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居酒屋領主館【書籍化&コミカライズ進行中!!】  作者: ヤマザキゴウ


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330/421

330.釜飯会議

「では、このような素晴らしいオーダー釜を製作してくださったトニスさんに、盛大なる拍手を――!」


 ラルフの弾んだ声が、居酒屋領主館の賑わいの中に吸い込まれていった。


 店内に居合わせた客たちは、状況を十全には把握できていない。

 だが、テーブル席で豪快にビールを呷っているドワーフの集団――その中心にいる魔剣技師トニスの、誇らしげな、それでいて照れくさそうな髭面に、釣られるようにして拍手喝采を送った。


 若き領主ラルフがこれほどまでに破顔しているのだ。今宵もまた、未知なる「美味」がこの場所から産声を上げるに違いない。その確信が、客たちの手のひらを熱くさせていた。


 ラルフの手中には、黒光りする小ぶりな鉄釜があった。

 一合炊き。それは彼がかつて生きた世界の記憶にある「釜飯」の形を、異世界の技術で再現させた逸品である。


 一流の魔剣技師に二十個もの飯炊き釜を発注し、さらにその木蓋を、吟遊詩人ソニアの父である凄腕の大工に誂えさせる。


「なんという贅沢な、そして妙な道具を……」


 冒険者ギルマスのヒューズは呆れ半分、敬服半分といった面持ちでそれを見つめていた。

 しかし、ロートシュタイン領の民にとって、ラルフは恩人であり、希望そのものだ。彼が望むなら、どれほど奇妙な依頼であっても、職人たちは心血を注いでそれに応えるのである。


「ということで、今夜は釜飯(かまめし)を作ってみるぞ!」


 ラルフの力強い宣言に、店内の空気が揺れた。


「カマメシ? また耳慣れない響きだな」


「レシピ集にも載っていなかったはずだぞ」


 首を傾げる客たちを余所に、ラルフは不敵な笑みを浮かべてカウンターへと視線を走らせた。

 そこには、熱燗を嗜みながら騒ぎを眺めている、ヴラドおじさんこと、この王国の現国王が鎮座している。


「まあまあ。まずは、僕の自信作をヴラドおじさんに捧げるとしましょう」


「むっ? 儂にか?」


 魚と酒をこよなく愛する飲んだくれの王が、面白そうに眉を上げた。


 ラルフの脳裏には、この美食家を唸らせるための、究極の構成図デザインが完成していた。


 彼は新品の釜を掲げると、ふとした悪戯心から、それを逆さまにし、カウンター席に座るスズを覗き込んだ。


「おい、スズ。見てみろ。……UFO」


「ん? ブフッ……! あ、アダムスキー型……っ」


 不意を突かれたスズが、堪えきれずに吹き出した。そのシュールなジョークの機微を理解したのは彼女だけだった。


 対照的に、隣に座るファウスティン・ド・ノアレイン公爵は、どこか遠い目をして冷めた声を出す。


「……マイケル・シェンカー不在の、あのロックバンドに、何の意味があるというんだ?」


「……いや、あの。本当に、何をおっしゃっているのか一ミリも分からないです……」


 ラルフは苦笑いして引き下がった。時折、この隣領の主が口にする言葉は、前世の特定カルチャーに深く根ざしすぎていて、掘り返すにはあまりに深い深淵を感じさせるのだ。


 やがて、ヴラドの前に熱を帯びた釜が供えられた。

ラルフが恭しく木蓋を外す。

 その瞬間、凝縮されていた蒸気が一気に解き放たれ、芳醇な磯の香りと、出汁の効いた米の香りが店いっぱいに広がった。


「お待たせしました。鮭とイクラの、『親子釜飯』です!」


「お、おおぅ……! これは……!」


 ヴラドの瞳が驚愕に揺れた。

 淡い琥珀色に染まった米の上に、ふっくらと蒸し上げられた鮭の身。その視覚的な破壊力だけで、喉の奥が鳴る。


「……だがラルフよ。イクラと言ったな? それはどこに隠した?」


 不思議そうに尋ねる国王に対し、ラルフは厨房から「海の宝石」が詰まったガラスボールを掲げて見せた。


「イクラは、火を通さないのが正義ジャスティスですからね。今、ここに!」


 透き通るような朱色の粒を、お玉で贅沢に掬い上げ、湯気の立つ釜の中へと雪崩れ込ませる。


「どすか? このくらいでいいですか?」


「いや、もっとだ! もっと寄越せ!」


 まるで駄々をこねる子供のように身を乗り出す国王に、ラルフは笑いながら追撃のイクラを投入した。


「ムホッ、ホッホッ! こりゃあ堪らん、見た目だけで堪らん!!」


 豪快に匙を突き立て、口いっぱいに頬張る王の姿。


 それを合図に、ラルフは客席へ向かって声を張り上げた。


「手間と時間はかかるし、お値段も少々張るけれど、この釜飯は具材の数だけ無限に広がるぞ!」


 その言葉が着火剤となった。


 「無限の可能性」という響きに、客たちの食欲と創造性が爆発する。


「色々な具材だと……? つまり、米に合うものなら何でもか!」


「俺には見える……、カマメシという名の、新たな真理が!」


 熱を帯びた「釜飯会議」が始まった。


 まず声を上げたのは、ポンコツラーメン店主のパメラだった。


「ラルフ様! 私、牡蠣で作ってほしいです!」


「えっ? カキ?」


 ラルフがわざとらしく黄色い果実を手に取ると、パメラは華麗にツッコミを入れる。


「ちょっと! 貝の方ですってば! 粋なボケを挟まないでくださいよー!」


 ラルフは愉快そうに笑いながら、滋味深い「牡蠣釜飯」の仕込みへと入る。


 続いて、スズが控えめに、しかし欲望に忠実なオーダーを飛ばした。


「私は……ハンバーグと、チーズ」


「……えっ。あ、ああ、まあ……美味いだろうけど。ずいぶんジャンクだな、おい」


 ラルフは戸惑いつつも、米と肉とチーズが織りなす背徳的なハーモニーを想像し、即座に調理工程を組み立てる。この自由度こそが釜飯の真髄だ。

 確か、前世のテレビ番組で、視聴者から創作釜飯のレシピを募集する企画があったのを、観たことがある。


 さらに、ファウスティン公爵が優雅に言い放った。


「俺は焼き鳥とキノコだ。適当に作ってみてくれ」


 その瞬間、周囲の客から「うっわぁぁぁぁ。天才か……」という感嘆の溜息が漏れた。

 鶏の脂とキノコの旨味が米に染み込む――異世界の住人たちにとって、それはコロンブスの卵のような大発見だったのだ。


「待て、ならばカニはどうだ? 贅沢の極みだろ!」


「ちょっと待て! 俺は革命を思いついた! カニとイクラは?!」


「はぁ?! お前、何言ってるんだ?! そんなん、罪に問われるぞ!!!」


 と、なんだか大袈裟なほどに議論は白熱し、ついにはポンコツラーメンのジュリまでもが、


「なんなら、カキピーはどうっすかねぇ?」


 という暴論を投げかけた。


「はぁ?! バカが!! それは無謀だ!」


「そーだそーだ! 米への冒涜だぞ!」


 とヤジが飛ぶ中、隅で思案していた第三王子のミハエルが、ふと静かに呟いた。


「……いや、案外。食感のアクセントとしては、面白いのではないか?」


 王子の真剣な一言に、店内がしんと静まり返った。


 厨房のラルフは、押し寄せるオーダーの波を捌きながら、幸福な悲鳴を心の中で上げていた。


 割と高単価に設定したはずなのに、誰もが迷わず注文を叫んでいる。


(ああ……これ、二十個じゃ、全然足りないわ……)


 職人トニスへ追加発注するリストを、彼は脳内でもう一段階、上方修正した。

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― 新着の感想 ―
ヴラドおじさん、将来は痛風?
構わんGP、でつか。 佳き哉
鉄製が高価なら、 陶器製のおぎ〇や風釜飯容器を作るしか。
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