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居酒屋領主館【書籍化&コミカライズ進行中!!】  作者: ヤマザキゴウ


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348/402

348.邂逅

「おーら、おいでなすったぜ。アレは……。ほう、オーガか。いくぜ! 野郎ども!!」


「おう!!!」


 ギルドマスター、ヒューズの野太い号令が、濁りきった空気を震わせた。


 聖教国が抱える、解放されて日が浅い、魔の深淵——『聖骸の口窟』。

 そこでは今、溜まりすぎた魔素が臨界を突破し、魔獣が溢れ出す「スタンピード」が発生していた。


 ロートシュタインから緊急動員された冒険者たちは、押し寄せる絶望の波を食い止めるべく、死地へと身を投じていた。


 不気味に開いた迷宮の「口」からは、おぞましい唸り声と共に魔獣が次々と吐き出される。


「うぉりゃああああぁぁぁぁ!!!」


「斬れ! 一匹たりとも通すなッ!!」


 戦場は、鉄と血が混じり合う乱戦の極致。


 冒険者たちがこれほどまでに猛るのには、理由があった。

 数日前、故郷ロートシュタインを襲ったあの悪夢——。それを振り払うため、そして、事態を静観し続ける領主ラルフ・ドーソンの不甲斐なさへの、行き場のない憤りを刃に乗せて叩きつけていた。


「魔導士は前へ! 前衛を交代させろ、休ませる暇を稼げ!」


 土埃と悲鳴の渦中で、ヒューズの指揮が響く。

 激闘が始まって半日。

 本来なら、迷宮内の魔素が枯渇し、収束に向かうはずの時間だった。


「ヒューズ! "デカブツ"が一体来る、警戒しろ!!」


 一人の冒険者が、恐怖に引きつった声を上げる。

 視界を覆う砂塵の向こうから、大地を物理的に揺らす足音が近づいてくる。ズシっ、ズシっ、という振動が、戦士たちの本能に警鐘を鳴らした。


「……なんだ、アレは。変異種か?」


 現れたのは、通常の個体を一回り上回る巨躯のオーガだった。


 筋骨隆々とした黒い肌。経年劣化した古びた鎧をその身に強引に纏わせ、手には粗削りな鉄塊のような大剣を握っている。


「グォォォォォォォォ……」


 剥き出しの牙の隙間から、地を這うような重低音の唸りが漏れる。

 その瞳に宿るのは、知性ではなく、迷宮が生み出した殺戮装置としての純粋な、殺意だ。


「ヒューズ、火力の準備完了だ! 射線をあけろ!!」


「よし、焼き尽くせ!!」


「《火炎球(ファイヤーボール)》!」


 十五人の魔導士による一斉掃射。空を焦がす劫火の弾丸が、変異種へと収束する。

しかし。


「グォォ!!!」


 オーガは鬱陶しい羽虫を追い払うかのように、手にした鉄塊を一閃させた。

 物理的な衝撃波が、着弾寸前の魔導を無慈悲に霧散させる。


「ちっ、魔法耐性持ちか……。なら、物理で叩き伏せるしかねぇな」


 ヒューズが愛用の大剣を握り直した、その時。


「やってやるぜ! このクソ野郎がぁぁ!!」


「俺たちが先陣だ!」


 血気に逸った二人の槍使いが、制止を聞かずに飛び出した。


「待て、戻れ……!」


 ヒューズの叫びは届かない。

 オーガは一瞬、深く沈み込むような「溜め」を作った。

 直後、巨体からは想像もつかない爆発的な踏み込みで、槍使いたちの目前へと肉薄する。


「なっ……!?」

「う、あぁぁぁぁぁ!!」


 槍は枝のように折れ、二人の身体は木の葉のように弾き飛ばされた。地面を激しく転がり、砂塵の中に沈む。


「救護班! 二人を回収しろ!」


 ヒューズは後方へ指示を飛ばすと、一歩前へ出た。


(ラルフ様なら、欠伸をしながら瞬殺するんだろうが……。今は俺たちがやるしかねぇんだよ)


 自嘲気味に呟いた瞬間、オーガが動いた。

 バネ仕掛けのような超加速。


「うおっらぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 ヒューズは渾身の力で大剣を振り抜く。

 激突。

 鼓膜を突き刺す金属音が響き、火花が闇を裂くように散った。

 だが、力の奔流は残酷なまでに一方的だった。ヒューズの体は後方へと滑り、辛うじて踏みとどまったものの、膝が地面を叩く。


(……クソッ、腕が……!)


 右肩に走る鋭い激痛。脱臼だ。

 それでも彼は、震える左手で剣を支え、目前の死神を睨み据えた。刃は無残にも大きく欠けている。


(ここで終わりかよ……。万事休す、か)


 死の足音が近づく。ズシリ、ズシリ。

 重圧に押し潰されそうな意識の中で、後悔が首をもたげる。


(こんなことなら……もっと早く、ロートシュタインを奪還する計画を進めておくべきだったか……)


「ヒューズ、逃げろ!!」


 仲間の叫びが遠く聞こえる。

 だが、彼は立ち上がった。

 額から流れ落ちる鮮血が左目を染めても、その眼光だけは、剣士としての矜持を失っていなかった。


 最期の一撃。

 正真正銘、全身全霊の、それを叩き込もうと覚悟を決めた、その刹那だった。


「あ~。ちょいと、そこの冒険者さん。なんなら、俺も手を貸そうか?」


 戦場にはあまりに不釣り合いな、緩慢で、どこか締まりのない声が響いた。


「えっ……?」


 一瞬、ラルフかと思った。

 声の質は違う。だが、あの底知れないだらしなさと、やる気を感じさせない独特の気配。


 振り返ると、そこには一人の初老の男が立っていた。

 端正な顔立ちを無精髭で覆い、軽くカールした金髪を揺らしている。身なりは存外に上等だが、その背には、奇しくもヒューズと同じく巨大な大剣が背負われていた。


「あんた、は……冒険者、なのか?」


「あ~、なんだ。今は、前を見た方がいいかも、な」


 男が気だるげに指をさす。


「はっ——うおっ?!」


 いつの間にか、オーガの鉄塊がヒューズの頭上まで迫っていた。回避は間に合わない。


「ふんっ!」


 短い呼気。

 男のローブが風を孕んで翻る。同時に、ヒューズの鼻腔を、どこか懐かしい「古い鋼と花」の臭いと匂いがかすめた。


 ズガォォォォォォォォォン!!


 雷鳴と見紛う衝撃音が戦場を圧した。


「ほう……。速いし重い。だが、それだけだな。品性の欠片もない、ただの棒振りだ」


 オーガの全力の一撃を、男は片手の大剣で事も無げに受け止めていた。


 退屈そうに吐き捨てられたその言葉に、周囲の冒険者たちは言葉を失う。


「な、なんだ、あの男……。バケモノ、か?」


 男から放たれるのは、圧倒的な「強者」の重圧。


 立っているだけで大気を支配するような、絶対的な剣のことわり


「で、冒険者さん。この獲物、俺が狩っちまってもいいのかい?」


「ンゴォォォォォォォォ!」


 格下の人間にあしらわれたことを察したのか、オーガの殺気が膨れ上がる。


「た、頼む……! 討伐してくれるなら、ギルドから報奨金を出す!」


「あいよ。まあ、小遣い稼ぎにしちゃあ、割のいい仕事だ」


 男はオーガの剣を軽々と弾き飛ばすと、一歩踏み出した。


 オーガが逆上し、先ほど以上の威力で剣を叩きつける。


 だが、男の姿はすでにそこにはなかった。


「だから……単調すぎるんだっての」


 気づけば、男はオーガの右腕を足場にして立っていた。


 光が走る。


 ヒューズの動体視力では、何が起きたのかさえ判別できなかった。


 次の瞬間、オーガの巨大な首が宙を舞い、血の放物線を描いて地面へと転がった。


「ヒィィィ!!」


 その凄惨な光景に、女性の魔導士が短い悲鳴を上げた。


 土に汚れたオーガの首は、怒りに歪んだ表情のまま。そして、命の灯火を奪われた巨躯が、轟音と共に崩れ落ちた。


 暫くして……。


「……助かった。本当に、なんと礼を言っていいか」


「いや~、気にするな。金も貰えるし、こうして美味いもんにもありつけた。モグモグ……」


 戦いの後。

 男は、冒険者たちが差し出したカツサンドを、幸せそうに頬張っていた。


「さあ、遠慮せず食べてください! おかわりもありますから!」


「ほう、こりゃ美味いな。では、次はこっちの……」


「それはスパムサンドです! 自慢の一品ですよ!」


 女性冒険者たちに囲まれ、男は機嫌よく笑う。

 スタンピードが収束した後の安堵感が、野営地に広がっていた。


「へぇ、あんたら、料理が上手いんだなぁ。毎日こんなもん食ってるのか?」


「はい! ロートシュタインの冒険者にとって、野営メシは必須スキルですから!」


「なんたって、俺たちのマスターは『美食の冒険者』ですからね!」


 仲間たちの冷やかしに、ヒューズは決まり悪そうに顔を背ける。

 彼が執筆した『野営のススメ』は、今や冒険者のバイブルだ。


「……ロートシュタイン、か。ほう、それは奇遇だな。いや、これも、何かの縁……か」


「あんた、ロートシュタインを知ってるのか?」


「ああ……まあな」


 男の言葉に、一人の女性冒険者が溜息を漏らす。


「でも、あそこも今や大変なことになっちゃって。ラルフ様が、あの連中を、いつもみたく魔法でドッカ~ン! とヤっちゃえばいいのに……」


「……ラルフ? お前さんたち、アイツの知り合いなのか?」


「知り合いも何も、今や飲み仲間みたいなもんですよ。変な場所でしょう? ロートシュタインって。公爵様と俺たちが酒を酌み交わすなんて」


 ヒューズの言葉に、男は何かを納得したようにニヤリと笑みを浮かべた。


 そして、重い腰を上げる。


「そうか、そうか……。まさか、ふと思い立って、寄り道をしてみたら……。まさかこんな出会いがあるとは、な」


「あの、あんた……ラルフ様とは、どういう関係なんだ?」


 ヒューズの問いに、男は振り返り、不敵に、そしてどこか誇らしげに顔を歪めた。


 その笑顔。

 それは、ヒューズがよく知る、あの「だらしない男」に、まるで生き写しのように、そっくりに見えた。


 凍り付くような予感が、ヒューズの背筋を駆け抜ける。


 記憶の扉が開く。


 (そうだ。この男を、いや、この"お方"を、俺は、知っている……)


 まだ駆け出しだった頃、ロートシュタインの大通り。

 きらびやかな軍服を纏い、背に巨大な剣を背負って馬を駆る、圧倒的な英雄の背中。

 少年だったヒューズが、魂を焼かれるほど憧れた、王国最強の称号「剣聖」を戴く男。


 男は、風にローブをなびかせ、まっすぐな瞳で問いかけた。


「俺の"バカ息子"は、元気でやっているか?」

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激アツぅ!
 愚息に闘魂注入(( ‘д‘⊂彡☆))Д´))お願いします。
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