第6話「何をすれば」
魔王城での日々が始まった。
ヴァルは執務室にこもりきりで、ひたすら書類をさばいている。
魔族も王になると書類仕事が増えるらしい。
魔力を貸すというから、常に一緒にいた方がいいのかと思ったが、城の中くらいなら離れて歩いても問題ないらしい。
最初こそ執務室でヴァルの様子を眺めていたリィだが、すぐに飽きて部屋を抜け出した。
ヴァルも側近たちも止めたりしない。
どこそこに行くなとか、何をするなという注意も一切なし。
拘束とか言っていたわりに、彼女は自由だ。
廊下をペタペタと歩く。
長い。
前に歩いたときと思ったけれど、無駄に長い。
「いち、にー、さーん」
思いついて廊下に並ぶドアの数を数えてみた。
「じゅーさん、じゅーよん」
少し疲れてきた。
「……にじゅういち」
少々数が多すぎやしないだろうか。
一体なぜそんなに部屋が必要なのか。
リィにはその理由がわからない。
偉い人には色々事情があるのだろう。
そういえば、とリィは思う。
この城に来てから、ヴァルとジェン以外に魔族を見ていない。
この広い城の中、まさか二人きりということはあるまい。
そこでリィは、ある誘惑に駆られた。
全部のドアを開けてみたらどうだろう。
何が出たところで、どうせ今更怖いものなどない。
21番目のドアにそろそろと近づいてみる。
木製のドアに耳を寄せて窺うが、何の音も聞こえない。
慎重にノブを捻った。
ゆっくりと引いたつもりだったが、ドアはきしむような悲鳴を上げたので、台無しだった。
目だけで覗きこんでみる。
右を見る。年期の入った書棚が並んでいる。どうやら書庫のようだ。古い紙の匂いが漂っていた。
左を見る。やはり書棚だ。すべての段が目一杯埋まっている。
普段は使わない古書などが納めてあるのだろう。
納得したリィが視線を正面に戻すと、目があった。
一瞬、まじまじと見詰め合う。
「う」
「う?」
「ぅわああぁあっ!?」
リィの悲鳴が廊下中に響き渡ったのだった。