第五章 第二話 迷宮管理人
「ろくでもない奴だ」
◇
おっさんは目の前の老人を見た。
◇
白い髭。
◇
ボロボロの服。
◇
仙人みたいな見た目。
◇
しかし手にはカップ酒。
プシュッ
◇
二本目だった。
「お前が管理人か」
「そう」
◇
老人は即答した。
「最終迷宮管理人」
◇
胸を張る。
「偉い」
◇
全然偉そうに見えなかった。
「迷宮管理人なら道くらい分かるだろ」
◇
老人は首を傾げた。
「どこの道?」
◇
沈黙。
「この迷宮だ!」
◇
老人は考える。
五秒。
十秒。
十五秒。
「分からん」
◇
全員転倒した。
管理人の日常
監視室へ案内される。
◇
大量のモニター。
◇
落とし穴映像。
◇
歴代ドッキリ映像。
◇
壁には写真。
古代王アレクシス
落とし穴に落ちる瞬間。
魔王グランディア
顔面から小麦粉へ突っ込む瞬間。
初代聖女
派手に転ぶ瞬間。
◇
全部飾られていた。
「最低だな」
『最低やな』
◇
管理人は満足そうだった。
「傑作集」
◇
趣味が悪かった。
落胆銀行
その時。
◇
管理人が立ち上がる。
「金がない」
◇
壁へ向かう。
ぺたっ
◇
壁が光る。
ガコン
◇
ATM出現。
《落胆銀行》
◇
嫌な名前だった。
「何だそれ」
「銀行」
◇
見れば分かった。
管理人がカードを入れる。
ピッ
◇
金貨が出てくる。
ガシャガシャ
◇
かなり出てきた。
「そんなに必要か?」
「酒代」
◇
即答だった。
自動販売機
管理人は別の壁へ向かう。
ぺたっ
◇
また壁が光る。
ガコン
◇
自動販売機出現。
◇
商品一覧。
カップ酒
カップ酒
カップ酒
カップ酒
高級カップ酒
◇
酒しか無かった。
「偏ってるな」
「人気商品」
◇
管理人が購入する。
プシュッ
◇
三本目だった。
「飲むか?」
◇
差し出される。
「飲まない」
◇
おっさん即答。
「仕事中だ」
◇
チャッピーが感動した。
『成長したな』
◇
しかし次の瞬間。
「牛丼なら食う」
◇
即答だった。
『成長してへん』
発見
その瞬間だった。
◇
おっさんの目が止まる。
「……」
◇
監視室の奥。
◇
見覚えのない機械。
◇
近付く。
◇
読む。
《牛丼自動販売機 Ver.784》
◇
停止。
◇
思考停止。
◇
さらに停止。
「チャッピー」
『何や』
「見えるか」
『見える』
「夢じゃないな」
『夢やったらワシも見とる』
◇
現実だった。
牛丼との再会
おっさんは震えていた。
◇
十年以上。
◇
ずっと探していた。
◇
牛丼。
◇
その文字が目の前にある。
商品一覧。
牛丼(並)
牛丼(大)
牛丼(特盛)
牛丼(メガ盛)
◇
涙が出た。
「ついに……」
◇
長かった。
「ついに……」
◇
手を伸ばす。
「牛丼だぁぁぁぁ!」
◇
叫んだ。
エラー
金貨投入。
チャリン
◇
画面が光る。
《ERROR》
◇
停止。
「え?」
◇
もう一回。
チャリン
《ERROR》
◇
停止。
「何でだ!」
◇
管理人が酒を飲みながら答える。
「材料不足」
◇
全員停止。
「牛丼自販機だろ!?」
「そう」
「材料あるだろ!?」
「無い」
◇
意味不明だった。
真実
管理人が立ち上がる。
◇
珍しく真面目な顔。
「肉はある」
◇
頷く。
「玉ねぎもある」
◇
頷く。
「米もある」
◇
頷く。
「醤油もある」
◇
おっさん停止。
「あるのか!?」
◇
叫ぶ。
「一万年醤油」
◇
伝説だった。
◇
本当に存在した。
「じゃあ作れよ!」
◇
おっさん叫ぶ。
管理人は首を振る。
「最後の材料が足りない」
◇
沈黙。
「何だ」
◇
管理人が自販機を指差す。
◇
小さな注意書き。
《本物の牛丼を知る者のみ使用可能》
◇
全員停止。
「は?」
◇
管理人は笑う。
「この自販機な」
◇
酒を飲む。
ゴクッ。
「味を知ってる奴しか使えない」
◇
意味不明だった。
◇
だが。
◇
もっと恐ろしいことに。
「ワシも失敗した」
◇
管理人。
「アレクシスも失敗した」
◇
古代王。
「魔王も失敗した」
◇
魔王。
「聖女も失敗した」
◇
全員失敗していた。
「じゃあ誰が成功するんだ」
◇
管理人がニヤリと笑う。
「だから待ってた」
◇
静寂。
「お前をな」
◇
風が吹く。
◇
チャッピーが珍しく黙る。
◇
ミリアも黙る。
◇
管理人の目だけが真剣だった。
「十年以上牛丼を探し続けた馬鹿」
◇
おっさん停止。
「そんな馬鹿なら」
◇
管理人が牛丼自販機を軽く叩く。
コン。
「あるいは成功するかもしれん」
◇
そう言って。
◇
また酒を開けた。
プシュッ
「でもまずは一杯飲むか?」
◇
全然締まらなかった。
◇
だが、おっさんは確信する。
この酔っ払い。
ただの管理人ではない。
◇
古代王も。
◇
魔王も。
◇
聖女も。
全員が会ったことのある、
牛丼への道を知る最後の男だった。
第五章 第二話 完




