第二話 突然の…
澄み切った空気。
知らない天井が頭上に広がるのを確認して、周りを見渡す。
「ここは……?」
訝しみながら、彼女―実璃は、身体を起こした。いつも寝ている粗悪な寝室とは程遠い広々とした部屋。自身が横たわるベッドはふかふかで軋む音すら聞こえない。
窓はあるが、カーテンが掛けられておりベッドからでは外の景色は見えない。部屋の内装としては、本棚に机にクローゼット、引っ越し仕立ての学生の部屋のように思えた。
カーテンの隙間から朝日が差し込んでいるのを見るに朝と捉えた実璃は、普段と違う服装に着替えていることに気がつく。着替えた記憶はないので、誰かが着替えさせたのだろう。実璃は曖昧になった昨日の出来事を遡る。
―――えっと、確か昨日は……働いた後、疲れていて……
徐々に蘇る記憶。スラムで暮らす実璃は、両手で数える程度の仕事を掛け持ちしている。だが、物価が上がり仕事の稼働時間も増え、ノイローゼ気味になった実璃は仕事のミスで給料を減らされてしまった。
こんな生活が一生続くのかと、不安を覚え倒れ込んだ後、急にエネミーが出現して……
―――そうだ、あの女の子。あの子と会ってからの記憶がない。あの後、私どうしたんだっけ?
状況の把握が途絶えた実璃は、ベッドから抜け出す。疲れが取れていることを理解して、部屋を探索しようとしたところで––
「やっほー。元気っすか! アタシは元気っすよー」
「……!?」
部屋の入り口からいきなり入ってきた人間に、思わず身構える。少し赤みがかった短髪に動きやすそうなパーカーワンピース。背は小ぶりで妙に馴れ馴れしそうな態度は実璃に対して好印象を抱いている。
「やっぱり驚いてる。はぁ、急に出て行くんじゃないわよ、このドアホ」
「痛!」
もう一人、後から入ってきた方には随分と大人しそうな印象を受けた。短髪の方の頭を軽く叩き、場を和ませようとしている少女は、少し身長が高く、茶髪にロングヘアという前者とは全く違う容姿だった。
―――この二人、何者?
訝しむ実璃を他所に、二人の少女は喧嘩を始める。
「アタシ悪いことしてないっすよ。これから友達になるやつに挨拶しただけだし」
「あんたの場合、距離が近すぎるのよ」
「ちがーう。日影の方が慣れてないだけです」
「そんなことないですー」
「あるし」
「ないっすよ」
「ある!」
「ない!」
「はいはーい。二人とも黙ろっか」
静かに透き通った声色が二人の後ろから聞こえる。
「初めまして…、じゃないね。また会えたね、みのりん」
嬉しそうに笑う少女―夢冬奏を見て、実璃はハッとする。服装は変わっているが、紛れもなく本人。丹精な白髪に柔らかい表情は昨日とは良い意味でかけ離れており、三人の中で、特段落ち着いていた。
「夢冬…奏さん?」
名前を呼んだ途端、顔ばせが綻び、奏の綺麗な顔立ちが実璃の目に映る。
自身の命を救ってもらった人間に、実璃はお礼を言った。
「ありがとう、昨日は助けてくれて」
「別にいいよ。あれが私達の仕事だしね」
「仕事…?」
首を傾ける実璃に奏は、優しい声音でこう言った。
「政府が設立した秘密部隊。エネミーに致命傷を与えられる唯一の部隊、」
一息開けて口にする単語は、初めて聞く言葉だった。
「私達は関兵って言うんだ」




