Session.6 Neoplasm Part.1
その場所がどこに存在しているのかを知る者は、その内部職員と、彼らを統括するある組織の幹部ぐらいのものだろう。
山中に隠れるように設けられた研究所の中のある一室、僅かな照明だけに照らされた薄暗い部屋の中に立つ一組の白衣の男女が、強化ガラスに隔たれた先の部屋へと眼を向けていた。
一転してそこは、複数の照明により明るく照らされ、ほぼ全面が白い壁に囲まれていた。ただ、天井の一部が開き、そこから重々しい機械が顔をのぞかせている。そしてそこには、一基の巨大な円筒状、透明のシリンダーがつながっていた。それだけが、この整然とした白い世界の唯一の異物であった。
その中には、細身の人間のシルエットが見える。濃い緑色の液体がシリンダー内を満たしており、細かい容姿は判然としない。
男女の背後には、同く白衣に身を包んだ数人の人間が、各々コンピューター端末と睨み合っている。誰もが緊張した面持ちだった。
それに反して、強化ガラスの向こうを眺める男女だけは、平素として落ち着いた様子である。
否、男の方だけは、背後の緊張を少しだけ伝播されているようだ。
男が口を開く。
「“No.9”は、確かにこれまでの実験体の中で最も安定した成長を見せています。DNAの損傷や《ピリグリム》の暴走もありません。規定値以上の成長速度もみせておりません。しかし、本当に大丈夫なのでしょうか?」
その問いに、女が応える。
滑らかなストレートの黒い長髪と、透き通るような肌には未だ満ち足りた若さを感じられる。だが、細く鋭い眼には、ある種老練しているとも形容できるほどの冷たさも存在していた。
歳月を己の人間性以外の何かに捧げた者が辿り着く、ある領域に立っている。そんな眼だ。
「……じゃあ逆に、何故これまでの“No.1”から“No.8”までの実験が失敗したか、分かるかしら?」
質問に質問で返され当惑しつつも、男は数秒思案を巡らせてから、応えた。
「やはり、《ピリグリム》へのプログラミングのミスや、元の細胞に対する不適応……でしょうか」
「そう。まだ他にも原因はあるけど、おおむねそういうところでしょう。さて、『失敗は成功の母』っていうのは、誰の言葉でしたっけ?」
「エジソンですね」
さすがにその問いには即答しつつ、男は彼女がこの言葉を使った真意について考えた。
「つまり、博士。貴女はこれまでの失敗から改善策を編み出して、今回の実験を成功させる確信を得たということですね?」
「少しだけ違うわね」
「……少し?」
女の応えに、彼は虚をつかれた。発明王の、子供でも勉強すれば知っているような有名な言葉に込められた意味が、自分が述べた以外にあるというのだろうか……
無言になった彼を意に介さず、女は続ける。
「私はふとね、この事実に気づいた時のエジソンの気持ちを考えたのよ。彼は何度も努力し何度も失敗し、苦しみあがきながら、ようやく成功するタイプの人間だった。きっと、一度の成功の過程で、幾千もの苦悩と絶望を感じてきたでしょう。失敗を重ねる度に何度自己嫌悪の地獄をさまよい歩いたか、想像もできないわね」
「それは……そうでしょうね」
「そんな中で思い知った。『失敗は成功の母』。これまで積み重ねてきた失敗は、決して無価値ではなかった。これまで幾度と無く味わってきた絶望が全て希望に変わった。自分は失敗することで成功の道から遠ざかっていたのではない。むしろ、失敗する度に成功という栄光の領域へと確実に近づいていた。彼の中で失敗に対する、マゾヒスティックなまでの快感が生まれたことだろうと想像するわ。そして私は、彼の言葉をこう解釈する」
「ど、どのように」
「失敗は成功の母なんてものじゃない。失敗こそが成功そのものなのよ。ただ、成功をいくつにも分解してバラけさせただけ。だからすぐにはそうは見えない。けど、そのバラバラの部品をひとつずつ慎重に組み合わせた時に、初めて気づくことができる。『失敗していたんじゃない……成功の段階を踏んでいただけなんだ』、とね。そう、私はあえて失敗した。失敗から改善策を編み出したのではない、自分の中の仮説を立証するためにね。方程式の答えを導き出すため、まずは式の分解から始めるように」
「……」
男が言葉を失う。
「いくらなんでも、閃きだけで“あれ”を完成させることはできない。ましてや、私が創りあげようとしたのは、“不老不死”。今じゃ漫画でもあんまり見ないようなものだったんだからね。初めは暗中模索という言葉がよく似合う、試行錯誤の繰り返しだった。無限の細胞分裂と、その活性化。いかにすれば両者のバランスを取り持つことができるか……私も多くの失敗を重ねてきたわ――いえ、成功の段階だったわね、フ、フフッ。でも、その度に仮説だったものに確証を得て、成功へと近づいていった。曖昧模糊だったものが、はっきりと形を帯び始めた。“No.5”から後はもう、微調節だけよ。そうしてやっと、確かな形を掴み取ることができた。実験は、今回で成功する。寸分の疑いもなく確実にね」
男は、ただじっとその言葉に耳を傾けるだけだった。
彼女の演説が終わってから胸中に沸き起こってきたのは、大いなる感動と同時に、彼女に対する批判だった。
彼は、強化ガラスに張り付いていた視線を女の方に移す。
「素晴らしいお考えです。それでこその博士。しかし、ひとつだけ言わせていただきたい」
「なにかしら」
「“No.1”から“No.8”は皆“廃棄処分”となりました。死んだんです。彼――あるいは彼女達の中には、デザインベイビーもいれば、事故で両親をなくした不幸な子供もいました……皆、貴女の成功への段階として、死んだということですか。皆、意図的に死なせたということですか」
「そうよ」
女は当然のように応えた。彼の方を見向きもしない。
「大国博士!」
男がわずかに声を荒げる。
「貴女の研究は素晴らしいものです。しかし、人の死を当然のものにして、それでいいのですか。ただの微調節で殺された人間がいると? なぜそうも冷ややかな発言ができるのです!」
ようやく女が、男の方を見た。顔をわずかに動かし、横目で蔑視するように。
「わからないことを」
わからないことを。
その一言が、男の背筋を凍りつかせた。
彼女には、わからないのだ。
彼女の研究のために多くの人間が意図的に、“あえて”殺されたということが、どういうことなのかを。承知した上で後の批難を覚悟しているのでも、開き直っているのでもない。
根本的にわからない。
彼女。大国 八千穂は、28歳という若さにしてノーベル賞受賞者である。
その研究の成果は、《ピリグリム》――“巡礼者”という名で知られている。
ある特定の配列のDNAを細胞に組み込むことで、細胞分裂を活性化、動物であろうと植物であろうと、それが有機体で“生長”するものであるなら、そのスピードを何倍、何十倍にも加速させることができる。
その上、そのDNAの配列を変えることができ、一種のプログラミングをされたように、ある一定の段階まで生長すると加速を止めることも可能だ。また、生長の加速を個体全体か、あるいは個体の一部に選択することもできる。
この研究により、一部の先天性奇形の改善や未熟児の成長、植林樹の生長促進などが実現させ、多大な功績を挙げた。
また、成長した“後”の人間にも、そのDNAは添加することができる。プログラミングにより細胞分裂を最大限まで加速させつつその範囲を限定的に絞れば、重度の傷を、外科的処置無しで短時間に再生することも可能である。
この《ピリグリム》の発明は、ひとえに彼女の中で目覚めた《賢者型因子によるものとされている。彼女はこれを、研究開始からたった三ヶ月で作り上げた。
《因子》の有用性を見せつける、多くの者が知るエピソードのひとつだ。
そして彼女の研究は、これだけではとどまらなかった。細胞分裂の活性化の次の段階へと踏み入っていく。
細胞分裂には回数に限界がある。それがつまり、人の生命の限界に繋がる。
それを、取り払おうというのだ。
すなわち、無限に増殖する細胞――“不死の生命”の研究だ。
《ミッショナリー》と名付けられたそれは、すでに実用段階にまで到達しようとしていた。
しかも、ただの“不死”ではない。
《ピリグリム》との複合――すなわち、“凄まじい早さで、無限に分裂、増殖し続ける細胞”として。
それこそが、あのシリンダーの中に眠る人間である。
大国は、背後の研究員のひとりに命じた。
「シリンダー開放。実験を開始します」
「分かりました。シリンダー開放、実験開始」
丁寧に復唱されるその様は、さながら軍隊の物々しさだった。
指示を受けた研究員により端末が操作されると、強化ガラスの向こうで、シリンダーから勢い良く液体が溢れ出してきた。内部の培養液が、シリンダーが開放されたことにより放出されている。
シリンダーの正面、戦闘機のキャノピーのようなガラスが縦に割れ、緑がかった液体が床面を広がっていく。
やがて、ガラスと粘液の向こうで眠っていたその人間の姿が、露わになった。
まだ幼さも残る、少女だ。全裸のその身体には、未成熟な貧弱さがこれみよがしに張り付いている。白い綿毛のような髪が、どこか人間離れした印象を醸し出していた。
彼女は、シリンダーが開放されたことにより重力の歓迎を受け、崩れるように前のめりになって円筒の外へと倒れこんだ。さながら、箱からこぼれ落ちた操り人形――それ以上に、ドロドロに溶けた挽肉が地面に落ちるような不気味さを男は感じた。
ちらりと大国の方に眼をやる。彼女はもう、助手であるこの男を見向きもしない。
彼女はただじっと、ガラスの向こうを食い入るように見つめている。
うつ伏せに倒れた少女が、両手をつき上体をあげた。そのまま片膝をつき、ゆっくりと立ち上がる。
力なく両手を垂らしわずかに背を反らせた彼女は、数人の人間に監視されていることも知らない様子で、眼を深く閉じ、深呼吸をした。
それは、あまりに突然のことだった。
少女の首と左肩の間、ちょうど鎖骨の端のあたりから、何かが伸びた。
無数の挽肉を貼りつけた“筋”のようなものだった。人間の皮を剥いで、その向こうの真皮と呼ばれる部位をヤスリで削ったような表面の触手が、少女の白い皮膚を突き破った。
彼女は身体をよろけながらも、眼を見開きその触手を見た。
その眼。その眼だ。
その眼もまたおぞましかった。
赤とも黒とも茶色とも、あるいは黄色ともつかない色をしていた。獣の死骸を糞尿ごとミキサーして何十時間と煮込んでできた“煮こごり”を、ガラスの玉に貼りつけたような色だった。
少女の身体から伸びた触手は一気に腕よりも長くなり、その比較対象である腕を前腕部から突き刺した。
そう思った次の瞬間には、腕全体の皮膚が、内側から食い破られるように裂け、触手と同じ表面を持った物体が張り出し、膨張を始めた。グロテスクな表面には、黒い線が模様のようにはしっている。“血管”だ。
針金のように細かった腕のシルエットが不気味に変貌していく。腕そのものが太くなっているようにも、ただ無造作に、無数の風船が膨らむように、あるいは天然の山脈がせり立つようにただ乱雑に隆起しているだけのようにも見えた。それに応じて長さも増している。
なんにせよ、それが人間の“部位”としてはありえないものであるのは確かだ。
少女は、ついに自分の腰よりも太く、身長よりも長くなった腕を呆然と眺める中で、自分の身に何が起きているのか分からないようだった。
男は彼女の様子を、ただ絶句し、眺めているしかなかった。
見慣れた光景ではある。すでに過去に行われている数々の実験で、何度も見ていた。
細胞分裂を加速させる人工のDNAである《ピリグリム》と、テロメアを修復し細胞分裂の限界を延長する技術である《ミッショナリー》。そのふたつを複合させた結果。そのひとつがこれだ。
《ピリグリム》DNAがなんらかの形で破損することで細胞分裂が活性化を通り越して“暴走”し、いわば、通常の何十倍、何百倍もの速度で成長する“腫瘍”が出来上がる。しかも、破損した《ピリグリム》DNAはそのまま肉体全体の正常な細胞まで、奇形した状態で複製する。そのため、瞬く間に腫瘍は身体全体に広がり、全身が呑み込まれる。
局所的に発生したものなら、あのように、本来の部位の何倍もの大きさに膨張する。
常人に添加した《ピリグリム》が暴走するという事例は、稀にだがあるにはある。しかしその場合、すぐに細胞が分裂回数の限界に達し、急速に老化してやがて死ぬだけに留まる。
だがこの場合は違う。限界もなく分裂し続ける細胞は、永遠に膨張するだけだ。
《ピリグリム》が暴走した被験体はその後、研究所内の《Aランク魔導型保有者――膨大な物理的、化学的エネルギーを放出する《保有者》の手により、1,600℃を超える高熱で、細胞の一片まで残らず焼却処分されることになる。
男は、この光景を何度見ても受け付けなかった。
人間が生きたまま、自分の身体の中で誕生した別の何かに喰われる。そういう風に見えて吐き気がしてくる。
もう一度、ちらりと大国の横顔を伺う。
その表情は、彼が想像していたものとはまったく異なっていた。
同じ光景を見る度に垣間見せた、氷のような冷徹な顔ではない。
口を噤み、瞬きすらせず眼を見開き視線の先を凝視するその様には、絶大な期待が存在しているように見えた。一体何に対する期待なのか。
男には、今自分が確固たる現実の世界に立っているのか、分からなくなってきた。
少女の肉体にさらなる変化が生じ始めた。
右肩甲骨の辺りから、新たな触手が出現したのだ。
いや、それは最早触手ではない。細長い肉の塊の先端は五つに分かれており、それはさながら、五本の指を彷彿とした。
そう、腕だ。背中から腕が生えた。本来彼女が生まれ持った右腕の、二倍近い太さと長さを有する第三の腕……
男が息を呑んだのは、その第三の腕が折れ曲がり、地獄の炎に焼かれた罪人のそれのごとく赤黒く爛れた手のひらが、ゆっくりと少女の眼前に近づいてくる光景、そしてそれを眺める、少女の面持ちだった。
先程まで見開かれていた眼は、戸惑いながらも落ち着きを取り戻しつつあるように見えた。ただ静かに、この世のものとは思えない異形をぼんやりと見つめている。その間にも左腕の膨張は続いており、前腕だったであろう部分がビクビクと痙攣していた。
次の瞬間だった。
少女の濁り淀んだ眼に、燦々たる輝きが宿った。
背中から伸びた第三の腕がしなるように躍動し、膨張を続ける左腕を肩の根本から掴んだ。
「うっ!」
男が息を呑む。
次いで、第三の腕の筋肉(らしい部位)が収縮し、赤黒い肉を強靭に隆起させた。
引っ張っているのだ、腫瘍の塊と化した左腕を。肩と腕を繋げている皮膚が、とてつもない荷重を受けて引き伸ばされ、少しずつ断裂していく。
困惑と興奮のために全身がじわりと熱くなるのを感じながら、男は叫ぶように、大国に呼びかけていた。
「な、なにを……あれは、“No.9”は一体なにを!?」
大国は静かに、しかし、男以上の興奮を隠しきることもできないままに、応えた。
「もっとも重要な課題は、無限に行われる細胞分裂を自在に調節すること。そして、増殖した細胞を、自己壊死させること。その両方をクリアすることは、困難を極めた。そんな中で私は、ある発想に至ったの……見ていなさい」
その言葉のままに、男は再び、ガラスの向こうで繰り広げられる異常事態に眼を凝らした。
第三の腕が、少女の左腕を引きちぎった。同時に、鎖骨の根本から伸びていた触手も、周囲の皮膚ごと引きぬかれた。胴体と切り離された左腕は急速に膨張を弱めながらも、それ自体が生物のようにビクビクと痙攣を続けている。
次いで少女は、自分の身体の一部であったものを、部屋の隅、真っ白な壁へと放り投げた。凄まじい勢いで壁に激突した左腕だったものが、ジャムの塊のように飛び散り、真っ赤な血痕だけを壁面に残した。
それで終わりではない。
さらなる事態が、まだ待っていた。
再び少女の眼前に、異形の手のひらが近づいた。再び興味深そうに彼女が眺める中で、そのささくれた木の根のような形の手のひらが、握りしめられる。そうして、また開く、また握りしめられる。それを幾度と無く繰り返していた。
男は気づいた。
操っている。彼女が、あの得体のしれない物体を自らの意思で。それこそ、自分の腕であるかのように。
あの第三の腕が、引きちぎられた左腕と同じものであるとすれば、あれもまた暴走した《ピリグリム》が生み出した腫瘍であるはずだ。正常な神経など通っているはずもなく、脳とは完全に分離され、命令など受け付けるはずがない。
だというのに、彼女は思い通りにあの異形を、異物を、異世界からの寄生体のようなものを、動かしている。
それが意味することは、一体……
突如、第三の腕の各所から。無数の何かが突き出てきた。
真っ白な色をしたそれは、骨か何かが肉を突き破ってきたものであると思われる。あるいは、骨というよりむしろ、爬虫類などの鱗のようなものに見えた。
いや、そのものだ。その無数のものが規則正しく整列し、格子模様を描きながら腕全体を覆う様は、鱗そのものだった。
そしてさらに驚嘆すべきは、その鱗の大部分が皮膚から剥がれ、隣り合う鱗同士と癒着し始めていることだった。鱗同士の隙間が埋められ、格子模様が一気に消えていく。無数の小片が、関節部などを除いて融合し、ひとつの巨大な鱗――いや、最早装甲と形容できるものを形成していく。それだけでなく、本来肉がないはずの場所にまで装甲と同質の物体がせり出し、さながら角のように伸びていた。
やがて、先程まで赤黒い肉をさらけ出していた第三の腕は、篭手のような装甲に覆われた頑強な姿へと生まれ変わった。
部分的に角のようなものがせり出し、さながら太古に生きた有角の恐竜の骨を意匠にしたかのようなシルエットは、さきほどまでのグロテスクさが嘘のように、誇り高い武人が身にまとう鎧さながらの勇ましさと、一種の美しさすらも醸し出していた。
左腕はもぎ取れ、背中から異様な物体が伸びる。
そんな少女の姿を、男はただこの世の終わりに直面したような顔で眺めるしかなかった。
なんだ?
あれは一体、なんだ?
そんな疑問の言葉が脳裏を幾度と無く駆け巡る中で、不意に、少女の視線が彼の視線とあった。
刹那。彼女が微笑した。
心臓をえぐり取られ、代わりに血液を残らず冷却する絶対零度のポンプを入れ替えられたような気分になった。
彼の身の内から、凝縮された恐怖のエネルギーが、爆ぜた。
「うおあぁぁっ!?」
男は悲鳴をあげながら、胸を180mmの徹甲弾で撃ちぬかれたかのように後ろに倒れこみ、尻餅をついた。
全身の筋肉が痙攣し、手足だけでなく、顔までがくがくと痙攣する。
さすがに少し驚いた様子で、大国が彼の方を振り返った。が、すぐにその顔は落ち着きを取り戻し、冷然と見下すだけとなった。
肺まで震えているのか、水の中にいるかのような息苦しさに苦しみもがきながらも、彼は声を振り絞り、大国に――眼前に佇む、“あれ”を生み出した張本人に問うた。
「は、博士……博士ッ! あ、あな、貴女は一体、何を……何を生み出したのですかァ!」
大国は、まずは微笑みを返事にした。ガラスの向こうで少女が見せた笑みと、よく似た表情だった。
「貴方はもしやして、私がただ“不老不死なだけの人間”を作ろうとしていたと考えてたの? フフッ、二箇所違う。どこか違うって? “だけ”と“人間”というところよ」
息を喘がせる助手を冷ややかに見下していた視線を、一秒だけ少女の方へと向け直す。
そうして、身体ごとまた男の方へ向いた彼女は、酔いしれるように語った。
「“不老不死”など必須項目。私が生み出したのは、人造の……悪鬼よ」




