022 再生の光
あの爆発の衝撃は、想像以上に大きかった。
元素の魔眼ーーサリアの放った光のの球体が地面を抉り、地下深くまで振動が伝わったらしい。
翌朝、村の周辺で異変が起きた。
黒い影が、地面から這い出してくる。
イデアの化身たちだ。
地下遺跡の封印が緩んだのか、それとも衝撃で目覚めたのか。
小さな“貪欲”の化身から、巨岩のような“不動”の化身まで、次々と地上に現れ始めた。
おそらく第三層の化身だろう。
村人たちはシェルターに籠もり、俺とティオルは交代で見張りを続けることにした。
師匠を包む、あの光る木は、まだ静かに根を張ったまま。
あの木に化身を近づけさせるわけにはいかない。
――絶対に、守らなければならなかった。
俺が昼の見張り、ティオルが夜。
化身が現れれば、すぐに斬り払う。
ティオルの速さで群れを散らし、俺のイデアで大物を粉砕する。
役割分担は自然と固まっていた。
会話は、ほとんどなかった。
「次、右側から三体」
「……了解」
「化身の気配が薄くなった」
「……うん」
それだけ。
言葉を交わす余裕も、心の余裕もなかった。
師匠は無事なのか。
あの二人の魔眼が、再び現れないか。
村は、これ以上壊れないか。
無力感が、じわじわと胸にのしかかる。
数日が過ぎた。
疲労は溜まり、傷も癒えぬまま、俺たちはただ機械的に剣を振り続けていた。
そして──五日目の朝。
師匠を包んでいた木が、突然、光を放ち始めた。
淡い虹色の輝きが、木全体を包み込む。
根が震え、幹が脈打ち、葉が一斉に開いた。
木が、ゆっくりと裂ける。
中から──師匠が姿を現した。
服は新しく、傷一つない。
頭上の光輪も、いつも以上に鮮やかに輝いている。
「……二人とも、心配をかけたね」
師匠の声が、優しく響いた。
「もう大丈夫だよ。君たちが、私の回復中ずっと守ってくれていたんだろう? ありがとう」
その言葉を聞いた瞬間、俺の目から熱いものが溢れた。
ティオルも、隣で肩を震わせている。
涙だ。
師匠が無事だったこと。
あの優しい声を、もう一度聞けたこと。
そして、張り詰めていた糸が切れたように、力が抜けた。
俺は膝をつき、ティオルも同じように頭を下げた。
師匠はゆっくりと近づき、俺たちの前にしゃがむ。
「あの二人は、ノクティアでも最強格だ。
サリアと、エルディン……確かに、私と君たちでは力が及ばなかった」
一度、言葉を区切り、師匠は続ける。
「でもね。君たちは、十分すぎるほど強い。
もう、師匠として教えられることは、多くないだろう」
俺は顔を上げた。
「そんな……」
師匠は微笑み、静かに首を振る。
「これからも、ノクティアの動きを抑え、抑止力となってほしい。
そして、ある程度落ち着いたら──二人は、それぞれの道を進むんだ」
ティオルが、涙を拭いながら呟く。
「……進むべき道」
「ああ。君たちには、それぞれの目的があるはずだ」
師匠は俺とティオルに言った。
「君達は強くなって大切な人を守るんだろう?」
俺は、声を震わせながら言った。
「師匠……俺は、もっと強くなりたい。
そして、この殺し合いの連鎖を、必ず断ち切りたい……。
村を焼く者も、焼かれる者も、大切な人達が死んでいくのも、もう全部嫌なんだ……!」
ティオルが、静かに、しかし力強く続ける。
「僕も、もっと強くなって、大切な人を守りたいです。
二度と、あの日のように、無力でいるのは嫌嫌だから……」
師匠の虹色の瞳が、優しく細まった。
「君たちなら、大丈夫だよ。
なんせ──私の弟子なのだからね」
そう言って、師匠は立ち上がり、俺とティオルの頭に手を置いた。
そして、くしゃくしゃと、子供扱いするように撫でる。
昔、“領域”で初めて会った時と同じだ。
温かくて、少し乱暴で、それでも優しい手。
俺は目を閉じた。
ティオルも、同じように。
涙が、止まらなかった。
だが、これは悲しみの涙じゃない。
決意の、始まりの涙だ。
師匠は手を離し、空を見上げる。
「さあ、そろそろ行こうか。
ノクティアは、またいつ襲撃に来るかわからない。
私たちには、まだやらねばならぬことがあるからね」
俺たちは立ち上がり、剣を握り、互いに頷き合った。
胸の奥で、イデアが熱く脈打つ。
ドクン、ドクン、ドクン……
少し離れた場所で、師匠が静かに笑っている。
弟子が、師匠を超える日も遠くない。
だが、今はまだ――三人で歩く。
村人たちがシェルターから顔を出し、遠くから俺たちを見守っていた。
俺たちは手を振り、歩き出す。
朝日が、三人の背中を照らす。
旅は、再び始まる。
強くなるために。
守るために。
そして、いつかこの連鎖を断ち切るために。
――光は、まだ消えない。
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