、「何か頼むかい?」とボクに聞き、ボクはその申し出を断った。
長居をするつもりは微塵もない。ボクの役目は指導員のこの男に、「問題ない」とそれを伝えるだけだったから。
「あいはランと予定があるから、代理を頼まれたんだよ。…アンタだとは知らなかったけど…でも納得した、ぜんぶ。アンタの妙な行動も、やっと根拠が分かったよ」
「妙な行動?」
「…テストだよ。あんな条件つけてくるなんて、ボクの事情知ってるか余程のアホとは思ってたけど」
「あぁ、君は施設にいた頃から天才児として有名だったからね。俺のことは、まったく覚えてないみたいだけど」
「ボクはあの施設の人間は基本的にキライだから」
言ったボクに、そいつは目を細めて笑った。
それにもう最初に感じた不快感は感じなかった。
気に入らないのはやっぱり変わらないけれど。
ボクを見つめるその目が、細められる。
「……これからが、大変だな」
ランとは反対の言葉を向けられて、僅かに笑って立ち上がる。
大人と、子供なんだなと改めて思って。
肯定も否定もしない。きっとそのどっちもなんだ。
「アンタのその口の軽さは、どうにかした方がいいと思うよ」
「はは、肝に銘じておくよ」
「それから…」
ボクはそいつと、初めて目を合わせて言葉を放つ。
まっすぐとそれは受け止められた。一体いつから、ボクのことまで見ていたんだろう。
きっと初めから全部だおう。だから大人なんて嫌いなんだ。
「明日、楽しみにしてるといいよ。…笹井センセ」
それから店を出て、足を家に向ける。
明日教室に行くことはまだ内緒で、ランのバカ面が楽しみだと思う。
世界は相変わらず雑音と矛盾が溢れてて騒がしい。
だけど、耳を澄ませることを覚えた。
愛が、呼ぶ方へ。




