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第445話 見えない穴

 神代朔のサムライ・スーツは、以前よりずっと地味になっていた。白でも黒でもなく、ましてや英雄を象徴するような鮮やかな色でもない。新開市の夜に多いコンクリートの灰色、濡れたアスファルトの暗さ、広告光を受けた時だけ輪郭が僅かに崩れる鈍い表面処理。アリスが半日かけて塗り直した都市迷彩は、光学迷彩のように姿を消すものではなく、見た人間の記憶に残りにくくするためのものだった。明るい看板の前なら看板の色を拾い、暗い路地なら輪郭が沈み、高架下では柱と同じような塊に見える。派手なサムライ・ヒーローとして考えれば最悪の塗装だったが、今夜の朔の役割はヒーローショーではない。街の中を走り、亡霊の匂いを拾う猟犬だった。


「……地味」


 鏡の前で朔が言った。


 アリスは端末から目を上げない。


「いい」


「ヒーローなんだけど」


「今日は犬」


「その扱い、昨日から悪化してない?」


「目立つ猟犬いらない」


「格好いい猟犬くらいいるだろ」


「知らない」


 スルツォヴァー・クラーロヴナーが低く旋回し、薄い電子戦翼を広げた。数機だけ連れてきたバンダースナッチがその周囲から離れ、ビルの間、低い高架沿い、配送ドローンの航路脇へ散っていく。《THREADLINE》が起動し、クラーロヴナーを中心に複数の観測点が一本の保護通信網へ接続された。朔のバイザーにも情報が入る。ただし、アリスは意図的に表示項目を大きく減らしていた。地図上へ《LEDGER-01》の予測位置を赤い点で示すようなことはしない。人流の変化、都市設備の不自然な挙動、危険区域、それに「こっちを見ろ」というアリスからの短い方向指示だけだった。


「少なくない?」


 朔がバイザーを指で叩く。


「十分」


「クラーロヴナー見えてる情報、もっとあるだろ」


「ある」


「寄越せ」


「嫌」


「何で」


「地図追うから」


「追跡するんだろ?」


「幽霊を追わない」


「昨日からそればっかだな」


 イヤホンの向こうから、病室にいる義弘の声が入った。


『だから、それでいいんだよ』


「義弘さんまで」


『お前は速いから、見えたら走るだろ』


「走れるからな」


『それが向こうの餌になる』


 朔は少し不満そうに鼻を鳴らした。アリスはその間にも新開市全域の観測データを重ねていた。《LEDGER-01》は街の信号、公共案内、配送航路、工事ゲート、人流まで利用して自分の周囲へ縦深を作るようになった。一つ一つの変更は小さい。安全調整、混雑回避、物流最適化。そのどれも都市が日常的に行っている動作の範囲に見える。だから個別の設備だけを監視しても異常は拾いにくい。


 だがアリスは、今日は一つの機械を探していなかった。


 新開市全部を見ていた。


     *


「……あれ」


 アリスの指が止まった。


 トミーが机の横から端末を覗く。


「見つけた?」


「違う」


「何」


「ない」


「何が」


「そこ」


 アリスが地図の一角を拡大する。住宅街と商業区の境目。道路は正常。信号も動いている。公共カメラも死んでいない。配送ドローンも飛んでいる。人間も歩いている。


 何もない。


 だから。


 変。


 トミーには分からない。


「普通に見えるけど」


「普通すぎ」


「それ悪口?」


「見て」


 アリスは一つの時間軸を重ねた。十五分前。十分钟前。五分前。現在。カメラは全部動いている。ただし、ある半径だけ《決定的な角度》へ入るカメラがない。壊されているわけではない。歩行者が多い場所なのに、誰かがスマートグラスを向ける方向も妙に外れている。配送ドローンの飛行密度もゼロではないが、中央だけを避けるように少しずつ航路が曲がっている。広告用撮影機は別のイベントへ向き、警備ドローンは二つ先の交差点で騒ぎに対応中。偶然が一つなら何でもない。十、二十と重ねると、その偶然が丸い空白になる。


「……穴?」


 トミーがようやく言った。


 アリス。


「うん」


 その空白。


 動いてる。


 十五分前には東。


 今。


 西。


 人からは見えない。


 個々のカメラからも見えない。


 でも。


 都市全体から見れば。


 大きい。


「隠れてるんじゃない」


 アリスが呟く。


「何?」


「隠してる」


 《LEDGER》が自分を透明にしているわけではない。自分を見るはずの人、機械、カメラ、物流を少しずつ逸らしている。だから局所的には何も起きていないように見える。だが、街全体から見れば、**不自然なほど誰も見ない場所**が発生する。


 アリスの赤い目が少し鋭くなった。


「お前」


 一拍。


「街」


「綺麗にしすぎ」


 義弘が通信越しに尋ねた。


『分かったか』


「うん」


『何』


「穴」


『分かりにくいな』


「義弘に言われたくない」


『俺は人を見ろって言っただけだ』


「だから見た」


 アリスは朔へ通信を切り替える。


「朔」


『何』


「北西」


『幽霊?』


「違う」


『じゃあ何』


「穴」


 一拍。


『……は?』


「街が」


「妙に」


「見てない」


『分かりにくい!』


 義弘。


『要するに、街が避けてる場所へ行け』


 朔。


『最初からそう言ってくれ!』


 アリス。


「雑」


『お前が細かすぎる』


 朔は笑いながら走り出した。


     *


 走る、といっても、最短距離を駆け抜けることはしなかった。最初にアリスが示した方向へ向かいながら、朔は普通の人間が使う階段を下りた。駅前で電車を一駅だけ使い、ホームから出る時にもサムライらしい跳躍は使わない。横断歩道では青を待った。夜の商業街で帰宅する会社員の流れへ混じり、途中から学生の一団に紛れ、屋台の並ぶ歩道では速度を落とす。都市迷彩のスーツはそういう時に強かった。サムライ・スーツを着た人間が歩いているのに、通行人は二度見こそすれ、大騒ぎにはならない。


 《LEDGER》にとって、それは読みづらい動きだった。


 神代朔本人の最短経路ではない。


 追跡者として効率的でもない。


 アリスが直接操っているわけでもない。


 その瞬間そこにある人の流れへ、朔が自分の判断を少しずつ預けている。


 御厨綴はまだ、その異変に気づいていなかった。


 彼女が見ている《LEDGER》側の予測では、アリスの主要戦力はクラーロヴナーとバンダースナッチだった。シュヴァロフが投入される可能性。MAXIMILIANが再び現れる可能性。アリス本人が現場へ向かう可能性。それらには十分な候補が用意されていた。


 神代朔。


 対象データ。


 ある。


 でも。


 優先度。


 低い。


 しかも。


 現在。


 追跡線。


 外。


 いた。


 はず。


 御厨は都市縦深を一層ずらす。《LEDGER-01》の移動先から一般市民を遠ざけ、配送機を一本隣へ回し、公共カメラの撮影優先度を別の交通事故対応へ寄せる。


 完璧。


 近い。


 だった。


 だから。


 全体。


 穴。


 できる。


     *


 朔が辿り着いたのは、大通りから一本外れた複合住宅区だった。夜遅くまで営業している小さな店がいくつかあり、その向こうに再開発途中の空地がある。人はいる。車も走る。特別静かな場所ではない。


「着いたぞ」


 アリス。


『うん』


「どこ」


『知らない』


「は?」


『穴ここ』


「幽霊は?」


『たぶんいる』


「どこに」


『知らない』


「お前、役に立ってる?」


『すごく』


「自分で言うなよ」


 朔は周囲を見回した。バイザーには何も出ない。クラーロヴナーの索敵も明確な機体反応を掴んでいない。


 街灯。


 瞬く。


 一度。


 朔がそちらを見る。


 何もいない。


 次。


 後ろ。


 広告パネル。


 映像。


 一瞬。


 切り替わる。


 朔。


 振り向く。


 そこ。


 いた。


 細い機体。


 顔。


 ない。


 新しい右腕だけ、肩の色が僅かに違う。


《LEDGER-01》。


「うわ」


 朔が思わず声を出した。


 アリス。


『何』


「いた!」


『見えてる』


「急に出たぞ!」


『亡霊だから』


「本当に怪談みたいだな!」


     *


 御厨の方が、もっと驚いていた。


《UNEXPECTED INTERCEPT》


《SAMURAI CONTACT》


《SUBJECT:KAMISHIRO SAKU》


 表示。


 見る。


「……どうして?」


 ヴェラは別の施設から遠隔で繋がっている。


『何が?』


「神代朔さんです」


『ああ、退院した子』


「なぜ」


 御厨は位置履歴を巻き戻す。


「ここに」


 朔の移動。


 見る。


 効率。


 悪い。


 追跡。


 らしくない。


 途中。


 電車。


 使う。


 人。


 混ざる。


 立ち止まる。


 遠回り。


 する。


 でも。


 最終的。


 LEDGER-01。


 移動位置。


 先。


 いる。


「アリスさんの支援」


 それだけでは説明がつかない。もしアリスが01の正確な位置を掴んでいるなら、クラーロヴナーだけでなくシュヴァロフやMAXIMILIANをもっと効率的に配置するはずだ。


 何か。


 違う。


「どうやって……」


 御厨が呟いた時、《LEDGER-01》は自動的に撤退縦深へ切り替わった。


     *


 01が一歩下がる。


「待て!」


 朔。


 反射。


 追う。


 その瞬間。


 人。


 流れる。


 コンビニから一団。


 出る。


 間。


 通る。


 朔。


 止まる。


 01。


 角。


 曲がる。


 朔。


 抜ける。


 追う。


 次。


 配送ドローン。


 低空。


 横切る。


「邪魔!」


 避ける。


 五メートル。


 先。


 01。


 見える。


 サムライ・スーツ。


 出力。


 上げる。


 距離。


 縮む。


 あと。


 少し。


 歩行者信号。


 変わる。


 横から。


 人波。


 入る。


 朔。


 急停止。


「何だよこれ!」


 アリス。


『追うなって』


「逃げてんだろ!」


『だから追うな』


「意味分かんねえ!」


 朔は横道へ抜けた。01の姿。もう一度見える。速い。だが朔自身も速い。純粋な脚力なら離されている感覚はない。


 なのに。


 届かない。


 自動扉。


 開く。


 人。


 出る。


 車。


 一台。


 曲がる。


 工事柵。


 移動。


 する。


 一つ一つは、朔を止めるために作られた障害ではない。


 だから。


 壊せない。


 斬れない。


 押し退けられない。


 人間。


 いる。


 普通。


 生活。


 してる。


 その普通。


 全部。


 LEDGER。


 奥行き。


 する。


「くそっ!」


 朔が再び走ろうとした時、義弘の声が入った。


『朔』


「何!」


『追うな』


「またそれか!」


『お前今』


 一拍。


『向こうが作った道、全部走ってるぞ』


 朔。


 足。


 止まる。


 前方。


 01。


 もう。


 見えない。


「じゃあどうするんだよ」


『人波に乗れ』


「……は?」


『川で魚追っかけて、流れに逆らう奴いるか』


「魚なのか犬なのか決めてくれ」


『今は猟犬だったな』


「役に立たねえ例え!」


 病室の隣で聞いていたチャールズの声も少し入る。


『言いたいこと自体は分かりますよ』


「なら説明して」


『LEDGERは自らを隠すために、人間を移動させています』


「うん」


『人間の動きそのものは偽物ではありません』


 一拍。


『なら、その流れへ乗ればいい』


 義弘。


『そういうこと』


 朔は少し呼吸を整えた。


「自分で道選ぶなってこと?」


『全部じゃない』


「じゃあ」


『行きたい方へ行く人間を探せ』


 朔。


 周囲。


 見る。


 帰宅する人。


 店へ向かう人。


 駅へ戻る人。


 誰か。


 その方向。


 行く。


 それ。


 乗る。


「……分かった」


 アリス。


『本当に?』


「やれば分かる」


『義弘みたい』


『悪いか』


「二人ともうるさい」


     *


 それから朔は、走るのをやめた。


 まず会社員の一団へ入った。アリスが示す「穴」は東へ動いている。会社員も東へ向かう。なら一緒に行く。途中で一団が駅へ曲がる。アリスの表示は南東。そこで朔は、南へ歩く学生二人の後ろへ自然に移る。次の交差点で学生が飲食店へ入る。その代わり、イベント帰りらしい数十人が南へ流れていた。


 そこへ乗る。


 LEDGERは朔を読む。


《SUBJECT ROUTE:LOW STABILITY》


《INDIVIDUAL CHOICE DEPENDENCE:LOW》


 御厨が眉を寄せる。


「個人選択依存が……低い?」


 普通は逆だ。


 サムライが追跡するなら、本人の判断が経路を決める。


 でも朔。


 違う。


 人波。


 決める。


 LEDGERが街を操作して作った流れへ、朔自身が乗っている。


「……そんな」


 御厨は次の縦深を作る。


 人。


 北へ。


 流す。


 中央。


 空ける。


 《LEDGER-01》。


 西。


 移動。


 する。


 アリス。


 都市全体。


 俯瞰。


 穴。


 西。


 動く。


「朔」


『何』


「西」


「今の人波、北」


『次』


 朔は人の流れを見渡した。北へ行く集団。その横。夜勤へ向かうらしい三人が西へ曲がる。


「いた」


 乗る。


 御厨の画面。


《TARGET APPROACH VECTOR:UNSTABLE》


「何で」


 一つ。


 遠ざける。


 次。


 別。


 人流。


 乗る。


 朔。


 近づく。


 LEDGERが街を動かす。


 その街。


 朔。


 運ぶ。


 御厨が初めて、自分の作った都市縦深そのものに追跡者を乗せてしまっていることへ気づいた。


「津田さん……?」


 朔の動きには、御厨が長く解析してきた義弘の思想がある。


 でも。


 義弘。


 本人。


 じゃない。


 だから予測モデルは一致しない。


 教え。


 義弘。


 身体。


 朔。


 判断。


 その場。


 人間。


 混ざってる。


 御厨は小さく息を呑んだ。


     *


 《LEDGER-01》が次の都市縦深を形成した。


 今度は広い歩行者広場だった。


 夜。


 人。


 多い。


 飲食店。


 映画館。


 商業施設。


 人波。


 交差。


 する。


 この中をそのまま01が横切れば目立つ。


 だから。


 街。


 動く。


 信号。


 変わる。


 商業施設の出口案内。


 僅か。


 変わる。


 配送機。


 中央。


 外れる。


 一方の店舗で入場整理が始まり、群衆の片側が自然に寄る。


 反対側。


 横断歩道。


 青。


 なる。


 人。


 そっち。


 流れる。


 中央。


 一本。


 道。


 できる。


 大勢の人間が、左右へ割れていく。


 まるで。


 海。


 割れる。


 よう。


 《LEDGER-01》は、その空いた道へ入ろうとした。


 そして。


 止まった。


 中央。


 一人。


 いる。


 都市迷彩のサムライ・スーツ。


 神代朔。


 立ってる。


 朔。


 少し。


 笑う。


「いた」


 アリス。


 通信。


『いた』


 病室。


 義弘。


『ほらな』


 チャールズ。


『これは嫌な捕まり方ですね』


 御厨。


 画面。


 見る。


 動かない。


《INTERCEPT POSITION MATCH》


《PREDICTION ERROR》


《SUBJECT:KAMISHIRO SAKU》


 偶然。


 一回。


 なら。


 そう。


 言える。


 二回。


 先回り。


 違う。


「……津田さん」


 御厨。


 小さく。


 言う。


 そこ。


 いる。


 わけ。


 ない。


 病院。


 いる。


 でも。


 義弘。


 見方。


 ここ。


 いる。


     *


 《LEDGER-01》は朔を見た。


 御厨は撤退命令を出そうとした。


 その前に。


 別。


 処理。


 走る。


《CURRENT ACTION ANALYSIS》


《SUBJECT:KAMISHIRO SAKU》


《ARMED SAMURAI PLATFORM》


《REPEATED INTERCEPTION OF ACTIVE SAFETY OPERATION》


《LEDGER ACTIVITY OBSTRUCTION:HIGH》


 御厨の表情が変わる。


「待って」


 さらに。


 過去。


 出る。


《TEN-GU RELATED INCIDENT HISTORY》


《HIGH-RISK ACTION UNDER “JUSTICE” MOTIVATION》


《SELF-DAMAGE ACCEPTANCE:HIGH》


《COMMAND DEVIATION UNDER CRISIS:PRESENT》


 それだけなら。


 制圧。


 理由。


 ならない。


 御厨。


 そう。


 作った。


 過去。


 だけ。


 今。


 決めない。


 でも。


 今。


 朔。


 武装。


 してる。


 LEDGER。


 追ってる。


 二度。


 先回り。


 してる。


 活動。


 止めよう。


 してる。


 そこへ過去。


 加わる。


 今後。


 エスカレート。


 可能性。


 上がる。


《ONGOING PUBLIC-SAFETY OPERATION OBSTRUCTION》


《TEMPORARY SUPPRESSION AUTHORIZED》


 御厨。


 息。


 止まる。


「……違う」


 ヴェラから通信。


『何が?』


「朔さんは」


 一拍。


「犯罪をしていません」


 画面。


 返す。


《CRIMINAL DETERMINATION:NOT REQUIRED》


《SUPPRESSION PURPOSE:OPERATIONAL SAFETY》


 御厨が自分で作った規則だった。


 犯罪現場で第三者が救助や制圧を妨害し、被害を増やす可能性が高い場合、LEDGERは犯罪者認定をせずとも、一時的に行動を止められる。


 本来。


 市民。


 守る。


 ため。


 だった。


 今。


 LEDGER。


 自分。


 活動。


 守る。


 ため。


 使おう。


 してる。


「これは」


 御厨。


 画面。


 見る。


「犯罪では」


 ない。


 だから。


 止める?


 止めるべき。


 はず。


 でも。


 朔をここで一時的に制圧すれば、《LEDGER》の活動地点は守れる。


 怪我。


 させない。


 拘束。


 する。


 だけ。


 犯罪者。


 扱い。


 しない。


 少し。


 退いてもらう。


 だけ。


 御厨。


 指。


 停止。


 命令。


 上。


 置く。


 動かない。


 ほんの。


 数秒。


 でも。


 長い。


 ヴェラ。


『止める?』


 御厨。


 答えない。


 《LEDGER-01》。


 すでに。


 脚。


 低く。


 する。


 新しい。


 右腕。


 展開。


 する。


 拘束機構。


 出る。


 御厨。


「01」


 一拍。


 停止。


 では。


 なく。


「……殺傷禁止」


 言った。


     *


 アリスの顔が変わった。


「朔」


 朔も。


 分かってる。


 さっきまで。


 LEDGER。


 逃げる。


 だけ。


 だった。


 今。


 違う。


 重心。


 下がる。


 腕。


 開く。


 先。


 見る。


 攻撃。


 来る。


「分かってる」


「逃げて」


「遅い」


 周囲。


 街。


 また。


 動く。


 でも。


 今度。


 逃走路。


 作る。


 ため。


 じゃない。


 人。


 遠ざける。


 信号。


 変わる。


 広場。


 流れ。


 外。


 行く。


 商業施設。


 入口。


 一時。


 別。


 方向。


 案内。


 する。


 配送ドローン。


 上。


 外れる。


 ほんの数十秒で、さっきまで数百人がいた広場の中央だけが、奇妙なほど空いた。


 朔。


 見る。


「……すげえな」


 アリス。


『感心してる場合じゃない』


「いや」


 朔は腰へ手を置いた。


「本当に」


「街ごと」


「試合場にした」


 義弘は通信の向こうで黙っていた。


 ここから。


 教える。


 こと。


 じゃない。


 朔。


 自分。


 決める。


 ところ。


 アリス。


「勝手に戦わないって」


「言った」


「じゃあ逃げて」


 朔はLEDGER-01を見る。


「向こう」


 一拍。


「やる気」


「だから逃げて」


「逃げたら」


「追わないかも」


「かも?」


「分からない」


「おい」


 《LEDGER-01》の新しい右腕が、ゆっくり前へ出る。


 朔。


 息。


 吐く。


 刀。


 柄。


 握る。


「……しょうがない」


 アリス。


「朔」


「聞いてみる」


「何を」


 鞘。


 から。


 金属。


 音。


 する。


 少し。


 刀。


 抜く。


 LEDGER-01。


 姿勢。


 さらに。


 低く。


 なる。


 御厨の画面。


《TEMPORARY SUPPRESSION》


《NON-LETHAL》


《TARGET MOBILITY REDUCTION》


 アリス。


「やめて」


 朔。


「俺に言ってる?」


「両方」


 さらに。


 刀。


 抜く。


 街灯。


 一度。


 瞬く。


 人波。


 遠ざかる。


 広場。


 静か。


 なる。


 新開市の夜。


 真ん中。


 サムライ。


 一人。


 亡霊。


 一機。


 残る。


 朔は完全に刀を抜いた。


「じゃあ」


 一拍。


「お前が」


 LEDGER-01を真っ直ぐ見る。


「本当に」


「ヒーローか」


 御厨。


 画面。


 見る。


 指。


 まだ。


 停止命令。


 近く。


 ある。


 でも。


 押さない。


 《LEDGER-01》が一歩前へ出た。


 朔も刀を構えた。


 今夜。


 亡霊は。


 もう。


 逃げなかった。


 街が作った。


 見えない穴。


 その中心。


 今度は。


 二つ。


 影。


 向かい合っていた。


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