第7話「納得がいかない」
結局のところ、リィは目的を果たしたとも言える。
リィの悲鳴で、城の中にいた者たちが「なんだなんだ」と集まってきたからだ。
皆リィの顔見て少しばかり変な顔をしたが、その理由に思い当たってリィは少しばかり困惑する。
魔族と人間は折り合いが悪い。偏見があって当たり前である。
「どうした、騒がしいな」
遠巻きにされながらリィがぽつねんとしていると、騒ぎを聞きつけた魔王までが現れた。
「リィ?」
「ヴァル」
リィの前で足を止めたヴァルは眉を寄せる。
「どうした」
問われてリィは悲鳴の理由を思い出した。
半開きになっているドアを震える指で指す
「そこ、そこの扉の中に」
「傷つくなー、その反応。急に開けたのはそっちでしょー」
ひょいっと中から声の主が現れて、リィは思わずびくりとすくんだ。
その顔を見て、驚くなという方が無理だろう。
現れたのは、何とも形容し難い格好の者だった。
表現するなら、ヒトの頭に黒い布を被せ、首の所を括ったような……。
昔見たあれに似ているとリィは気づいた。案山子だ。
「シリル」
「あれー? 我が君どうしてこちらへ?」
ヴァルが話しかけると、布に空いた穴から覗く赤色の瞳がちろりと彼を見た。知り合いのようだ。
「それはこちらの台詞だ」
つかつかと歩み寄ったヴァルは、布をガッチリ掴んだ。即ち案山子の頭を捕まえている。
「シリル。今日は隊舎に詰めているはずだろう」
「えー、飽きちゃいましたぁ」
「主、いうだけ無駄ですよ」
追い付いてきたジェンも交え、言い合いが始まる。
リィが遠巻きに見ていると、不意に案山子の首がこちらを向いた。
「我が君ー、その子誰です? 隠し子?」
「違うっ」
黙っていられずに突っ込んでしまう。
そもそも隠し子って……ヴァルは20代にしか見えない。
「城で保護した。しばらく預かる」
対外的にはそういう扱いなのか、とリィは納得する。リィにとってはどうでもよいことだが。
魔王が自ら宣言したことで、彼女に向けられる視線をが僅かだが和らぐ。
やはり魔王というのは力のあるものなのだと実感する。
「……気に入らないなぁ」
呟いた案山子の視線がねぶるようにリィを観察した。
リィが見返すと、案山子はフッと笑った。口許は見えないから気配だけだが。
そしてくるりと背を向ける。
すたすたと歩き去る彼を特に咎めるでもなく見送って、ヴァルがリィを見た。
真顔ですっと廊下の奥を指差す。
「手洗いならあっちだ」
「違う!」
結局、案山子がなぜ部屋の中にいたのかはわからずじまいだった。




