第五章 第三話 本物の牛丼を知る者
監視室。
◇
大量のモニター。
◇
大量のドッキリ映像。
◇
大量のカップ酒。
◇
そして。
《牛丼自動販売機 Ver.784》
◇
おっさんはその前に立っていた。
「……」
◇
震えていた。
「牛丼だ」
◇
十年以上追い続けた夢。
◇
異世界に来てからも諦めなかった夢。
◇
その夢が目の前にある。
「牛丼だぁぁぁ!」
◇
感極まっていた。
チャリン。
◇
金貨投入。
《ERROR》
◇
即終了。
「何でだ!」
◇
おっさん絶叫。
管理人は酒を飲む。
ゴクッ。
「だから言ったろ」
◇
のんびりしていた。
「材料不足」
「自販機だろ!」
「自販機や」
「なら作れ!」
「作れん」
◇
会話にならなかった。
牛丼自販機の中身
管理人が壁を触る。
ぺたっ
◇
牛丼自販機が開く。
ガコン
◇
全員覗き込む。
「おおっ!」
◇
おっさん感動。
◇
中には。
巨大な鍋。
炊飯器。
謎の歯車。
魔法陣。
大量の古代文字。
◇
そして。
小さな湯切りザル。
◇
なぜかラーメン屋っぽかった。
「何だこれ」
◇
管理人が胸を張る。
「古代王最高傑作」
◇
嫌な予感しかしない。
古代王の狂気
管理人は説明する。
「アレクシスは牛丼を再現しようとした」
◇
おっさん頷く。
「失敗した」
◇
頷く。
「また挑戦した」
◇
頷く。
「失敗した」
◇
頷く。
「また挑戦した」
◇
頷く。
「失敗した」
◇
頷く。
「また挑戦した」
「もういい」
◇
おっさんが止めた。
管理人は続ける。
「一万回くらい」
◇
沈黙。
「何回?」
「一万回」
◇
狂人だった。
『狂人やな』
◇
チャッピーも認定した。
魔王も挑戦した
管理人が続ける。
「魔王もやった」
◇
おっさん停止。
「魔王も?」
「うむ」
◇
酒を飲む。
ゴクッ。
「五千年挑戦した」
◇
全員停止。
「五千年?」
「うむ」
◇
さらに狂人だった。
「世界征服は?」
◇
管理人が首を傾げる。
「ついで」
◇
最低だった。
判定システム
おっさんは自販機を叩く。
コンコン
「何が足りないんだ」
◇
管理人が指差す。
小さな注意書き。
《本物の牛丼を知る者のみ使用可能》
◇
沈黙。
「意味が分からん」
◇
管理人頷く。
「ワシもそう思う」
◇
作った本人じゃないので他人事だった。
「つまり?」
◇
管理人が言う。
「味を知らん奴は認証されん」
◇
おっさん固まる。
「認証?」
「うむ」
「味で?」
「うむ」
◇
どうかしていた。
管理人の過去
その時。
◇
ミリアが聞く。
「管理人さんは挑戦したんですか?」
◇
珍しく管理人が黙る。
◇
酒を置く。
◇
少しだけ真面目な顔。
「した」
◇
静かだった。
「失敗した」
◇
風が吹く。
「何回?」
◇
管理人は遠くを見る。
「数えとらん」
◇
嫌な答えだった。
◇
おっさんが思う。
(この人も重症だ)
◇
全員重症だった。
一万年醤油
管理人が立ち上がる。
「見せてやる」
◇
全員ついて行く。
◇
迷宮の奥。
◇
巨大な扉。
◇
神殿のような空間。
◇
扉が開く。
ゴゴゴゴゴ……
◇
中にあったもの。
巨大な樽。
◇
山のように大きい。
◇
城より大きい。
「でかっ!」
◇
ミリアも驚く。
◇
香りが漂う。
◇
濃厚。
◇
深い。
◇
圧倒的。
◇
おっさん涙目。
「醤油……」
◇
ついに。
◇
ついに見つけた。
◇
手を伸ばす。
◇
あと少し。
◇
その瞬間。
バチィィィィン!!
◇
結界発動。
ドゴォォォン!!
◇
おっさん吹き飛ぶ。
壁に刺さる。
「痛ぁぁぁ!」
◇
管理人頷く。
「触れん」
「何で!」
「認証されてない」
◇
最悪だった。
絶望
管理人が説明する。
「牛丼自販機を起動できれば」
◇
頷く。
「醤油を使える」
◇
頷く。
「起動できなければ使えん」
◇
頷く。
「つまり」
◇
おっさんが言う。
「牛丼を作らないと醤油が取れない」
「そう」
「醤油が無いと牛丼が作れない」
「そう」
◇
沈黙。
◇
チャッピーが言う。
『詰んどるやん』
◇
管理人。
「詰んどる」
◇
即答だった。
希望
絶望する一同。
◇
しかし管理人は笑う。
「ただし」
◇
全員顔を上げる。
「方法はある」
◇
静寂。
「本物の牛丼を食った奴の記憶を見るんや」
◇
全員停止。
◇
そして。
◇
全員がおっさんを見る。
「俺?」
◇
管理人頷く。
「お前や」
◇
おっさん困る。
「最後に食べたの十年以上前だぞ」
◇
管理人はニヤリと笑った。
「十分や」
◇
そしてチャッピーを見る。
「そのポンコツなら記憶を掘れるかもしれん」
『ポンコツ言うな』
◇
チャッピーが抗議する。
◇
だがその時。
◇
誰も気付いていなかった。
◇
チャッピーの画面の端に。
《WARNING》
《MEMORY ACCESS LIMIT》
◇
赤い警告が点灯していたことを。
◇
これが後に起きる、
チャッピー完全停止事件の始まりだった。
第五章 第三話 完




