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居酒屋領主館【書籍化&コミカライズ進行中!!】  作者: ヤマザキゴウ


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315/404

315.Knockin' on Trouble's Door

「ほらよ。これが報酬だ。かなり稼いだじゃないか! また頼むぞ」


 冒険者ギルドのマスター、ヒューズは、まだ幼さが残るスヴェンに、重々しい銅貨の袋を投げ渡した。

 ジャリッ! と威勢のいい音を立てる報酬を前に、スヴェンはただ呆然と目を瞬かせるしかなかった。


 ギルドを出て。同じパーティを組むポラリスとセリナと共に、ロートシュタインの喧騒の中へ一歩踏み出す。柔らかな陽射しが石畳を照らし、賑やかな街のざわめきが三人を取り巻く。


「なんか……。お金、どんどん増えるね……」


 ポラリスが、どこか現実味のない声で呟いた。その幼い声音は困惑のままに揺れている。


「あ、ああ……。うん……」


 スヴェンも同意するが、何がどうしてこうなっているのか、その構造を理解するには、まだ頭が追いつかない。


「また、ハーブ採集に行かなきゃだね……」


 セリナはそう言いながら、黒色獣人族特有の尖った猫耳を、ピクピクと忙しなく動かした。その動きは、彼女の心の戸惑いを如実に表している。


 彼ら三人は、清貧を美徳とする聖教国から、この冒険者の聖地とされるロートシュタインへ出稼ぎに来た。

 心躍るような、物語に描かれる大冒険などではなく、堅実に稼いで故郷へ仕送りをすることが、彼らの至上命題だった。


 だが、現実は彼らが思い描いていたものと、どうにも勝手が違うのだ。


「王国の人達って、本当に"腸詰め"が大好きなんだね……」


 ポラリスが、不思議そうに首を傾げる。


「い、いやぁ……。肉屋のアントニオさんの所でも、腸詰めは作っているみたいだし……。なんでこんなに僕たちのが売れるんだ!?」


 近頃の最大の疑問は、それ一つに尽きる。


 冒険者ギルドでは、オークの肉が毎日、山のように積み上げられ、「"ご自由にお持ちください"」と掲示されている。

 初めてその光景を見た時、スヴェンは(やはり、王国は豊かだ……)と、故郷との違いに驚愕したものだ。それに、オークという、恐ろしい魔獣をこれほど大量に狩る、王国冒険者のレベルの高さにも畏怖の念を抱いた。


 ある日、勇気を出して尋ねてみた。


「あ、あのぅ! コレ、僕たちも貰っても、いいんですか!?」


 ギルマスのヒューズは豪快に笑い、


「あー! いいぞ! いくらでも持ってけ!」


 と応じてくれた。

 その時、なぜか領主様がギルマスに巨大なハリセンで、ぶっ叩かれていたが、スヴェンは見てはいけないものを見た気がして、そそくさと、そのでっかいブロック肉を持ち去ったのだった。


 そんな光景を思い出しながら、三人は目抜き通りを折れ、細い路地へと入っていく。

 彼らの仮の住処は、このロートシュタインの片隅にある。

 クネクネと曲がりくねった石畳の坂道を登りきると、可愛らしい石造りの二階建ての建屋が見えてきた。


 そこが、彼らの今の拠点だ。


 まさか一戸建てを借りられるとは思わなかったが、持ち主であるマリアンヌさんという、ふくよかな女性が、


「"いいの、いいの! あそこはウチの実家なんだけど。ジジもババも水上都市に引っ越したし、勝手に使ってよ!"」


 と、よくわからないが、快く貸してくれた。


 家賃は「テキトーでいい」とのこと。ルーキーは稼ぎが安定しないだろうからと、払える分だけでいいと言われているが、先月末に数十枚の銅貨を持っていったら、


「そんなにいらないよ〜!」


 と、朗らかに拒否されてしまった。

 彼女は、マリアンヌ・ホテルの事務室で、巨大なダイヤモンドの指輪にうっとりとした表情を浮かべていた。

 そして、どう見ても、以前より……太った気がする。

 幼い三人はそれを絶対に指摘しないという、極めて正しい分別はわきまえていた。


「じゃあ。肉はまたいつも通り細かく刻んで。ハーブは、まだあるし……。とりあえず、明日の納品分だけでいいかな」


 セリナが冷静に指示を出す。


 三人は肉を運び込み、早速作業に取り掛かった。


 彼らの仕事は、いつの間にか、聖教国の実家で身につけた"腸詰め作り"になっていた。

 聖教国よりも安価な香辛料と、ギルドで手に入る無料の肉、森に自生するハーブさえも、もちろん無料。故に、その品質は驚くほど高くなってしまった。


 ある日、お世話になっている先輩冒険者に、その自家製腸詰めをお裾分けしたのが、運命の転換点だった。


「あの"腸詰め"、ギルドに納品できないか? できるだけ大量に。あればあるだけ、買い取りたいんだが」


 ギルマスからそう言われた日から、彼らは冒険者というより、"腸詰め職人"と化していた。 


 というより……。何故にギルドが無料で放出している肉を、少しだけ自分達が手を加えるだけで、またギルドが、高値で買い戻すというのか? 

 その経済原理が謎過ぎて、彼らは理解に苦しむしかない。

 しかし、考えても、その不可思議さの結論はでなかった。

 色々議論した結果。……諦めた。

 そして、 スヴェンは、無心に肉をまな板の上で切り刻む。

 ポラリスは、丁寧に乾燥ハーブを刻む。

 セリナは、冒険者ギルドの解体所から無料で貰った腸袋ケーシングを諦念と共に念入りに洗う。


 思っていた冒険者の生活とは程遠いが、金が稼げるならやるしかない。そう思い、作業に没頭していた、


 その時。


 コンコンコン……。


 控えめだが、はっきりとしたノックの音が響いた。


 王国に移り住んで日が浅い彼らに、訪ねてくる人物などいるはずがない。もしかしたら、良からぬ企みを持つ悪人かもしれない。


「二人はそのまま……。俺が出る」


 男は自分一人だけ。この幼い二人を守る使命は、自分が負っている。スヴェンはそう心に決め、扉の前に立った。


「はーい! どちら様!?」


 扉を開ける。すると……。


「みーつけたぁぁぁぁ……」


 不気味で凶悪、だがどこか愉悦に満ちた笑みを浮かべた男が、そこに立っていた。


「ギャァァァぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 あまりの恐怖に、スヴェンは腰を抜かし、よろめきながら後ずさる。

 すると、その来訪者は、


「ちょっとちょっとぉ! 酷いんじゃない? まるで、人を魔物みたいにさぁ〜」


 そう言う人物を見て、スヴェンは再び絶叫した。


「え、えええー?! りょ、りょ、領主さまぁぁ?!」


 それは、このロートシュタイン領の統治者、大魔導士のラルフ・ドーソンだった。


 スヴェンは思った。魔物みたいというより、まさに、魔物そのものに見えたのだ、と……。


「ふっふっふー。やっと突き止めたぜー! ゲルテン・ベイレフェルトさんのホットドッグ屋台に、ソーセージを卸してるの、君達でしょ?」


 ラルフは、満足そうにスヴェンを見下ろす。ポラリスとセリナも、驚愕に固まっていた。


 しかし、セリナが、意を決したように前に出た。


「あ、は、はい……。ベイレフェルトさんからは、香料が強めの腸詰めのオーダーを頂きまして。その……サルビアとか、野蒜を多めに入れたものを、納品しております」


 セリナは取引先の情報を正直に伝えた。領主様に虚偽を伝えれば、この王国から追放されるかもしれないという不安が、彼女の冷静さを保たせた。


 すると、ラルフは、


「ケーケッケッケッケッケ……! そうか、そうかぁ……。見つけたぞぉ〜。この上ない、逸材をなぁ〜!!」


 と、わきわきと十本指を蠢かせながら、その目を怪しく光らせ、スヴェンに迫る。

 その差し迫る得体の知れなさに。いつしか、無自覚に身体が震えていた。


 スヴェンは、いつかギルマスが、やけに強めに。口酸っぱく言ってくれた忠告を思い出した。


「"アイツには……、あ、いや。ラルフ様には、関わらない方がいいぞ。……かなり、いや、……絶対に! 厄介なことにしかならないから……"」


 しかし、その「厄介」が、向こうから戸口に立ってしまった場合、いったい、どう対処すれば良いのかを、誰も彼らに教えてはくれていなかった……。

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― 新着の感想 ―
あの映画のジャック・ニコルソンの狂気の笑顔を幻視してしまった…w 子供脅かすんじゃないよw
ビバップ!
 (*´・д・)アメリカンドックはまだないの?
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