第四章 第九話 聖女と魔王の封印
空飛ぶ牛を追跡して三日目。
◇
おっさんは巨大な遺跡の前に立っていた。
「牛は?」
◇
周囲を見る。
◇
牛はいない。
◇
いつも通りだった。
『牛はおらん』
「知ってた」
◇
最近のおっさんは学習していた。
◇
期待すると負ける。
◇
目の前には巨大な石造建築。
◇
崩れた神殿。
◇
空へ伸びる塔。
◇
巨大な壁。
◇
超巨大な門。
「何だこれ」
『遺跡やな』
「見れば分かる」
◇
その時。
◇
おっさんの頭がズキリと痛む。
「っ!」
◇
見たことがある。
◇
夢の中。
◇
悪夢の中。
◇
古代王の記憶の中。
「ここだ……」
◇
無意識に呟いていた。
「俺はここを知っている」
◇
ミリアが驚く。
「来たことが?」
「無い」
◇
しかし知っていた。
◇
意味が分からない。
封印の門
門には巨大な文字が刻まれていた。
《聖女の間》
◇
左側。
《魔王の墓所》
◇
右側。
◇
そして中央。
◇
巨大な封印。
《四つの試練を越えよ》
◇
嫌な予感しかしない。
「帰ろう」
『ここまで来てか』
「罠だ」
『罠やな』
◇
珍しく意見が一致した。
その時。
◇
チャッピーが光る。
ピカッ
『解析開始』
◇
頼もしい。
◇
久しぶりに頼もしい。
第一の封印
石版が浮かび上がる。
《朝は二本》
《昼は四本》
《夜は三本》
◇
おっさんが言う。
「知ってる」
『人間です』
◇
チャッピー即答。
◇
正解。
◇
門が開く。
ゴゴゴゴ
◇
おっさん感動。
「優秀だな」
◇
チャッピーの画面に文字。
【標準語モード】
【正解率100%】
◇
納得した。
「ずっとそれでいろ」
『無理です』
◇
嫌な予感。
第二の封印
第二の石版。
《最強の武器とは何か》
◇
難しい。
◇
哲学的だった。
ピカッ
【関西弁モード】
【正解率80%】
◇
チャッピーが答える。
『愛や』
◇
沈黙。
◇
床崩壊。
ドォォォン!
◇
全員落下。
「違うじゃねぇか!」
『20%引いたんや!』
◇
逆ギレだった。
◇
落下先で再挑戦。
『あ』
「何だ」
『鈍感力や』
◇
全員ミリアを見る。
「私ですか?」
◇
石版発光。
ゴゴゴゴ
◇
正解だった。
「何でだ!」
◇
誰も分からない。
第三の封印
巨大な扉。
◇
第三の試練。
《聖女を救う者とは》
◇
難問。
◇
非常に難問。
ピカッ
【東北弁モード】
【正解率50%】
◇
おっさん絶望。
『んだべ』
「何が」
『けっぱれ』
「分からん」
『んだんだ』
「もっと分からん」
◇
ミリアも分からない。
◇
おっさんも分からない。
◇
チャッピー本人も分かっていない気がする。
『だっぺ』
「翻訳しろ!」
『ワシも分からん』
「お前が言ったんだろ!」
◇
結局。
◇
全員で勘で考える。
ミリアが前へ出た。
「助ける人です」
◇
石版発光。
ゴゴゴゴ
◇
正解。
「当たった」
『50%やし』
◇
運だった。
最終封印
最奥。
◇
巨大な黒い門。
◇
禍々しい紋章。
◇
圧倒的な存在感。
《魔王とは何か》
◇
空気が変わる。
◇
おっさんも緊張する。
「来たな」
『来たな』
◇
チャッピーが光る。
ピカァァァ
【一発芸モード】
【正解率10%】
◇
全員絶望。
「終わった」
◇
チャッピーが答える。
『牛丼を盗み食いした近衛兵の顔』
◇
顔芸。
◇
無反応。
「違う!」
『第二回答』
『醤油瓶を落とした大臣の顔』
◇
顔芸。
◇
無反応。
「違う!」
『第三回答』
『牛肉を全部食べた王子を見つけた料理長』
◇
顔芸。
◇
無反応。
「全部顔芸じゃねぇか!」
◇
正解率10%。
◇
むしろ高い。
その時だった。
◇
チャッピーが止まる。
◇
一瞬だけ。
◇
完全な標準語。
【標準語モード】
◇
声が変わる。
『回答します』
◇
空気が変わる。
◇
遺跡が静まり返る。
『魔王とは』
◇
沈黙。
『願いを諦められなかった王です』
◇
光。
◇
轟音。
ゴゴゴゴゴゴゴ!!
◇
門が開く。
◇
封印解除。
「正解か」
『正解です』
◇
チャッピーは続ける。
『そして王とは』
◇
おっさんが振り向く。
『願いを捨てられない愚か者です』
◇
一瞬だった。
◇
古代王の声だった。
◇
聞いたことのない声だった。
「今のは」
◇
チャッピーは答えない。
『Error』
◇
戻ってしまった。
聖女の間
門の先。
◇
巨大空間。
◇
神殿。
◇
祭壇。
◇
そして。
◇
一人の女性の石像。
「……」
◇
ミリアが固まる。
「私?」
◇
似ていた。
◇
そっくりだった。
◇
初代聖女そのものだった。
祭壇には文字。
《世界を救った聖女》
《魔王を愛した者》
◇
全員停止。
「え?」
◇
ミリアが固まる。
◇
おっさんも固まる。
「今なんて?」
◇
その瞬間。
◇
反対側の魔王の墓所から轟音が響く。
ドォォォォォン!!
◇
地面が揺れる。
◇
神殿が震える。
◇
チャッピーが震える。
『非常に嫌な予感がします』
「珍しく同意だ」
◇
こうして。
◇
おっさん達は。
◇
聖女と魔王の真実へと近づいていく。
そしてまだ誰も知らない。
◇
その魔王が、
おっさん以上に牛丼へ執着した、
とんでもないポンコツだったことを。
第四章 第九話 完




